これからの時代、個人の長期的なキャリアデザインなくして企業は生き残れない ~立教大学田中道昭教授 インタビュー後編~

前回に引き続き、立教大学ビジネススクール 田中道昭教授のインタビューをお届けします。2017年11月23日に発売された著書『あしたの履歴書』(あしたのチーム代表 高橋恭介との共著、ダイヤモンド社)では、個人がキャリアの棚卸しを行い、自分の現在の仕事の重要性を再認識したうえで、3年後、10年後、20年後…、と実現すべき目標を立てていく重要性を論じられた田中さん。それは働く個人にとってはもちろん、企業経営や人事戦略においても非常に重要だと言います。そこで後編では、企業経営の側面から個人のキャリアデザインについてお話を伺いました。

【Profile】
田中 道昭(たなか みちあき)

「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授、シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。主な著書に、刊行以来、実践経営・リーダーシップ部門でベストセラーを続けている『アマゾンが描く2022の世界―すべての業界を震撼させるベゾスの大戦略』(PHP研究所)。最新刊は『あしたの履歴書』(あしたのチーム代表 高橋恭介との共著、ダイヤモンド社)。

■「今任せている仕事が、その人自身のキャリアや人生にどう影響するのか」を示す重要性

―『あしたの履歴書』は、個人がキャリアデザイン上の目標を実現するための実務書であると同時に、企業と従業員が目指すべき関係性についても言及されています。この背景について教えてください。

田中さん:まず前提として、一般的に「履歴書」と聞くと転職のために必要な書類というイメージが強いですが、『あしたの履歴書』は転職を薦めているものではありません。本書の最大の狙いは、読者の市場価値を上げることであり、その市場価値を端的に表わしている「職務経歴書」をベースとしてキャリアパスを描いていきます。「履歴書」と「職務経歴書」がキャリアの2大書類と言われていますが、これらは転職のためだけのものではありません。むしろ、「あしたの履歴書」では、社内でのキャリア・デザインやキャリアプランの2大書類なのです。

現在、採用マーケットは空前の売り手市場で、AIの浸透を考慮しても少なくともあと数年はこの状況が続くでしょう。こうしたなかで、「今の仕事や会社では、自分のキャリアパスが見えない」と思われているとしたら、従業員のみなさんは簡単に離職してしまいます。ましてや優秀な人ほど自分のキャリアデザインが明確である人は多いですから、どんなに給料が高くてもキャリアパスが提示されない会社だと感じたら辞めてしまいます。企業は、個人のキャリアに対してもっと真剣に真摯に向き合わないと、生き残っていけないのではないでしょうか。だから現在、仕事へのやりがいや熱中度、わくわく感を表すエンゲージメントが重要視されているのです。

―今の仕事を通してどう成長するか、何を実現するのかを示すということでしょうか。

田中さん:経営者やマネージャーのみなさんは、従業員に会社のミッション・目標をおろすだけでなく、一人ひとりの「人生のミッション」との融合性にもっと関心を払う必要がありますし、もし本人が見えていないのであれば、考える機会を提供することが重要です。すると、今の仕事を自分のミッションと紐づけて捉えるようになり、「今の仕事でこんなスキル・知識を身につけたい」「3年以内に本社へ異動して商品企画の経験を積みたい」と現職でキャリアを築く意味が明確になっていきます。もちろん従業員が高い価値を発揮するには、環境面や評価・報酬の整備なども必要不可欠ですが、それ以前に使命感を持って取り組めているかが大切。これは、失敗しても挫けない力強さや、変化に対応する力にも密接に結びついていて、働く人が幸福感を得られる条件やエンゲージメントとも関連性があります。エンゲージメントで最も重要なのは、企業の目標と個人の目標が一致することなのです。

■長期のキャリア目標を描くことで、未来を“創る”力が養われる

―『あしたの履歴書』では、MBA理論に基づく目標達成のメソッドも盛り込まれていますよね。

田中さん:『あしたの履歴書』は3つの理論が裏付けになっています。それは、「セルフリーダーシップ」「セルフマーケティング」「教育心理学(キャリアデザイン論)」。これらはMBAを学ぶビジネススクールでも取り入れられているものですし、これまでご支援してきた上場企業の経営幹部のみなさんにも実践していただいているものですので、理論と実績を体系的にまとめあげたものだと捉えていただきたいですね。

―田中さんは未来を創る力の重要性についても説かれていますが、これにはどのような背景があるのでしょうか。

田中さん:特に日本のビジネスパーソンにおいては、この力を持つ人が少ないと指摘されているからです。20世紀型の学校教育が要因でもあるのですが、目標を立てる力や問題提起して論じる力がとにかく弱いと言われている。変化が激しい時代においては未来を予測することが難しく、むしろ予測することよりも自らの意思で創り出すことが重要になってきます。だからこそ、『あしたの履歴書』も自律的に未来を選び取るという考え方なのです。

―誰もがこのようなスキルを身につけたいと思うでしょうが、実践していくのは難しいように思います。どうすればこうした力を獲得できるのでしょうか。

田中さん:「学び方」が重要ですね。今仰っていただいたように、頭では分かるけど行動に移せないというのが、まさしく知識集約型で座学中心の学びにおける弱点。それに対して、米国のビジネススクールなどでは、アクティブラーニングを発展させた「インプロビゼーション(インプロ)教育」が行われています。 インプロ教育とは、想定外への対応力を高めてクリエイティブな問題解決能力を養成するという、変化の激しい時代に即した教育法。即興の劇を演じたり、お笑いのボケとツッコミを疑似体験するなど、身体を使って学ぶことで潜在意識にあるリミッター(枠)を外し、柔軟な発想力や行動力を身に着けるというもの。『あしたの履歴書』でも、インプロ教育を重視して、実際に身体を動かすプロセスも取り入れています。いきなり30年後の未来を描こうとしてもほとんどの人が想像することができません。しかし、インプロ教育でリミッターを外し、未来を創る力を訓練していくことで、徐々に具体的な未来の姿を描けるようになっています。 ですから、『あしたの履歴書』も書籍で完結するものではなく、実践的な研修プログラムとセットで体験いただくのが最も有効です。従業員一人ひとりが、問題意識や危機感を高め、未来を創る力を身につけることは、事業イノベーションを生み出すことにも直結しますので、まずは経営者や人事のみなさんにこそ『あしたの履歴書』に興味を持っていただきたいですね。

━━━田中さんは、2017年11月30日(木)開催予定の特別イベントでも、『あしたの履歴書』の体験講座と本書の解説などを実施予定です。ぜひ下記よりお申込みください。

>>【参加無料】11/30(木)立教大学ビジネススクール田中道昭教授による体験講座はこちら

 

 

 

 

 

 

 

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