サイバーエージェントはなぜ競争と共創が両立できるのか -執行役員武田さん インタビュー後編-

サイバーエージェントは、年功序列を廃止し年齢関係ない抜擢や、社員の評価に関わる制度としてミスマッチ人材に対し部署異動などを促す「ミスマッチ制度」という制度があるなど、シビアな評価を行っている企業と言えるでしょう。

「実力主義型終身雇用」を掲げ、競争が前提にあると同時に、チームを大事にすることがミッションステートメントに掲げられるなど、競争と共創が両立しているのがサイバーエージェントの社風。相反する価値観はなぜ共存しているのか、前編に引き続き執行役員の武田丈宏さんに、その背景を伺いました。

【Profile】
武田 丈宏(たけだ たけひろ)
株式会社サイバーエージェント 執行役員 人事本部 本部長
1999年、関西学院大学法学部卒業後、さくら銀行(現 三井住友銀行)を経て2003年にサイバーエージェントに入社。名古屋支社に3年、大阪アカウント局の営業局長を経て、2008年に西日本事業部統括に就任し、広告事業の拡大に貢献。2013年に人事本部へ異動し、2016年10月からは執行役員(CA18)を務めている。

■ミスマッチ人材に対し部署異動などを行う「ミスマッチ制度」を運用し続ける理由

―はじめに、ミスマッチ制度の概要について読者の皆さんにご紹介ください。

武田さん:ミスマッチ制度は、会社のカルチャーや現在の仕事と、個人の適性やスタンスにミスマッチが起きていないかを確認する制度です。具体的には、半期ごとの査定のタイミングで各組織の下位5%に該当するメンバーをミスマッチ人材候補者として役員会に報告、最終的に「ミスマッチ認定」される人材が決まります。対象者に選出される理由は、周囲とチームプレーができない、周囲に悪影響を及ぼすような仕事へのスタンスだったりと様々なのですが、あくまで成果ではなくカルチャーや部署・組織とのミスマッチを基準にしています。こういった人材に対し、人事では本人と話し合いの機会を設けるようにしています。そのなかで今の役割が本人の適性にあっていないからモチベーションが低下しているということであれば、部署異動など違う機会を提供することも提案しますし、会社と目指す方向性が違うと自覚して転職を決意する人もいますね。

―御社の人事評価の基本は、目標を基準とした“絶対評価”ですよね。なのに、いわゆるマイナス評価であるミスマッチ制度に“相対評価”の側面があるのはなぜですか。

武田さん:我々は抜擢や昇進などは実力主義だけれども、会社と価値観が一致していれば終身雇用する「実力主義型終身雇用」を掲げています。この考えを実現するために、価値観の合わない人にはきちんとそれを伝え、成長可能性を最大化させるという観点で運用しています。またミスマッチ人材と認定されても、実は今与えられている機会が原因でパフォーマンスを発揮できない場合があるはずです。その可能性に気づけず現状維持を続けていくのは、会社にとっても個人にとっても不幸。その掘り起こしをするために相対的な下位評価者を選出する仕組みになっているんです。

―ミスマッチだと認定されること自体がパフォーマンスの低下を招くリスクはないのでしょうか。

武田さん:もちろん、ある日突然「あなたはミスマッチです」と告げられたら、誰だってそうなると思います。だからこそ、運用はかなり慎重に行っています。社長の藤田もこの制度をはじめるにあたっては自身のブログで意図を説明していますし、当時の社員総会でもその背景などをきちんと社長の口から説明しました。また、実際の運用にあたっても、月1回の面談などを通して、メンバーの仕事ぶりや日々の行動がどう見えているのかを、マネージャーが繰り返し説明しています。ですから、対話を繰り返したうえで、それでも会社と価値観や一致できないからミスマッチ認定という流れになることが前提。私たち人事でも、1回目のミスマッチでは「イエローカード」のつもりで自覚を促すにとどめていて、それでも改善がなければ「レッドカード」として部署異動などの対応をしています。

制度の運用によって社員全体のレベルアップが図られている感覚があり、最近では、ミスマッチの出現率が3~4%になってきているのも一定の成果だと捉えていますね。

■役員が率先してカルチャーを体現し続ける意味

―ミスマッチ制度のような厳しい側面もある一方で、みんなで議論して目標を決めるなどチームワークを重視していますよね。そういった相反する風土はなぜ実現できているのでしょうか。

武田さん:まず、“競争”の部分については経営陣自らがその環境に晒され、メンバーに背中を見せているということが大きいですね。当社では「あした会議」という経営陣がチームリーダーとなって新規事業や中長期の課題解決案を提案、その場で決議する合宿があるのですが、その結果は1位から最下位までランキングされ、全社に公表されます。役員が今のポジションに安穏とせず、そういったシビアな環境に身を置くからこそ、自分たちも順位づけされたり、競争しながら上を目指すことは当然という感覚でいるメンバーは多いですね。だからこそ、順位づけで下位になったことや、社内コンペで負けたときに、その悔しさをバネにして伸びていくような“へこたれない人”が多い気がします。

一方で“共創”の風土については、ミッションステートメントに定めている通りで、『「チーム・サイバーエージェント」の意識を忘れない』という考えに基づいて行動しているかを、マネジメントでかなり注視しています。どんなに業績が良くても、独りよがりに行動したりチームプレーができない人は、それこそ当社の「カルチャーに合わない人」。チームへの貢献は評価に大きく関わってくるので、自然と身につくことだとは思います。

―そういった意味で言えば、人事のみなさんは社内制度の企画や運用を通して、サイバーエージェントの風土をつくっていると言えますね。

武田さん:まさしく私たちはその意識でいます。制度が一人ひとりの行動や意識に反映され浸透していくことを目指しています。たとえるなら、社員や内定者が、家族・友人など身近な人へサイバーエージェントを語るときに、自慢してもらえるような制度であるのが理想。当社の良さを語るときの象徴的なものであれば、それは制度を越えた風土だと言えるはずです。

―風土にまで昇華させること、つまり定着・浸透させるコツはありますか。

武田さん:もちろん制度としての機能を追求することが前提ですが、そのうえで定着するにはネーミングが重視だと考えています。「ワクワクするか」「明確か」に加えて、「覚えやすいか(キャッチーであるか)」の三原則を大事にしているんです。どんなものにもネーミングに手を抜かないのが当社の文化。制度だけでなく、個々人が目標設定する際もかなり気にしていますね。商品やサービス名を考えるように、社内のことであっても手は抜かない。それがみんなに愛される制度への第一歩だと思います。

 

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