ジョブ型人事制度とは?仕組みや4つのメリット・デメリット・設計方法まで解説【事例付き】

ジョブ型人事制度とは、「ジョブ(職務)に合わせて人を割り当てる」ことを前提とした制度です。近年の働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、これまでとは違う働き方や制度が取り入れられつつあります。

ジョブ型人事制度は、即戦力を採用しやすいなどのメリットもありますが、注意点など気をつけなければなりません。

本記事では、ジョブ型人事制度の解説やメリット・デメリットなどを詳しく解説します。

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なお、間接部門(バックオフィス)における生産性の指標や具体例については、下記の記事で解説しています。

また、間接部門の役割や代表的な部署、目標設定の例については、下記の記事をご参照ください。

ジョブ型人事制度とは?

ジョブ型人事制度を示した画像

ジョブ型人事制度とは、「ジョブ(職務)に合わせて人を割り当てる」ことを前提とした制度です。言い換えれば、企業がさまざまなジョブを用意し、それに適した人材を雇用、配置する人事制度といえるでしょう。

ジョブ型人事制度は欧米では主流ですが、日本ではまだ馴染みの少ない制度です。そこで、まずはジョブ型人事制度の概要や特徴、メンバーシップ型人事制度との違いを解説します。

ジョブ型人事制度の特徴

ジョブ型人事制度とは、簡単にいえば「ジョブ(職務)に合わせて人を割り当てる」ことを前提とした制度です。言い換えれば、企業がさまざまなジョブを用意し、それに適した人材を雇用、配置する人事制度といえるでしょう。

ジョブ型人事制度を円滑に運用するために、企業は業務内容や職責など明確に記載した「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を発行し、それに基づいて人材を割り当てます。割り当てられた人材は、原則としてジョブディスクリプションにある業務のみを行うのが特徴です。

なお、「ジョブ型雇用」と「成果主義」の違いや、それぞれの特徴・メリットについては、下記の記事で解説しています。ジョブ型導入を検討する際にぜひご覧ください。

メンバーシップ型人事制度との違い

メンバーシップ型人事制度とは、「人に合わせてジョブ(職務)を割り当てる」ことを前提とした制度です。この制度は新卒一括採用を軸とした終身雇用制度を採用している日本企業に多く、転勤や異動を含めて各人材にさまざまな職務を割り当てながら人材育成していきます。

ジョブ型人事制度との違いをまとめたのが以下の表です。

 ジョブ型人事制度メンバーシップ型人事制度
職務明確に固定流動的
勤務先・職場固定流動的
賃金職務に応じて決まる職能や勤務年数によって決まる
人材育成スペシャリスト、プロフェッショナル育成に向くゼネラリスト育成に向く

従来のメンバーシップ型雇用について、ジョブ型との違いやメリット・デメリットをより深く知りたい場合は、「メンバーシップ型雇用とは?ジョブ型雇用との違いやメリット・デメリット、移行すべきかを解説」の記事もあわせてお読みください。

ジョブ型人事制度が注目されている4つの理由

日本を代表するような企業がジョブ型人事制度を導入して耳目を集めるケースが増えています。なぜジョブ型人事制度が注目されるのか、4つの要因を解説します。

高度なスキルを持つ人材を確保する必要がある

ジョブ型人事制度が注目されている理由の一つに、ジョブ型人事制度での育成に適したスペシャリスト、プロフェッショナルの需要が高まっている現状が挙げられます。

というのも、近年はデジタル化やDXを担うIT人材の需要が高まっており、少子高齢化が進む日本では、特に人材不足が深刻だからです。また、AIやIoT、ロボットなどの先進技術を活用した第4次産業革命が進行中の現在、これらの領域のスキルを持つ専門人材の重要性が高まっています。

こうした専門人材を育てるには、職務を固定したほうが効率的といえるでしょう。また、即戦力人材の中途採用においても、職務と雇用条件を明確に決めて募集をかけるジョブ型人材制度のほうが向いているのです。

成果主義の評価に移行している

成果主義を推進する目的でジョブ型人事制度を導入する企業も増えています。ジョブ型人事制度では、ジョブごとに果たすべき職務や成果物を定めるため、成果主義と相性がよいからです。

成果主義をとる企業が増えている背景には、コロナ禍をきっかけに急拡大したテレワークも関係しています。テレワークは、対面業務と違い、仕事に取り組む姿勢や途中のプロセスが見えにくく、成果物で評価する方法が適しているからです。

