ディーセントワークとは?企業の取り組み事例や導入のポイントを解説

2019年4月から働き方改革法案が施行されて以降、働きがいのある人間らしい仕事を意味する「ディーセントワーク」という言葉が注目されています。

仕事と人生を両立できる職場環境を整備することが優れた人材を定着させると同時に、人手不足や採用難に左右されずに企業価値を向上させる秘訣です。

SDGsの目標としても設定されているディーセントワークを推進するメリットや、導入のポイント・企業の取り組み事例について解説します。

ディーセントワークの意味

ディーセントワークの推進に先立ち、世界的な考え方と日本国内での取り組みについて確認してみましょう。

ディーセントワークとは?

ディーセントワークとは「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的仕事」(第87回ILO総会(1999年)事務局長報告 DECENT WORK 日本語訳)という意味で、1999年のILO総会で初めて用いられた言葉です。

「良識にかなった」「まずまずの」という意味を含んだディーセント(decent)という言葉を用いて、労働者の人権を尊重した上で高い生産性を実現する考え方が示されています。

性別や国籍などによる差別をなくし、人間らしい暮らしを継続的に営める労働条件の保障も、大切な取り組みの一つです。

具体的な労働条件に関して国際労働機関(ILO)が定めた条約・勧告を遵守した上で、国や企業の実情に応じてディーセントワークの実現を目指すのが世界的な流れだといえます。

働き方改革で厚生労働省が推進。日本におけるディーセントワークの取り組み

2019年4月の労働基準法改正に伴い、年5日の有給休暇取得義務化や時間外労働の上限規制など、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を主眼に置いた働き方改革が本格的にスタートしました。

雇用形態による待遇格差を解消し、働く人が多様な働き方を選択しやすくなる同一労働同一賃金制度の義務化も、ディーセントワークの実現に向けた大きな一歩です。

日本でのディーセントワークの内容は、2012年3月に公表された「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書(厚生労働省)」によって、4つに整理されています。

(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること

(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること


(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること


(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書(厚生労働省)」

また、2012年7月に閣議決定された「日本再生戦略」にも、国民全員が意欲を引き出し、能力を発揮できる環境整備が、ディーセントワークを実現する道筋として提示されています。

厚生労働省が提供する助成金制度や、働き方・休み方改善コンサルタントの無料派遣を通じて社内規程の整備を進めることが、ディーセントワーク導入への第一歩です。

ディーセントワーク実現のためにILOが掲げる計画

ILOはディーセントワークを実現するために、以下の5つの計画を掲げました。

  • 安心安全な労働の提供
  • 社会保護の土台形成
  • 健全な雇用の促進
  • よりよい仕事の計画
  • 児童労働の撤廃

世界中で1年間に起こる事故の件数は3億1,700件、毎日6,300人もの労働者が仕事に関する災害や疾病で命を落としています。「安心安全な労働の提供」を目指して「労働安全衛生に関する防止のための世界行動計画(OSH GAP)」では事故や病気を防ぎ安全に働けるための文化醸成を図っています。

また、「社会保障保護の土台形成」では、すべての人に社会保護のセーフティーネットを与えることを目的としています。所得の保障や保健医療の提供など基本的な社会保護を目指し、プログラム第一弾では世界21カ国で社会保護に関する活動が行われました。

「健全な雇用の促進」とは、災害や紛争の影響を受けやすい人たちに働く機会を提供し、よりよい未来を築く礎の創出を目指すという考え方です。さらに「よりよい仕事の計画」では、ILOが公的資金や補助金付雇用の拡大を通じて若者の就労を支援し、「児童労働の撤廃」では「児童労働撤廃国際計画(IPEC)」が2025年までにすべての児童労働を撤廃することを目標に掲げています。

日本における労働環境の問題点

世界でディーセントワークが推進されるなか、日本はディーセントワークにおいて後進国とされています。日本は以下のような労働環境の問題を抱えています。

  • 労働人口の減少
  • 長時間労働
  • ハラスメント
  • 雇用の格差

日本の労働人口が減少し始めていることは課題の一つです。15以上65歳未満の人口を「生産年齢人口」と呼びますが、日本の生産年齢人口は2021年に7,450万人だったのに対し、2050年には5,275万人にまで減少すると、内閣府の「令和4年版高齢社会白書」により予想されています。ロボット・AIの活用や外国人労働者の受け入れなども行い、労働力不足へ対応しなければならなくなるでしょう。

