働き方のルールチェンジからマインドチェンジへ  ―経産省 伊藤禎則 総務課長×髙橋恭介 対談前編―

ついに成立した「働き方改革関連法」。残業時間の上限規制をはじめ、中小企業にも対応が求められています。しかし、長時間労働を是正するだけでは、生産性の向上に結びつきません。そこでカギを握るのは、AIやITなどを活用した“HRテクノロジー”。今回は経済産業省でAI・IT政策を担当する伊藤禎則さんと、あしたのチーム代表の髙橋恭介の対談を行いました。その内容を余すことなく伝えるため、前・中・後編の全3回にわけてお届けします。

【Profile】
伊藤 禎則(いとう さだのり)
経済産業省 商務情報政策局 総務課長
1994年、通産省(現:経産省)へ入省。東京大学法学部卒、コロンビア大学ロースクール修士、ニューヨーク州弁護士。これまでにエネルギー政策、成長戦略などを担当。筑波大学客員教授、大臣秘書官などを経て、2015年10月に産業人材政策室の参事官に就任。働き方改革、副業・兼業促進、IT人材育成、経営人材育成など、人材・労働関係政策を広く担当。2018年7月より現職。「人材」の観点を大切にしながら、AI・IT政策全般を統括している。

髙橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム  代表取締役会長
千葉県松戸市生まれ、千葉県立船橋高校出身。東洋大学経営学部卒業。

2008年、株式会社あしたのチームを設立し、代表取締役に就任。2018年6月より現職。現在、国内47前都道府県に営業拠点、台湾・シンガポール・上海・香港に現地法人を設立するまでに事業を拡大。1300社を超える中小・ベンチャー企業に対して、人事評価制度の構築・クラウド型運用支援サービスを提供している。著書に『給与2.0』(アスコム)、『覚悟の人生』(幻冬舎)など。

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経産省の産業政策が「カネ」から「ヒト」へ移行

伊藤さんは今年7月に異動するまで、経産省の産業人材政策室で責任者を務めていました。そこで取り組んできたことを教えてください。

伊藤禎則さん(以下、伊藤):担当は人材政策からAI政策に変わりましたが、通底する認識は変わっていません。それは「これからの経済を支えるのは人」という点です。

経産省には産業政策のツールがたくさんありますが、大半は資金面にフォーカスしたもの。戦後の傾斜生産方式から最近のベンチャー支援にいたるまで、資金調達や資金配分の円滑化が産業政策の柱でした。

でも、この10年間くらい明らかにカネ余りの状況となっています。そこで重要になるのは、人材のパフォーマンスをどう発揮させるか。髙橋会長が手がけているのも、この分野と伺います。私も2015年に産業人材政策室を率いることとなって以来、産業政策の大きな幹に「人材」を位置づけようとしてきました。ずっと人材というものを突き詰めてきた私が、今度はAI政策を担当することになったのは、ある意味で必然かもしれません。

髙橋恭介(以下、髙橋):テクノロジーという切り口よりも、ヒューマンリソース(人的資源/人材)という切り口の中にAIがあると。

伊藤:おっしゃる通りです。基本的に、AIは、人間の能力を拡張するためのツール。そういった観点が経産省のAI政策の根幹になるでしょう。

もともと成長戦略の中心テーマとして、労働者一人ひとりの生産性やモチベーションを高めることを考えていました。そういった問題意識をもっていたところ、ちょうど「働き方改革」の議論が出て来ました。いわゆる日本型雇用モデルに大きな曲がり角が訪れたんです。

当初の議論は、どうしても長時間労働の問題だけに焦点があたりがちでした。そこからさらに生産性やモチベーションの向上などへ論点を修正することが、産業人材政策室のミッション。そう考えて、約2年半のあいだ取り組んできました。

働き方改革法の成立は“ウェークアップコール”

今年6月に「働き方改革関連法」が成立しました。その内容や意義について、率直な感想を聞かせてください。

伊藤:異例ともいえる長時間の国会審議を経て、ようやく「働き方改革関連法」が成立しました。その根幹は労働時間の規制強化です。

これまでは基本的に労使が合意すれば、青天井で残業時間を設定できました。それが大きく変わります。1947年に労働基準法が成立して以来、初めて残業時間に罰則つきの上限規制がかかった。これは日本企業の企業行動を変えるウェークアップコール(警鐘/目覚まし)です。

どういうことですか?