このため、ジョブ型人事制度による成果主義を導入し、公平で正確な人事評価を目指す企業が増えています。また、年功序列型の賃金体系によるモチベーションと生産性の低下を改善する目的で、成果主義およびジョブ型人事制度を導入する企業もあります。

ダイバーシティ&インクルージョンの考え方が浸透し始めている

ダイバーシティ&インクルージョンとは、多種多様な人材が互いに尊重し合うことで、どんな人でも能力を最大限発揮できる組織を作る理念のことです。この考え方は世界的な潮流として広がりをみせています。

ジョブ型人事制度は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しやすいことから注目を集めています。ジョブを明確に定めるジョブ型人事制度なら、育児中・介護中の人が働きやすいテレワークによる在宅勤務や、外国人労働者がスキルを発揮しやすい職務、定年後の再雇用先など、多様な働き方を推進しやすいからです。

また、プロフェッショナルも個性的で他者と代えがたい存在といえるでしょう。そのため、ジョブ型人事制度は広い知見と経験を持つゼネラリストの育成には向きませんが、プロフェッショナルを育成しやすい点で注目されています。

ダイバーシティ推進の具体的なポイントや施策例については、「働き方改革で注目される「ダイバーシティ」とは?推進のポイントや施策例」で詳しく解説しています。

終身雇用制度の崩壊が崩壊に向かっている

終身雇用制度が崩壊し、中途採用者や短期間で入れ替わる非正規雇用者の割合が増えたことも、ジョブ型人事制度が注目される理由です。

終身雇用制度では、長期スパンで人材育成を実施し、企業が望む人材に成長してもらうことが可能でした。しかし転職が当たり前になるなか、このメンバーシップ型の育成は難しくなっています。ヘッドハンティングや短期離職のリスクが高いため、長期的な人材育成戦略を立てにくくなっているのです。

そこで「職務を限定して早期に即戦力化したい」「中途採用で人材不足を補える体制にしたい」と考える企業が増え、ジョブ型人事制度を導入する企業が多くなっています。

ジョブ型人事制度での給与の変化

ジョブ型人事制度では、以下の理由から担う職務に基づいた給与額が変化が発生します。

  • 担う職種によって給与額が変わる
  • 家族手当や勤務年数に応じた手当が廃止される

ジョブ型人事制度は、従来のメンバーシップ型人事制度のような流動的な働きとは異なり、スキルを重視しているため、給与が職務ごとに変動するのは自然なことでしょう。

ジョブ型人事制度と給与の関係について紹介します。

担う職種によって給与額が変わる

ジョブ型人事制度では、従業員のスキルや経験が直接的に評価されるため、給与額が担う職務によって異なります。

従来のメンバーシップ型人事制度の場合、年功序列のような内部的な部分に注目し、給与額を設定していました。一方で、ジョブ型人事制度であれば、職務の内容や責任に応じて給与が決定されるため、給与額が人によって変わります。

ジョブ型人事制度は専門性やスキルが高いほど給与に反映されやすくなりますが、求められる基準となるスキルなどが不足していた場合、降格や減給もありえます。

なお、勤務態度の評価方法やテレワーク時の注意点については、下記の記事で詳しく紹介しています。人事評価基準を整備する際の参考にしてください。

家族手当や勤務年数に応じた手当が廃止される

ジョブ型人事制度では、従来の定期昇給制度が廃止される傾向にあります。

職務内容を基準としているジョブ型人事制度において、家族手当や住宅手当のような諸手当は、能力との関連がないとみなされるからです。こうした手当を生活費に充てていた従業員は収入に大きな影響がでてしまうでしょう。

職務で給与額が決まると、従業員が同じ基準で評価される公平性はあります。しかし受け取っていた手当がなくなることで、生活に影響がでる従業員も少なくないため、ジョブ型人事制度導入の際には、慎重な調整が必要です。

ジョブ型人事制度を導入する4つのメリット

まずは、メリットを4つ解説します。

勤続年数・年齢に縛られない給与設定ができる

ジョブ型人事制度では、業務ごとに給与を設定できるため、年齢や勤続年数が関係ありません。そのため、優秀な人材でポジションが上がれば、給与も上がっていきます。年功序列にはならないため、若手にもチャンスがあるのが特徴です。

