リクルートはなぜ、社員に実力以上の仕事を任せるのか?リクルート瀬名波文野さん×あしたのチーム高橋恭介 対談【前編】

現在、株式会社リクルートホールディングスで執行役員を務める瀬名波文野さん。瀬名波さんは2006年にリクルートへ新卒入社して以降、20代で単身イギリスに渡り当時最年少で海外現地法人の社長を務めるなど、常に「身の丈以上」の仕事に挑戦してきたといいます。

その経歴をみれば、誰もが彼女をスーパーウーマンだと認めるでしょう。しかし瀬名波さん自身は「リクルートだから今の私がいる」と語っており、彼女のこれまでの軌跡にはリクルートの人事評価制度や「個の可能性に期待する」文化が欠かせなかったそうです。

そこで今回は、リクルートの評価制度や仕事の任せ方に注目。瀬名波さんとあしたのチーム代表高橋恭介との対談を実施し、会社と個人がWin-Winで成長を続ける秘訣に迫りました。

※本記事は2018年1月16日に公開された記事を一部再編したものです。

後編:マイナス評価の社員すらワクワクさせる面談術とは

【Profile】
瀬名波 文野 (せなは あやの)
株式会社リクルートホールディングス 人事統括室 室長、Indeed,Inc. Chief of Staff
2006年、株式会社リクルート新卒入社。経営企画を経験した後、厳しくもリアルなビジネスの現場を求め、自ら手を挙げて人材採用領域の大手担当営業に。2012年には「いつかは海外で働きたい」という希望を叶えるべく、再び手を挙げてロンドンにある買収先企業へ。後に代表取締役に就任し、220人の現地中業員を率いる。2015年に帰国後は、リクルートホールディングスR&D本部事業開発室室長を務め、2016年より経営企画室・人事統括室 室長。2018年4月執行役員に就任。2016年Forbes Japan「世界で闘う日本の女性55人」に選出。

高橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム 代表取締役社長
大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。その後ベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまでに成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位にまで成長させた。2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立。これまで3,000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。

身の丈以上のミッションは、個人の「WILL」とセットが原則

高橋恭介(以下、高橋)本日はよろしくお願いします。まず瀬名波さんに伺いたいのは、リクルートが人事評価をする際や、仕事を任せるときの土台となる「WILL CAN MUST」や「ミッショングレード制」についてです。

これら評価制度は、成果主義という側面がありながらWILL(自分はどうありたいのか)やCAN(何ができるようになりたいか)といった成長が前提にありますよね。こうした考え方で評価されることを、瀬名波さん自身はどう感じているのですか。

瀬名波文野さん(以下、瀬名波)この評価制度があったからこそ今の私がいるという感覚です。リクルートグループは現在45,000名以上の従業員が働いていますが、この規模の会社で10年くらいのキャリアの私が人事責任者を務めることなんて、一般的にはありえないはずです。

振り返ってみれば、入社3年目で経営企画から人材採用領域の営業へ異動したときも、その4年後に単身でロンドンの現地法人に着任したときも、私にはなんの経験も実力もありませんでした。でも、私がやってみたいと手を挙げたら会社は任せてくれた。

はっきり言って、私自身も会社もかなり無謀なチャレンジであったことは間違いないんです。たとえるなら、係長だった人にいきなり社長を任せるようなものですから。

高橋たしかに無謀という側面もあるかもしれませんが、瀬名波さんはそれぞれの環境で成果を出してきた訳ですよね。なぜ、それは実現できたのでしょうか。

瀬名波任された仕事が、自分のなかで魂を込めてやりたいと思った仕事だったからだと思います。それがなかったら身の丈以上のミッションを前に心が折れてしまっていたかもしれません。

ロンドンに渡った直後も日本人は私ひとりで、現地のみんなからすれば買収元の企業から送り込まれた“招かれざる客”という見え方。完全にアウェイでしたし、私には海外で働いた経験もマネージャーの経験すらなかったので、最初は結果も出せずかなり苦労しました。

そうなるのは当時の私の実力からすれば誰が見ても明らかだったんですが、会社はなぜ私に任せてくれたのかといえば、私自身の「この仕事に挑戦したい」というWILLと、会社として「この事業をこうしたい」という要望に接点を見出してくれたからだと思います。会社が個人のWILLを理解し、ミッションと接続して挑戦させてくれること。それがあったからこそ、私は挫けず頑張れた気がしますね。

高橋経験や実力ではなく、WILLや意思の強さで任せるということですね。それは終身雇用前提でキャリアを積み上げていく会社にはできない仕事の任せ方かもしれません。一方で身の丈以上のミッションを任せるということは、報酬と実力がアンバランスにはならないのでしょうか。

瀬名波それがミッショングレード制のポイントです。リクルートでは、“社員の報酬は役職ではなく仕事で期待する価値の大きさに応じた等級によって決まる”ので、任せる仕事に応じてグレードが上がったり下がったりするのが原則。

私が現地法人の社長を任されたときも、グループ全体のエグゼクティブクラスのグレードに一気に上がりましたが、結果が出なければ当然グレードは下がるという前提がありました。

その考え方が私と会社の共通認識としてあるから、「期待して任せてもらえたけれど、できなければそれまで」という緊張感を持ち続けられた気はします。

高橋報酬が下がる可能性も前提にして挑戦させる文化なんですね。緊張感という意味では、リクルートが人材輩出企業と言われることを象徴する「早期退職優遇制度」も関連しているかもしれません。

