日本企業では長年、年齢や勤続年数を評価基準とする「年功序列制度」が採用されてきました。年功序列制度は、安定したキャリアの提供や長期的な人材育成を目的とした仕組みです。
しかし、少子高齢化やグローバル競争の激化によって効果が薄れつつあり、多くの企業が見直しを進めています。
成果主義の導入が進むなか、年功序列制度にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
本記事では、年功序列制度の特徴や導入の背景から、維持・廃止の判断ポイントまで解説します。
目次
年功序列制度とは
年功序列制度とは、社員の年齢や勤続年数を評価基準にして、役職や賃金を決定する人事制度のことです。勤続年数が長いほど経験やスキルが蓄積され、会社への貢献度が高まるという考えに基づいています。
日本企業の間で長く採用されてきましたが、少子高齢化やグローバル競争の激化によって、制度の見直しが進んでいるのが現状です。多くの企業が、成果主義を取り入れた柔軟な人事管理を目指し、従業員のモチベーション向上や組織の競争力強化に取り組んでいます。
年功序列制度が導入された背景
年功序列制度が日本企業に定着した背景には、高度経済成長期(1950〜60年代)の経済状況が関係しています。
当時、企業の業績拡大にともない、安定した労働力の確保が急務になっていました。そのため、長期間働く社員の安定を重視し、年齢や勤続年数に応じて役職や給与が上がる年功序列制度を採用。
結果、社員は安心して長く働き続けるようになり、企業も経験豊富な人材を継続的に活用できました。
しかし、バブル崩壊後の経済停滞や少子高齢化、グローバル競争の激化によって年功序列制度の維持が難しくなります。そして現在、成果主義などの新たな制度が注目されるようになりました。
成果主義との違い
年功序列と成果主義の違いは、以下のとおりです。
項目 | 年功序列制度 | 成果主義 |
---|---|---|
評価基準 | 勤続年数や年齢 | 業績や成果 |
報酬の決定方法 | 自動的に昇給 | 成果に応じてインセンティブが発生 |
特徴 | 長期的な育成により、安定したキャリアが手に入りやすい | 短期的な成果に基づいて昇進できる |
年齢や勤続年数を基準に評価する年功序列制度は、社員の定着率が高く、長期的な人材育成が可能です。
一方、成果主義は社員の実績や業績を評価基準とし、成果に応じて報酬や昇進が決まるため、若手でも結果次第で早期に昇進できます。
年功序列制度と成果主義にはそれぞれ異なる特徴があるため、企業は自社の目的や状況に応じて適切な制度を選択しましょう。
年功序列制度を廃止する企業が増えた理由
年功序列制度を廃止する企業が増えている背景には、終身雇用制度の崩壊が関係しています。
バブル崩壊後、経済の低迷が続くなかで、企業は長期的に人件費を保証する終身雇用を維持できなくなりました。さらに、労働力人口の減少によって若手の採用が難しくなるなかで、企業は成果やスキルに応じた柔軟な評価制度を求めるようになっています。
加えて、若手人材のキャリア志向も変化し、長期的な安定よりも成果に見合った報酬やキャリアアップを重視する傾向が強まっているのも1つの要因です。
経済環境の変化や労働市場のニーズに対応するため、多くの企業が年功序列制度を見直し、成果主義への移行を進めています。
年功序列制度の3つのデメリット
次に、年功序列制度のデメリットを3つ紹介します。
- 若手社員の離職率が高まる
- 社員の高齢化により人件費が高くなる
- 企業の競争力が低下する
年功序列制度のデメリットを理解して、新たな評価制度を導入する際の参考にしてください。
1.若手社員の離職率が高まる
年功序列制度を導入すると、若手社員の離職率が高まります。年齢や勤続年数が評価基準になるため、成果を上げても若手社員が正当に評価されにくい傾向があるためです。
結果、実力や成果に見合った昇進や昇給が期待できないと感じ、キャリアアップを求めて転職を選ぶ若手社員が増えるでしょう。
また、年上の社員が優先される風潮に不満を抱くことも離職の一因です。特に成長意欲の高い若手にとって、成果が評価されない環境はモチベーションの低下を招き、早期離職につながりやすくなります。
2.社員の高齢化により人件費が高くなる
年功序列制度では、勤続年数に応じて給与が自動的に増加するため、組織の人材が高齢化するほど人件費が膨らみます。
経済成長が鈍化している現代では、業績の伸びが人件費の増加に追いつかず、企業経営に深刻な負担をもたらすでしょう。
また、高齢社員への昇給や退職金の支払いは固定費としての割合が大きく、新たな人材の採用や教育にかける予算を圧迫します。結果、若手社員の育成や新規事業への投資が滞り、企業の競争力が低下するリスクが高まります。
3.企業の競争力が低下する