一方、年齢や勤続年数で決まらない分、20代の従業員の給与よりも40代の給与のほうが低いといったこともあり得ます。ジョブディスクリプションに規定された職務レベルによって給与が決まることから、実力主義的だといえるでしょう。

即戦力を採用しやすい

ジョブ型人事制度では、採用の面でもメリットがあります。それは、自社の求める人材を採用しやすい点です。求人時にジョブディスクリプションも合わせて提示しておくことで、採用者に任せたい業務が明確になります。

その上、応募者も業務内容を理解した上で入社を検討しているため、双方のマッチングがしやすいといえるでしょう。入社後も、ジョブディスクリプションに沿った業務を進めてくれるため、会社の即戦力となるはずです。

社員の専門性を高められる

ジョブディスクリプションで業務の範囲を指定している分、社員の専門性が高まりやすいのがメリットです。社員一人ひとりが専門性を持っていることで、業務の質の向上につながる可能性もあります。

業務の効率化や人件費の削減ができる

ジョブディスクリプションに沿って従業員を採用しているため、業務の無駄がなくなります。また、「誰がどの業務を行うのか」が明確になっているため、生産性の向上にもつながるでしょう。

生産性が向上することにより、人件費の削減にもつながる可能性があります。

ジョブ型人事制度を導入する4つデメリット

ジョブ型人事制度は、良い面だけではありません。デメリットも踏まえた上で導入を決めるとよいでしょう。

ジョブディスクリプションに合う人材が探しにくい

ジョブ型人事制度では、採用の難易度が上がってしまうのがデメリットです。ジョブディスクリプションで業務の範囲を限定しているころから、応募数も少なくなるでしょう。そこから採用に至る確率は、これまでのメンバーシップ型採用よりも低い可能性が高いです。

社員のスキルアップは当人に委ねられる

社員教育のしにくさはデメリットだといえます。ジョブ型人事制度では、それぞれ業務が分かれていることから、まとまった研修は実施しにくい傾向にあります。そのため、どうしてもスキルアップは従業員任せになってしまうのです。

仕組みの運用が複雑で扱いにくい

ジョブ型人事制度を運用していくためには、すべての社員のジョブディスクリプションが必要になります。ポジションをこまかく決めた場合には、より運用が複雑になるといえるでしょう。給与面も含めて、メンバーシップ型よりも手間や時間がかかります。

ポジションを上げることが難しい場合がある

ジョブ型人事制度では、上のポジションが固定化される可能性が高まります。そのため、管理職ポジションになりたい従業員は、社外へ流出してしまうこともあるでしょう。

ジョブ型雇用制度の設計方法の流れ【4STEP】

ここでは、具体的にジョブ型雇用制度を設計する方法を紹介します。結論からいえば、以下の4つの手順で進めていくことになります。

  • 社内の業務の洗い出し
  • ジョブディスクリプションの作成
  • ジョブディスクリプションに基づきポジションの決定
  • ジョブ・ポジションをもとに給与の検討・決定

以下では、手順ごとの詳細を詳しく解説していきます。

1.社内の業務の洗い出し

まずは、社内の業務の洗い出しからはじめましょう。どの部署で、どのような業務を行っているのかをとりまとめます。組織が大きい場合には、洗い出しの時間がかかる点には注意が必要です。

また、従業員の協力も欠かせない部分でもあります。可能であれば一人ひとりの従業員と面談し、業務内容を聞き取るとよいでしょう。また、アンケートやフォームでの記入などの方法を用いると負担が少なくなります。

この洗い出し作業が細かくできていると、次のジョブディスクリプションの作成が楽になります。

2.ジョブディスクリプションの作成

洗い出しが完了したら、ジョブディスクリプションの作成をしましょう。全社員のジョブディスクリプションを作成することが理想的です。

その理由としては、社員一人ひとりが行っている業務は異なることが挙げられます。ジョブディスクリプションが記述できないと、ポジションや給与の検討が曖昧になってしまうので注意しましょう。

なお、ジョブディスクリプションについては、完成したら社員と共有することをおすすめします。それぞれの社員が業務の範囲を知ることで、業務がより効率化されることでしょう。

本人だけでなく上長にもジョブディスクリプションを確認してもらうと、部下の業務の範囲を知ることができるためおすすめです。

3.ジョブディスクリプションに基づきポジションを決定

ジョブディスクリプションの整理が終わったら、ポジションを設定していきます。基本的にポジションは、現状のメンバーシップ型における役職だと考えてください。役職をもとにポジションを大まかに決めていきます。

