降格人事とは、役職や職務等級を引き下げる施策です。主に組織の再編成や従業員の能力不足、不祥事などが原因で実施されます。
ただし、降格人事は従業員のモチベーション低下やトラブルを引き起こすリスクがあるため、適切な進め方で実施することが重要です。
本記事では、降格人事の基本概念や具体的な処分内容、正しい手続きの流れを解説します。
人事担当者は、降格人事の種類や注意点を正しく理解し、適切に運用できるようにしておきましょう。
目次
降格人事とは

降格人事とは、従業員の役職や職務等級(グレード)を、現在よりも下位に変更する人事上の措置のことです。企業の経営戦略や組織再編の一環として行われる場合と、従業員の能力不足・業務遂行上の問題・就業規則違反などへの対応として実施される場合があります。
また、多くの場合、役職手当の減額など待遇面での変更もともないます。いずれの場合も従業員にとって不利益な変更になるため、モチベーションの低下やトラブルに発展しやすい措置です。
そのため、企業は就業規則で明確な基準を定めること、および透明性のある手続きを経て降格を実施することが重要です。
降格人事の種類
降格人事には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 人事降格
- 懲戒処分
それぞれの内容と具体的な対応を、詳しく見ていきましょう。
人事降格
人事降格とは、従業員の役職や等級(グレード)を下げる人事措置のことです。能力不足や就業規則違反に対する対応、または組織再編や経営戦略上の理由で行われる場合があります。
人事降格には、大きく分けて「降職(解任)」「降格(降級)」の2種類があります。
降職(解任)
降職(解任)は部長から課長へ、課長から一般社員へのように役職を下げる人事措置のことです。
例えば、部長職から課長職へ降職する場合、それまで担当していた管理業務の範囲や指揮命令権限、責任の度合いが変化します。
そして、降職にともなって役職手当が減額されるのが一般的です。場合によっては、基本給や賞与の支給条件にも変更が生じることもあります。
降格(降級)
降格(降級)とは、等級制度において、従業員の役職や等級(グレード)を現在よりも下位に引き下げる人事上の措置のことです。
等級制度には、職能資格制度、職務等級制度、役割等級制度などがあり、それぞれに応じて等級が定められ、処遇(給与・賞与・昇進など)が決まります。等級が下がると、基本給や賞与の減額など、待遇に影響が出ることがあります。
降格(降級)の主な目的は、従業員の能力に見合った業務への配置や能力開発です。懲戒処分としての降級だけでなく、組織再編や配置転換の一環として実施されるケースもあります。
懲戒処分
懲戒処分とは、従業員が企業秩序に違反する行為を行った際に科される制裁措置のことです。企業は就業規則で懲戒の対象となる事由や処分の種類をあらかじめ定めており、従業員が違反した場合に適用されます。
懲戒処分が発生する事由には、以下のものがあります。
懲戒事由 | 具体例 |
---|---|
不正行為 | ・横領 ・背任 ・虚偽報告 |
重大な過失 | ・重要な業務ミス ・機密情報の漏洩 |
ハラスメント | ・パワーハラスメント ・セクシュアルハラスメント ・モラルハラスメント |
勤務態度 | ・無断欠勤 ・遅刻の常習化 |
就業規則に定めた懲戒事由に該当する場合、懲戒としての降格処分が下されます。
人事担当者は違反行為の程度と従業員の反省を考慮し、処分内容を決定します。
降格人事を行う3つのケース
降格人事を行うのは、主に以下3つのケースです。
- 成績不振による人事降格
- 配置転換による人事降格
- 過失や悪質な勤務態度による懲戒降格
順番に解説します。
1. 成績不振による人事降格
従業員が継続的に業績目標を達成できない場合、能力と現在の役職との間にミスマッチがあると判断し、人事降格を実施するケースがあります。
処罰的な意味合いではなく、従業員が能力をより発揮できる職務や役職へと配置し直すことで、組織全体の生産性・効率性を高めることが目的です。
ただし、降格の判断には、以下のように職種ごとの明確な評価基準が必要です。
職種 | 評価基準 |
---|---|
営業職 | 売上目標の達成率、新規顧客の獲得数や商談成立率 |
事務職 | 書類のミス率や期限遵守、業務処理のスピードと件数 |
職種ごとに適切な評価基準を設けたうえで、定期的に人事評価を行い、従業員一人ひとりの能力や実績を把握しましょう。