伊藤:今回の規制によって、「労働時間は無限じゃない」というメッセージが明確になりました。制度として枠がハマるのは、大きな一歩です。経営者はこれを大前提にして、“ゲームのルールが変わった”と認識する必要があります。

もちろん、経営者の方々は生産性向上を意識していると思いますよ。われわれ経産省も、ここ20年くらい「生産性向上」と口を酸っぱくして発信しています。ところが、日本全体のマクロな生産性は一向に高まりません。

その大きな要因こそ、「時間」という資源に対する感覚の低さ。われわれ公務員が典型ですが、国会待機などの業務で夜中や早朝まで延々と仕事をしています。この悪弊をどこかで断ち切らないといけない。その入口となるのが、労働時間の規制強化です。

髙橋:今回の罰則つき上限規制、いわゆる“720時間ルール”の設定は、極めて正しいアプローチだと思います。「それだけじゃない」という異論もよくわかりますが、どこから手をつけるかがポイントなんです。

この約25年間、日本ではデフレ経済が続いてきました。そのなかで労働時間に対する規制がないと、(長時間労働を前提とした)ローコストオペレーションに歯止めがかかりません。法的に許されている手法ならば、経営サイドは使ってしまう。私自身がイチ経営者として痛感しています。

だからこそ、働き方改革関連法が成立した意義は大きい。「遅かった」と言ってもいいくらいです。

伊藤:そうですね。

髙橋:「時間外労働の規制強化」にくわえて、「同一労働同一賃金」も正しいアプローチです。この2点に法的な強制力をもたせて、労使双方の努力を啓蒙していく。経営者と従業員のマインドを変えるためには、充分なインパクトのある法律だと思っています。

業務改革と人材・IT投資こそ、生産性向上の常道

来年度以降はどのような動きになりますか?

伊藤:ウェークアップコールで目覚めたら、次にアクションにつなげる必要があります。その大きな塊が生産性向上。人口も労働時間も減っていくなかでは、生産性を上げるしか日本が成長する方法はありません。

では、どうすればいいのか。生産性とはアウトプット(産出量)をインプット(投入量)で割った指標なので、インプットを減らして、アウトプットを増やす必要があります。

たとえば、強制的に18時や19時にビルを閉館するのが働き方改革ではありません。定時で仕事を終わらせるために、業務をどう変えるのか? どう減らすのか? 得意なことに集中し、不得手な業務を、どう得意な人にやってもらうのか? インプットを減らすためには、業務改革が必要不可欠です。

そして、アウトプットを増やす方法の王道は投資しかありません。そのひとつが「人材投資」。AI時代の技術革新の波が訪れるなか、一人ひとりのパフォーマンスや潜在力を高めなければいけません。

もうひとつは「IT投資」。この10年間、日本の中小企業は驚くほどIT投資をしていません。その背景には、実は非正規労働の増加があります。人のコストが安いので、IT投資による本質的な生産性向上を先送りしていたんです。

髙橋:非正規労働者を入れることで、当面の作業をまかなってきた。いわば、アナログの力業ですね。

伊藤:ええ。その典型がFAXの使用です。いまだにFAXを使っているアジアの国は日本だけと言っても過言ではない。特に中小企業、霞が関、永田町が使い続けている。笑い話ではなく、これは由々しき事態です。一刻も早くインプットを適切に減らして、アウトプットを増やすための人材投資と本当のIT投資を行わなければなりません。

今年6月に閣議決定した政府「骨太の方針」のなかで、「一丁目一番地」に位置づけられたのも、「リカレント教育(社会人の学び直し)」と「中堅・中小企業へのIT投資」なのです。

―中編では、HRテクノロジーの可能性、IT投資を成功させるためのポイントなどについて語りあってもらいました。次回もお楽しみに。

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