その後、「ここにこのポジションが必要だ」となった場合には、適宜ポジションを追加します。

ただし、あまり細かくしすぎてしまうと運用の負担が大きくなってしまう点に注意してください。負担が大きくなりすぎると、ジョブ型人事制度が形骸化してしまう可能性があります。

4.ジョブ・ポジションをもとに給与の検討・決定

最後に給与を決定しましょう。給与は、ポジションに基づいて決めていきます。ポジションと業務内容を掛け合わせて検討してください。この際、給与に少し幅を持たせておくと、評価に基づいた給与の上げ下げが可能になります。

ジョブ型雇用を導入する際の4つの注意点

ジョブ型人事制度の注意点を紹介します。

業務内容が変わる場合には再契約が必要になる

ジョブ型人事制度では、基本的に業務内容を変えることはできません。契約時に提示したジョブディスクリプションをもとに運用しているからです。

仮に業務内容の変更を従業員にしてもらう場合には、改めて契約を結ぶ必要があります。従業員には拒否する権利もあるため、業務内容を変えるのは難しいといえるでしょう。

ポジションを上げるのは簡単だが下げるのは難しい

ジョブ型人事制度の場合、ポジションを下げるのが難しくなります。ポジションによって給与が決まっているため、ポジションが下がると給与が下がるからです。従業員の反対も受けるでしょう。

逆に、ポジションを上げるのは比較的行いやすいといえます。給与も役職も上がるため、従業員が納得しやすいからです。

人事担当者は、この点を頭に入れながら制度を運用していく必要があるといえるでしょう。

組織としての一体感を出す工夫で離職を防ぐ必要がある

ジョブ型人事制度は、離職率を高める要因になることがあります。それは、新しいポジションを探して転職する従業員が増えるからです。そのため、企業としてできることは、組織としての一体感を出す工夫や、充実した福利厚生などだといえます。

特に優秀な社員ほど上のポジションにつくために転職してしまう可能性があるため、注意が必要です。

ジョブディスクリプションの運用方法を考えておく

ジョブディスクリプションの管理・運用は負担の大きな仕事です。そのため、どの程度まで細かく業務を行うのかを決めておくとよいでしょう。

その他の業務の負担が大きかったり、人的リソースが不足している場合には、ディスクリプションの更新頻度を落としたりする必要があるといえます。

なお、従業員を正しく評価するための「コンピテンシーマネジメント」については、下記の記事で解説しています。公平な評価制度構築に役立ててください。

3種類のジョブ型人事制度導入パターンの導入パターン3選

ジョブ型人事制度の導入パターンは、大きく分けると以下の3つです。

  1. 全ての人事制度をジョブ型に変更する
  2. 一部の職種や管理職のみをジョブ型にする
  3. ジョブ型とメンバーシップ型を複合する

各パターンを解説します。

1.全ての人事制度をジョブ型に変更する

あらゆる階層、職種にジョブ型人事制度を適用するパターンです。このパターンは、ベンチャー企業から成長した企業や外資系企業でよくみられます。

全面的なジョブ型導入のメリットは、欧米でスタンダードの人事制度に一気に移行できる点です。中途採用がしやすく多様な働き方にも対応できるため、人員面で事業拡大しやすいメリットもあります。

対してデメリットは、人事評価や人材育成、福利厚生、就業規則などの制度、運用全般が変更されるため、導入リスクが高い点です。従業員から不満が出て離職率が上がったり、組織の生産性が下がったりする可能性もあります。

2.一部の職種や管理職のみをジョブ型にする

一部の職種や管理職だけにジョブ型人事制度を適用する企業もあります。このパターンは日本企業において主流です。

例えば、エンジニアや研究職などのスペシャリストのみをジョブ型にする企業があります。また、定年退職後の再雇用者に対してだけジョブ型人事制度を適用する企業も少なくありません。

一部導入のメリットは、スモールスタートして全面移行につなげられる点です。また、ジョブ型人事制度のメリット面が大きい職務にだけに適用することで、従業員からの不満が出にくく、効率的に生産性を高めやすい利点もあります。

3.ジョブ型とメンバーシップ型を複合する

ジョブ型とメンバーシップ型を複合する方法は、ジョブ型とメンバーシップ型のいいとこ取りを図る人事制度といえるでしょう。一例を挙げれば、以下のような融合的、折衷的な制度を構築します。