そして、必要に応じて降格を含む配置転換を検討し、適材適所の人員配置と組織の最適化を図ります。
2. 配置転換による人事降格
企業の組織再編や新規事業の立ち上げ、部門統合などの配置転換にともない、降格が発生するケースがあります。
例えば、管理職から専門職へ・技術職から事務職への異動など、職務内容が大きく変更されることもあるでしょう。人事担当者は従業員の適性や能力を見極めたうえで、新たな職務を遂行できるかどうかを慎重に判断し、人事上の措置として降格を行うことがあります。
処遇の変化だけでなく、個々のキャリア形成やモチベーションにも影響するため、本人との丁寧な対話やフォローアップが重要です。
3. 過失や悪質な勤務態度による懲戒降格
懲戒処分としての降格は、従業員の重大な違反行為に対して行われる制裁措置の一つです。
主に、就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為があった場合に適用されます。
違反行為 | 具体例 | 目的 |
---|---|---|
勤務態度の問題 | 遅刻・欠勤の繰り返し | 規律の維持 |
上司との関係 | 不服従・命令違反 | 組織秩序の確保 |
職場環境 | ハラスメント行為 | 職場環境の改善 |
なお懲戒降格は、就業規則で定めた懲戒事由に該当する場合のみ可能です。問題行動の事実を調査し、証拠を集めてから処分を決定します。
降格人事が違法にあたるケース
降格は企業の人事権の範囲内で認められた措置ですが、運用方法によっては違法と判断されるケースもあります。
降格人事が違法にあたるケースは、以下のとおりです。
- 就業規則に降格に関する規定が明記されていない場合
- 判断基準が不明確・不合理であると判断された場合
- 本人に事前の説明や弁明の機会を与えていない場合
- 退職を促すために降格を行った場合
- 見せしめや懲罰的な目的で降格を行った場合
- 配置転換によって育児・介護に著しい支障が出る場合
- 差別的な意図がある降格(性別・年齢・信条など)
降格を実施する際には法令を遵守し、合理的な理由と適切な手続きを踏まえたうえで実施する必要があります。
不適切な対応は、従業員とのトラブルや法的リスクを招く恐れがあるため、慎重に運用しましょう。
降格人事の処分内容
降格人事の処分内容は、以下のとおりです。
- 減給
- ポストのみの変更
順番に解説します。
減給
降格人事は、役職や職務等級の引き下げにともない、給与が減額されるケースが一般的です。
降格による減給には、主に以下の2パターンがあります。
降格の種類 | 概要 |
---|---|
降職(解任) | 役職が外される(例:部長 → 課長)。基本給は同じでも、役職手当が減るため給与が下がる。 |
降格(降級) | 等級が下がる。基本給が減るのが一般的だが、異動によって給与の低い仕事に変わる場合もある。 |
なお、労働基準法第91条にて、1回の減給額は平均賃金の1日分の半額以内・総額は1賃金支払期における賃金総額の10分の1以内と定められています。これは、従業員の生活を保護するためです。
ただし、人事降格にともなう減給は、制裁ではなく役職・等級に応じた処遇変更であるため、必ずしも制限を受けるものではありません。
とはいえ、実質的に懲戒とみなされる場合は、労働基準法第91条の制限が適用される可能性があるため、人事担当者は慎重な対応が求められます。
ポストのみの変更(減給なし)
ポストのみの変更とは、役職は下がるものの、給与はそのまま維持されるケースです。管理職から専門職への配置転換など、職務内容が大きく変わる際に適用されることがあります。
ポストのみの変更は、従業員の専門性を生かし、モチベーションやパフォーマンスの向上を図るための措置です。
降格人事の手続きの流れ
降格人事でトラブルに発展しないためにも、正しい手順での手続きが重要です。
ここでは、降格人事の手続きの流れを解説します。
- 降格理由の事実を確認する
- 降格対象者と面談をする
- 降格の処分内容を検討する
- 処分内容を通達する
それぞれの手続きを、詳しく見ていきましょう。
降格理由の事実を確認する
降格は従業員の処遇に大きく関わる判断のため、理由を客観的に示す証拠の収集と適切な保管が不可欠です。後のトラブルを防ぐだけでなく、本人への説明責任を果たし、公平性を保つためにも重要です。
具体的な証拠は、以下のような資料を収集します。
区分 | 必要な証拠資料 |