みなさんの頭の中は、社外に飛び出すか、社内でより価値の大きな仕事を目指すかが、いつもセットなのではないですか。

瀬名波確かにそうかもしれません。私自身は、自分が没頭したいこととリクルートの大事にしていることに共通点があるから、今はリクルートで頑張ろうという感覚です。

もっと世の中をよくしたいという自分のWILLがリクルートで叶えられるならリクルートにいるべきだし、極端な話それを実現する道が社外にあるなら、卒業(退職)した方がいいと今も思っています。

うちの経営層やマネージャー陣は、割とフラットにそうアドバイスする人ばかりですし、「早期退職優遇制度」も安定か挑戦かで迷っているなら一歩踏み出すことを応援しますという思想です。

一方で、少し角度を変えてお話すれば、個人が成長したり自己実現できるような仕事を任せられるかは、会社の責任だし挑戦だと思います。

個人が魂を込めてやりたいと思える仕事を会社が託せなければ社員はいつでも卒業するし、やりたいと言っていたはずの仕事に魂を込められないなら評価も下がりますよというお互いの緊張感が生まれているんです。

評価の低い社員のパフォーマンスを劇的に向上させた「強みマネジメント」

高橋では、次に瀬名波さんがマネジメント側の立場で経験されたことを聞かせてください。

ロンドンで社長を務めた際、それまで評価の低かった社員のパフォーマンスを上げ、アメリカ本社から「セナマジック」と称賛されたそうですね。瀬名波さんはどんなマネジメントを行ったのでしょうか。

瀬名波これはロンドン赴任2年目で社長に就任した際の出来事です。会社からの評価が低かった彼は、バックオフィスの責任者を務めていたんですが、私は彼のことを最初からとても能力のある人だと思っていたんです。

たしかに交渉ごとは苦手なタイプで、考え方や話し方も自分の管轄するバックオフィスを起点にしてしまう独善的な部分もありました。けれど、私が着任した会社がこれまで買収したりされたりを繰り返してきた歴史を見てきたことや、バックオフィスの状況を誰よりも理解しているのは、社内を見渡しても彼のほかにはいなかった。

なにより数字に対する分析力や考察力はピカイチで、経営状況を深く掘り下げてみる力があったんです。

私はこれからはじめて社長になるぞというタイミングでしたので、どういう風にチームをつくるかを考えた時、私にはない強みを持っている人とこそチームを創りたいと思ったんです。だから彼の存在が光ってみえた。

そこで私は彼と面談をして、「3ヶ月で今の仕事を半分にしてほしい。残りの半分で私といっしょにチームで仕事をしよう」と巻き込んでいきました。

高橋彼が持つ強みに注目して、それを活かせるチームに引き込んだということなんですね。これは簡単なようで実践するのはなかなか難しいことかもしれません。経営者やマネージャーのみなさんは、つい部下の弱みに目が行きがちですから。

瀬名波その気持ちは私も良く分かります。でも、弱みを改善する先にあるものって、みんなが平均的な世界だと思うんです。言い換えるなら、誰もが均一な仕事をして、ミスも起こらない組織。

それでうまくいく業態なら良いのですが、私たちの仕事は、新しいものを生みだし顧客の期待を越えなければ生き残っていけません。だから、多少弱点があったとしても突出した強みがあるなら、それを伸ばす・活かすマネジメントが必要だというのが私の持論。

今でもマネージャー陣でメンバーの育成について議論する際、弱みにフォーカスした会話になることもあるのですが、そのときは「この人の弱みを改善できたとして、スーパースターになれるの?」と投げかけますね。

高橋変化の激しい時代において既存事業だけで今後50年生き残っていける企業などないと思いますから、そういう意味では金太郎飴のような人材育成・マネジメントでは通用しないかもしれませんね。

一方で強みにフォーカスしたマネジメントは、瀬名波さんが出会ったバックオフィス長のように、ある程度成熟したプロフェッショナル人材に対してとても有効だと感じました。

ジュニアクラスの社員については、一定の水準まで引き上げないとクリティカルな問題も起こってしまうので、弱み克服マネジメントが必要な側面もありますよね。

しかしプロフェッショナル人材に関してそのマネジメントをすると、強みが発揮できずパフォーマンスが下がってしまう。彼らの弱みも飲み込んだうえで、成果で握って評価した方が健全なのかもしれません。

瀬名波私が強みにこだわるのは、私もそうしてもらったからなんですよ。昔もよく怒られましたし、「あのやり方は良くなかった」と反省することも多いです。今でもいろんな指摘を受けます。だから、自分に弱点があることは十分理解しているし、きっと上司たちもそれは分かってくれているはず。

けれど、それでも大きな仕事を任せてくれたという経験が、私自身のマネジメント方針にも反映されている気がしますね。だから、私はメンバーの強みに注目して面白がるようにしています。「変わっているね」が誉め言葉になるような組織にしたいです。

高橋それはとても素晴らしいことですが、周囲と同調してしまいがちな日本の風土では、かなりハードルが高いのではないですか。

瀬名波実現のためには組織のトップが強みを褒めることが一番の近道ですが、もしトップが言わない人なら声の大きな人が代わりに言ってあげればいいんです。

組織風土ってトップダウンだけでなく一人ひとりの日々の発言や行動によって醸成されるものだと思います。

それに、やっぱりチームを率いる立場としては自分みたいな人を量産するよりも、自分と違う人とチームアップしたいんです。その方が自分にない視点や能力で大きな仕事ができますから。だからこそ、それぞれの強みや個性を誇れる組織にすることが重要だと思いますね。

━━後編では、ミッションを任せる際や査定をフィードバックする際などの面談について、リクルートや瀬名波さん自身が重視していることがテーマとなりました。次回もお楽しみに。

マイナス評価の社員すらワクワクさせる面談術とは?リクルート瀬名波文野さん×あしたのチーム高橋恭介 対談【後編】

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