  • 職務:職務は基本的に固定だが、本人の希望があれば異動を認める
  • 賃金:職務ごとの報酬基準を設けつつ、勤続年数や年齢を考慮した年功序列的な評価も加味する
  • 採用活動:新卒一括採用の割合を減らし、中途採用者を増やす

複合型のジョブ型人事制度は、自社に合ったバランスのよい制度を構築できる方法です。終身雇用や年功序列といった古い組織運用を脱却しつつ、ジョブ型導入の弊害も抑えられます。ただし、初めから最適な制度を構築するのは難しいため、継続的な見直しも必要です。

メンバーシップ型雇用の基本的な仕組みやメリット・デメリットを再確認したい方は、「メンバーシップ型雇用とは?ジョブ型雇用との違いやメリット・デメリット、移行すべきかを解説」の記事も参考にしてください。

ジョブ型人事制度の導入に失敗する5つのケース

ジョブ型人事制度は、設計や運用を誤ると、組織の混乱を招き失敗に終わるリスクがあります。

  • 個人重視が強まりチーム力が低下するケース
  • 育成方針と処遇方針の整合が取れていないケース
  • 外部労働市場が未成熟で流動性が低いケース
  • 管理職のマネジメントスキルが不足しているケース
  • ジョブディスクリプションに不備があるケース

ここでは、導入時に陥りやすい5つの失敗ケースとその原因を解説します。

個人重視が強まりチーム力が低下するケース

ジョブ型人事制度は、個人の職務と成果を明確に定義するため、従業員は「自分の職務範囲内の成果」を最優先するようになります。

評価制度が個人の成果に偏りすぎると、従業員は自分の担当外の業務や、他者のサポートを避けるようになります。例えば、部署内で困っている人がいても「それは私の仕事ではない」と協力を拒むケースです。

個人の専門性は高まる一方で、部署間やチーム内の連携が失われてしまいます。

日本企業の強みであった「チームワーク」や「助け合いの文化」が損なわれ、組織全体の生産性がかえって低下する失敗例です。

育成方針と処遇方針の整合が取れていないケース

制度の移行期に、評価や報酬はジョブ型(成果主義)に変更したにもかかわらず、従業員への教育方針が従来のメンバーシップ型(年功序列・長期育成)のまま、というケースがあります。

例えば、会社は「成果を出せば評価する」といいながら、現場では旧来の年功序列的な運用が残り、若手の成果が正当に評価されない状態です。

また、従業員に「専門性を高めてほしい」と要求する一方で、スキルアップのための研修機会や学習支援を企業が提供しない場合も、従業員の不満が高まります。

制度と実態がちぐはぐになり、従業員は何を基準に行動すればよいか混乱し、モチベーションの低下を招きます。

外部労働市場が未成熟で流動性が低いケース

ジョブ型人事制度は、必要なスキルをもつ人材を外部から採用し、不要になれば雇用を終了するという「人材の流動性」を前提としています。欧米では、転職を繰り返しながらキャリアアップする労働市場が確立されています。

しかし、日本ではまだ新卒一括採用と長期雇用が根強く、欧米ほど労働市場が成熟していません。

そのため、いざ専門人材を採用しようとしても、市場に適切な人材がいない、あるいは見つけられない場合があります。

また、社内でキャリアチェンジを希望する従業員が出ても、社内に適したポジションが少ない点が問題です。日本独自の雇用環境を考慮せずに制度を導入すると、人材の採用も配置も上手くいかなくなる可能性があります。

管理職のマネジメントスキルが不足しているケース

ジョブ型人事制度の運用において、現場の管理職は、部下の職務を定義し、目標を設定し、その達成度を公正に評価する必要があります。

しかし、従来のメンバーシップ型で育ってきた管理職の多くは、プレイヤーとしての業務が中心で、こうした部下の評価や育成に関する専門的なマネジメントスキルを十分に訓練されていません。

管理職が部下の職務内容を正確に把握できていない、あるいは評価基準が曖昧で、結局は好き嫌いや年功序列で評価してしまう、といった事態が起こりがちです。

管理職のスキル不足が、制度運用のボトルネックとなり失敗するケースは非常に多いです。

ジョブ型における人材マネジメントの考え方や、管理職に求められる組織づくりの詳細については、「ジョブ型人材マネジメントとは?注目される背景や組織づくりについて解説」でも解説しています。