---|---|
成績不振の場合 | ・売上データ(月次推移・目標との比較) ・目標の達成状況(具体的な数値とその評価) ・上司の評価(定期面談記録・業務改善指導の記録) |
懲戒処分の場合 | ・問題行動の報告書(日時・場所・状況の詳細) ・関係者の証言(日付入り署名付きの陳述書) ・防犯カメラの映像(データの保存期限に注意) |
各資料は、日付や関係者の署名など、信頼性を担保できる形で保管しましょう。
降格対象者と面談をする
降格の事実確認後は、対象者との面談を行います。面談は一方的な通告ではなく、相互理解と納得形成のための対話の場として活用してください。
また、面談時は以下の点に注意して進めましょう。
- 降格の目的が「理由の説明」と「意見の聴取」であることを冒頭で伝える
- 数値や記録など具体的な証拠に基づいて理由を説明する
- 本人に弁明や反論の機会を与える
- 改善の可能性や今後の方向性を前向きに話し合う
- 状況によっては、複数回の面談を行うことも検討する
- 発言内容や合意事項は、面談記録として文書に残す
- 面談はプライバシーに配慮した環境で実施する
- 感情的にならず、冷静で丁寧な対話を心がける
人事担当者の対応姿勢は、従業員本人のモチベーションや納得感、職場全体の士気にも影響します。相手への敬意を忘れず、誠実かつ慎重に進めることが大切です。
降格の処分内容を検討する
次に、処分内容を検討しましょう。
降格の程度や減給の有無・金額を決める際は、降格の理由や本人の状況、過去の事例などを総合的に判断する必要があります。
判断する際は人事部門だけでなく、法務部門や労働組合とも連携しながら慎重に進めましょう。適切な手続きと配慮が、トラブル防止と従業員の納得感につながります。
処分内容を通達する
降格の処分内容は、対象者に必ず書面で通知します。
口頭だけの伝達では、後に「言った・言わない」のトラブルにつながるおそれがあるため、文書による通知で記録を残すことが重要です。
通知書には、降格の理由・処分の内容・異議申し立てが可能な場合はその期限など、必要な事項を明記しましょう。
降格人事を行う場合の3つの注意点
降格人事は、従業員のモチベーションや生活に大きな影響を与えます。
そのため、以下の点に注意して慎重に進めましょう。
- 就業規則に明記する
- 降格理由の根拠を集める
- 人事権や懲戒権の濫用に注意する
順番に解説します。
1. 就業規則に明記する
就業規則には、以下のような降格に関する規定を明確に記載しましょう。
- どのような場合に降格になるのか
- どのような手順で手続きするのか
- 降格後の給与や待遇はどうなるのか
上記を具体的に定めておくと公平な人事運用が可能となり、トラブルの予防にもつながります。
また、新たに規定を設ける場合は、従業員代表との協議や労働基準監督署への届出など、法令に基づいた手続きをきちんと行ってください。
2. 降格理由の根拠を集める
降格を決定するには、明確な根拠と客観的な証拠が不可欠です。
成績不振による降格では、人事評価や目標達成度、営業成績の推移などのデータに加えて、本人の能力や勤務態度に関する記録が必要です。
また、企業側の支援体制に問題がなかったことも示さなければなりません。
懲戒による降格は、問題行為を証明する証拠(聞き取り記録、業務メール、調査結果など)を集めて、処分の正当性を示すことが重要です。
3. 人事権や懲戒権の濫用に注意する
降格人事は企業の人事権や懲戒権の範囲内で行えますが、その決定が権利の濫用と判断されれば無効になる可能性があります。
例えば、個人的な感情による判断や、退職を促す・見せしめにするなど不当な目的での降格は、明らかな権利の濫用です。
そのため、降格を行う際は、客観的な事実に基づく公平な判断が不可欠です。従業員が現在のポストに不適格である理由や、業務上の必要性を具体的に示す証拠が求められます。
降格の人事は慎重に
降格人事は、従業員のキャリアや生活に大きく影響する重要な決定です。
そのため、企業は労働法令を守りながら就業規則に沿った適切な手続きと、理由・目的の丁寧な説明による納得形成が欠かせません。
明確な目的のもと、従業員の能力開発やキャリア支援の視点を持つことが重要です。
あわせて、降格後のフォロー体制を整え、再び活躍できる環境と公正な評価制度の運用を通じて、従業員の意欲と成長を支えましょう。
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