人事評価制度は会社から社員への明確なメッセージ ~株式会社佐田 代表取締役社長 佐田 展隆さん インタビュー後編~

前編に引き続き、株式会社佐田の4代目社長を務める佐田展隆さんのインタビューをお届けします。1923年に創業した同社は、2011年から直販店の展開を加速。オーダースーツの製造卸から小売へと事業の軸足を移しました。その際に取り組んだのは、人を大切にする経営です。インタビュー後編では、企業文化に根ざした働き方改革、新卒採用が順調な要因、人事評価制度を刷新した理由などについて話を聞きました。

【Profile】
佐田 展隆(さだ のぶたか)

株式会社佐田 代表取締役社長
1974年、東京都生まれ。1999年に一橋大学を卒業後、東レ株式会社に入社。2003年に父の要請を受け、株式会社佐田に入社。営業改革の陣頭指揮をとり、破綻寸前の会社を立て直す。2005年、代表取締役に就任。2007年、金融機関の債権放棄を条件に会社を再生ファンドに売却。父と共に経営から退いた後、私的再生を実施したのが2007年、引継ぎを終え、私が経営から退いたのは2008年です。コンサルティング会社に勤務。2011年、当時のオーナーから依頼され、株式会社佐田に復帰。2012年、代表取締役に就任。製造卸を軸にしたビジネスモデルを転換し、オーダースーツの小売に注力。会社を再び成長軌道に乗せ、現在は直販店「オーダースーツSADA」を43店舗運営している。

■残業は月平均2~3時間。個人ノルマやインセンティブを排除

―接客が重要なアパレル販売は労働集約型の事業です。御社の働き方改革について教えてください。

佐田さん:昨今のように「働き方改革」が叫ばれる前から、人事労務面の環境整備に取り組んでいます。その背景にあるのは、コンサルティング会社の勤務経験。慢性的な長時間労働と仕事のプレッシャーによって、1割近くの社員が精神的な不調をきたしていました。そのため、当社が小売業に本格進出する際、「ブラックな要素は絶対に導入しない」と決意したんです。

その一環として各店舗に必要な人員を配置し、社員1名あたりの残業時間を月平均2~3時間に抑えています。私たちの商品はオーダースーツなので、在庫管理による残業は発生しません。また、当社はもともと製造業。所定の労働時間を前提にして、生産性を追求する企業文化が骨の髄までしみこんでいます。

―そのほかに重視している施策はありますか?

佐田さん:販売職にありがちな個人ノルマやインセンティブ制度を排しています。そういった制度で過度に競争をあおっても、顧客満足につながりません。もちろん、自社商品を自ら購入する“自爆営業”も禁止です。社員割引制度はありますが、店の売上からは外しています。

さらに、男女問わず長く働ける環境を整えています。世間には寿退社を前提にしている会社もあるようですが、30代以上の女性をいづらくさせるなんてバカげています。だって、ウチの工場では50代や60代の女性がミシンをふんでいるんですよ? 販売職だからといって、早期退職をうながす理由はないでしょう。実際、60代の女性店長が現場で活躍しています。

そして、彼女のように接客を極めるスペシャリストだけでなく、複数の店舗を統括するマネージャー、催事の販売会や制服受注のサポート役など、多様なキャリアパスを用意しています。意欲さえあれば、生涯現役で活躍してほしいですね。

■経営トップが採用の最前線に立ち、学生に直接語りかける

―御社は2014年に新卒採用を再開し、毎年10名程度を採用しています。若い世代に選ばれる秘訣を教えてください。

佐田さん:ひとつの要因は、先ほどお話ししたように“ブラックな要素”を排除している点です。くわえて、経営トップが採用の最前線に立っているのも大きな要因。私自身が会社説明会で熱弁をふるい、学生たちにビジョンを示しています。

たとえば、紳士服大手各社の売上合計は約6500億円です。その10%だけでもオーダースーツに変わったら、市場規模は約650億円になります。当社の売上は約30億円なので、まだまだ成長できる。それを一緒にやりませんか?と語りかけるわけです。最終面接も私が担当し、一人ひとりにあわせたメッセージを伝えています。

―今年、御社は販売職の人事評価制度を刷新します。その理由を聞かせてください。

佐田さん:社員数がどんどん増えて、私の目がすみずみまで届かなくなったからです。従来も営業本部長や店舗統括マネージャーと協力してきましたが、どうしても現場と距離が生じてしまう。もっと管理職に権限を渡さないと、組織がまわらなくなる危機感を覚えました。

また、現在のマネージャーたちは私が徹底して話をしてきたので、一心同体のような関係。明確な統一基準がなくても、人事評価にズレがありませんでした。いわゆる、あうんの呼吸です。しかし、これからマネージャーが増えると、評価基準があいまいなせいで不平等が生じかねません。

■評価制度で明確な期待を伝え、社員の成長をうながす

―だから、評価制度を入れるタイミングだと。

佐田さん:ええ。なによりも、人事評価制度は会社から社員へのわかりやすいメッセージです。「これをがんばってくれた人を評価します」という明確な期待を社員に伝えることができます。具体的な制度構築や目標設定はこれからですが、成果を出した社員に報いることができる仕組みをつくりたいと考えています。

―営業部の意識改革にはじまり、新卒採用や人材育成など、佐田さんは目の前の人間と真剣に向きあってきました。しかし、組織の拡大にともない、直接的なコミュニケーションに限界が訪れています。人事評価制度を通じて、そういった役割を管理職に委譲するねらいもありますか?

佐田さん:そうですね。私が行ってきたようなコミュニケーションをマネージャー陣にも期待しています。評価制度には定期的な面談が埋めこまれているので、おのずと上司と部下のコミュニケーションが濃くなるでしょう。コミュニケーションといっても、ただ会話が増えればそれでいいわけではありません。きちんと個々の目標、すなわち評価シートを前にして面談をすることが、マネージャー陣のスキル向上につながるのだと思います。

―最後に、中小企業の経営者へアドバイスをお願いします。

佐田さん:経営者の器以上に会社は大きくなりません。したがって、経営トップの人間的成長が極めて重要です。そして、自ら現場をゴリゴリ動かせない企業規模になったら、経営者の仕事は人材採用と育成がすべて。松下幸之助さんが喝破したように、企業は人をつくっているのです。そのための仕組みとして、人事評価制度は有効だと思います。

――経営危機を乗り越え、老舗企業のバトンをつないできた佐田さんの言葉には重みがあります。本日はインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

 

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