ジョブディスクリプションに不備があるケース

ジョブディスクリプション(職務記述書)の内容が曖昧だったり、実態と異なっていたりすると、制度全体が機能しません。

例えば、職務の範囲が曖昧なために、「その仕事は誰がやるのか」という押し付け合いが現場で発生するケースです。また、記載漏れがあった業務を従業員に依頼した際、「契約外の業務だ」と拒否され、トラブルになることもあります。

職務の定義が不正確だと、採用時のミスマッチ、不公平な評価、不適切な給与設定など、あらゆる問題を引き起こします。

作成時の不備だけでなく、導入後に内容を更新(メンテナンス)しなかったために、現場の実態と乖離してしまうケースも失敗の典型です。

ジョブ型人事制度の導入で失敗しないための3つのポイント

ジョブ型人事制度の導入を成功させるには、失敗ケースから学び、慎重に準備を進める必要があります。制度を自社の実情に合わせて設計し、従業員の理解を得ながら定着させることが重要です。

  • 職務内容・責任範囲を明確化する
  • 社内制度の整備と意識統一を行う
  • 管理職の育成と評価基準の再設計を行う

ここでは、失敗しないための3つの重要なポイントを解説します。

職務内容・責任範囲を明確化する

導入失敗の多くは、ジョブディスクリプション(職務記述書)の不備から生じます。

これを防ぐには、各ポジションの「職務内容」「責任の範囲」「与えられる権限」を、誰が読んでも誤解が生じないレベルまで具体的に明文化することが不可欠です。

例えば、「売上向上に貢献する」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇(製品)の新規顧客を月間10件開拓する責任を負う。そのために月間50万円までの広告予算の決裁権限をもつ」のように、具体的に記述しましょう。

職務が明確になることで、従業員は迷いなく業務を遂行できます。また、評価基準も明確になるため、採用のミスマッチ防止や、公正な評価の実現につながります。

社内制度の整備と意識統一を行う

従業員の理解や納得を得られないまま制度導入を強行すると、現場の混乱やモチベーション低下、優秀な人材の離職を招きます。

失敗の最大の要因は、この「従業員の理解不足」にあるといえます。

企業は、「なぜ制度を変える必要があるのか」「新しい制度で何がどう変わるのか」「従業員にとってどのようなメリットがあるのか」を、経営層から現場まで一貫して、繰り返し丁寧に説明しなくてはなりません。

全社説明会の開催や、個別の面談を通じて、従業員の不安や誤解を解消し、全社的な意識統一を図るプロセスが不可欠です。

管理職の育成と評価基準の再設計を行う

ジョブ型人事制度が成功するかどうかは、管理職のマネジメント能力にかかっているといっても過言ではありません。

しかし、多くの管理職は、こうした新たな役割のための訓練を受けていません。

そのため、制度導入と並行して、管理職向けの研修を徹底して行う必要があります。部下の職務を定義する方法、公正な目標設定の仕方、評価面談の技術などを集中的に教育しましょう。

また、評価基準を設計する際は、個人の成果だけでなく、「チームへの貢献」や「他部署との連携」といった項目も組み込むことが重要です。個人の専門性と組織の協調性を両立できる評価の仕組みを設計しなくてはなりません。

ジョブ型人事制度を導入している企業事例5選

日本国内でも、多くの先進企業がジョブ型人事制度の導入に取り組み、自社に合った形で運用しています。

  • KDDI|独自の「KDDI版ジョブ型」で実力評価と多様な成長機会を両立
  • 日立製作所|グローバル化対応で段階的にジョブ型へ移行
  • ニトリ|専門職限定で導入し配転教育と両立したハイブリッド型
  • 資生堂|和洋折衷型を採用し段階導入で制度を定着
  • NEC(日本電気)|高度IT人材を中心にジョブ型採用を推進

ここでは、代表的な5社の導入事例を紹介します。

KDDI|独自の「KDDI版ジョブ型」で実力評価と多様な成長機会を両立

KDDIは「プロを創り、育てる」人財ファースト企業を目指すべきだと考え、KDDIらしさと欧米型を複合した「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しました。デジタル化の加速によってテクノロジーでイノベーションを起こす人材がますます貴重になっていること、人生100年時代となり「大企業なら一生安泰」という考え方が通用しなくなっていることが背景にあります。