年功序列制度では、企業の競争力が低下する可能性があります。成果よりも勤続年数を重視する仕組みのため、社員の成長意欲やチャレンジ精神が低下しやすくなるためです。
結果、企業全体が保守的になり、新しい技術やビジネスモデルへの適応が遅れる傾向があります。
また、成果に応じた報酬制度がなければ優秀な人材が競合他社へ流出することでも、企業の競争力が低下するおそれもあります。
特にグローバル化が進む現代では、スピーディな意思決定とイノベーションが求められるため、年功序列制度の枠組みが障害になることもあるでしょう。
年功序列制度の3つのメリット
次に、年功序列制度のメリットを3つ紹介します。
- 従業員の定着率が向上する
- 長期的な人材育成が可能になる
- 人事評価の基準が明確になる
順番に解説します。
1.従業員の定着率が向上する
年功序列制度は、社員の勤続年数に応じて給与や役職が上がるため、定着率の向上に効果的です。
特に新卒で入社した社員は、長く働くほど安定した収入やキャリアを築けるため、安心して働き続けられます。また、長く在籍する社員によって、組織のノウハウや文化が継承されやすくなります。
年功序列制度を活用することで、離職率の低減と組織全体の安定が期待できるでしょう。
2.長期的な人材育成が可能になる
年功序列制度は、社員の長期的な勤務を前提としているため、人材育成計画を長期視点で立てやすいのが特徴です。
例えば、新入社員には基礎的な業務を担当させ、経験を積んだ社員には専門的なスキルを習得させるなど段階的に育成します。また、社内のジョブローテーションやOJTを通じて、多角的なスキルを身につける機会も提供できます。
長期的な教育を通じて、社員は自身の成長を実感しやすくなり、企業側も将来の幹部候補の育成が期待できるでしょう。
3.人事評価の基準が明確になる
年功序列制度は、年齢や勤続年数を基準とするため、評価基準が明確で分かりやすいのがメリットです。昇進や昇給の基準が明確なため、社員はキャリアプランを立てやすくなります。
また、上司の主観や曖昧な評価に左右されにくいため、評価に対する納得感も高まるでしょう。さらに、人事評価の基準が一貫していることで評価プロセスが効率化され、管理側の負担も軽減されます。
明確な評価基準がある年功序列制度は、社員のモチベーション維持や企業の人事運営によい影響をもたらします。
年功序列制度は維持するべき?廃止するべき?
年功序列制度を維持すべきか廃止すべきかの判断は、企業の業種やビジネスモデル、経営戦略によって異なります。
伝統を重んじる製造業や長期的な人材育成が必要な業界では、社員の定着率を高め、安定した労働力を確保できる年功序列制度の維持が有効です。
一方で、IT企業やスタートアップのように変化が激しく、成果が重視される業界では年功序列の廃止が適しています。
長期的な人材育成と安定を重視する企業は年功序列を維持し、成果やスピードを重視する企業は成果主義への移行を検討するとよいでしょう。
年功序列制度を維持する際のポイント
年功序列制度を維持するためには、以下のポイントを押さえましょう。
ポイント | 概要 |
---|---|
継続的な業績向上 | 勤続年数に応じて人件費が増加するため、企業は安定した利益を確保し続ける必要がある |
人材育成制度の強化 | 長期的に働く社員のスキルを高めるために、計画的な研修やジョブローテーションを実施する |
フレキシブルな給与体系の導入 | 役職や専門スキルに応じた手当を設けると、若手社員のモチベーションが保てる |
年功序列制度を維持するためには、メリットを活かしつつ時代に合わせて柔軟に制度を設計する必要があります。
年功序列制度を廃止して成果主義へ移行する際のポイント
年功序列制度を廃止し、成果主義へ移行する際のポイントは以下のとおりです。
ポイント | 概要 |
---|---|
社員が納得する制度を設計する | 事前に説明会を開いたり、意見を聞いたりして合意を得る |
成果とプロセスのバランスを考慮して評価する | 成果だけでなく過程も評価に含めることで、社員のモチベーションを維持する |
社員のスキルアップ支援とキャリアパスを明確にする | 社内研修や資格取得支援によるキャリアの見通しが立てば、長期的に働く意欲が湧く |
成果主義への円滑な移行を実現するためにも、社員にとって納得感のある評価制度の構築やスキルアップの支援体制を整えましょう。
企業の方針・目的に適した制度を導入しよう
年功序列制度は、社員の定着率向上や長期的な人材育成に優れたメリットがある一方で、若手社員の離職や人件費の増加などの課題も抱えています。
伝統を重視し、長期的な成長を目指す企業には年功序列制度が適していますが、変化の激しい業界では成果主義の導入が有効です。
自社の状況や目的に応じて、最適な評価制度を選択しましょう。
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