KDDI 版ジョブ型人事制度では、業務とスキルを明確に定義し、従業員の実力に応じて報酬を支払うのが特徴です。しかし欧米型のジョブ型によってKDDIらしさが失われないように、多様な成長機会の提供や、専門能力だけでなくヒューマンスキルも重視することなどにも配慮しています。

日立製作所|グローバル化対応で段階的にジョブ型へ移行

日立製作所は事業のグローバル化にともない、世界標準とされるジョブ型人事制度を全面的に導入しようと考えました。従業員の過半数が外国人であるにもかかわらず、同じ場所と時間で一緒に働くことを前提にしたメンバーシップ型を続けるのは、合理的でなかったからです。

とはいえ、全面的なジョブ型人事制度の導入は、日本人従業員の大きな負担となり得ます。そこで日立製作所は、技術職へのジョブ型適用からスタートした後、2020年に学歴別一律の初任給額を止め、技能や経験および職務に応じた個別設定に変更するなど、段階的に施策を進めました。

ジョブ型を適用してみると、テレワークの普及やワーク・ライフバランスを大切にする従業員の増加といった日本の現状にフィットする部分も多かったということです。

ニトリ|専門職限定で導入し配転教育と両立したハイブリッド型

ニトリでは少数精鋭ではなく「多数」精鋭のスペシャリストを育成する目的で、専門職のみジョブ型人事制度を導入しました。ニトリでは、3~5年単位でいろいろな職種を経験させ多面的な視野を持った人材を育てる「配転教育」が成果を出しています。そのため、全面的にジョブ型に移行することは考えられなかったのです。

そこでニトリでは、自分に合った専門職をみつけられるまでは配転教育を受けられるようにし、ゼネラリストとして成長したい人はそのまま経験を積めるようにしました。ニトリのジョブ型人事制度は、メンバーシップ型とジョブ型のいいとこ取りをした方法として、多くの企業の参考にされています。

資生堂|和洋折衷型を採用し段階導入で制度を定着

資生堂は「グローバルに勝てる」組織への変容を目的に、ジョブ型人事制度を導入しました。成果主義の浸透や働き方改革への対応といった目的ではなく、あくまで資生堂のミッション達成のための施策と位置付けています。

資生堂が採用したのは「和洋折衷型」のジョブ型人事制度です。欧米型のジョブ型をいきなり導入すると影響が大きいため、日本型の人事慣行も考慮しました。また、導入プロセスも、2015年に管理職限定で適用、2018年に一般社員向けへの拡大と報酬制度改定に着手し、2021年に労使合意のもと正式導入と、十分な時間をかけているのが特徴です。

今後は、資格制度や評価制度、報酬制度などの「ハード面の変革」にとどまらず、ジョブベースのマネジメントの浸透や従業員自身の自己操縦感(Self-Directive)獲得という「ソフト面の変革」を醸成したいと考えています。

NEC(日本電気)|高度IT人材を中心にジョブ型採用を推進

NECは特定の職務に対してジョブ型人事制度を導入しました。新卒採用においては、データサイエンスやサイバーセキュリティ、DXビジネス、AI創業といった高度IT人材が対象です。

また、中途採用においてもジョブ型人材マネジメントを加速しています。NECの中途採用は急拡大しており2022年度は600人でした。この人数は、2023年度の新卒採用に対して1:1の割合になります。

今後の中長期的な目標は、ジョブ型人材制度による「適時・適所・適材」の実現と、多様な人材登用によるイノベーション創出です。

成果主義の人事制度ならジョブ型雇用がおすすめ

ジョブ型人事制度は、単に職務内容を明確にする仕組みではなく、企業の競争力を高めるための戦略的な人事制度です。

職務や成果に応じて公正に報酬を設定できる点が大きな魅力であり、専門性の高い人材を確保・育成する上で有効な手段となります。

一方で、従来の日本型雇用とは大きく異なるため、運用の複雑さや、チーム連携の低下といった課題も伴います。

制度を機能させるためには、職務内容・評価基準・報酬体系を一貫して設計し、管理職を育成し、社員全体で制度への理解と納得を得ることが不可欠です。

「ジョブ型人事制度をどのように設計すべきか知りたい」「自社に合った人事評価の仕組みを検討したい」という企業の方は、人事評価システム「あしたのチーム」の資料をご覧ください。導入や運用に関する具体的なノウハウが詰まっていますので、ぜひ制度設計の参考にしてください。

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この記事の監修者   あしたのチーム編集部さん

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