また、長時間労働に対しても是正が必要です。「過労死等防止対策推進法」や「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が定められるなど、政府が長時間労働削減への取り組みを活発に行なっている状況からも、長時間労働の問題が重大であることが読み取れます。

さらに、ハラスメントも大きな課題です。厚生労働省が行なった令和2年の「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に48.2%がパワーハラスメント、29.8%がセクシャルハラスメントがあったと示しています。

日本では正規雇用と非正規雇用の格差も深刻です。賃金の差や職業訓練を受ける機会の有無などが指摘されており、このままでは人的資本の質の低下や生産性低下の危険性が危惧されています。

オランダにおけるディーセントワークの取り組み事例

オランダでは、パートタイム労働者を軸にした多様な働き方(オランダ・モデル)が確立しており、ディーセントワークの先駆けといわれています。

職務表に基づく業務評価によって賃金が決定されるため、待遇や昇進の格差を気にせず、自分が持つ能力を存分に発揮可能な環境です。

ライフスタイルに応じて労働時間を変更する権利もすべての労働者に付与されており、男女問わず家庭や社会活動と両立しながら人間らしい暮らしを実現できます。

ディーセントワークのメリット

ディーセントワークを導入すると、働く人・企業双方へ主に3つのメリットをもたらします。

従業員満足度の向上

短時間勤務や週休3日制など多様な働き方を提供することで、働く人のライフスタイルに対応しやすくなり、従業員満足度の向上が期待できます。

同時に、企業にとっては人材流出・業務品質の低下リスクを軽減できるメリットも生まれるでしょう。

育児・介護休業制度が法律で義務づけられているとはいえ、育児での退職者が年間約20万人、介護離職者が年間約10万人発生しているのが現状です。
(共に平成29年就業構造基本調査)

仕事と育児・介護との両立が難しいことが離職理由の半数以上を占めており、働き方を変えることで現在の職場で働き続けられたという意見もあります。

視点を変えると、企業が提示する働き方に対する不満が離職に結びついているともいえます。

働く人・企業双方が信頼関係を長期間にわたって持ち続けるためには、ディーセントワークの導入を通じて働き方に関する不満を解消することが重要です。

企業イメージの向上

健康的に働ける職場づくりが、働く人を大切にする会社というイメージをもたらします。

ミッションステートメント等を通じて、勤務間インターバルの導入など具体的な取り組みを公表したり、健康経営優良法人の認定を受けたりすることも、企業イメージの向上には効果的です。

長時間労働やハラスメント問題は、働く人の心身にダメージを及ぼす恐れがある他、企業の信頼が失墜するなど、経営問題に直結します。

SNSを通じた多方面への情報拡散(炎上)によるレピュテーションリスクも無視できません。健康経営もディーセントワーク実践の一つの方法であり、生産性の向上を通じて働きがいがある職場づくりにもつながります。

人手不足の解消

堅実に経営している企業であっても、人手不足や採用難に伴い事業の縮小や黒字倒産、M&Aを余儀なくされる事例が見受けられます。

ディーセントワークを実践することで、働く人の定着率向上を通じて人手不足の解消が可能です。採用コストが削減できる副次的効果も見逃せません。

適正な人事評価を実施することも、退職に伴う人手不足を防止するための有効な手段です。

厚生労働省「平成30年雇用動向調査結果の概況」によれば、仕事内容に興味を持てなかったり能力・個性・資格を生かせなかったりという理由で、転職入職(中途採用)者の約1割が退職しています。

働く人それぞれが持つ能力や個性を伸ばすことが、ディーセントワークの実践には不可欠です。

ディーセントワークがSDGs達成の鍵を握る

2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」では、2030年までに国際社会全体にかかわる貧困や環境問題を解決し、平和で安全な暮らしを実現することが目標とされています。その目標の一つとして掲げられているのが、ディーセントワークの推進です。

人権の尊重や適正な労働環境の構築など、持続可能な社会を創る取り組みは、SDGsの採択前からCSR(Corporate Social Responsibility)という形で行われています。

行動目標を企業独自の目線で決めるため、取り組みの具体性や効果測定の客観性に課題があるようです。

一方、SDGsでは国際的に解決すべき17個の課題が明示されており、共通の行動目標も具体的に示されています。中小企業や個人であっても、当事者意識を持ってSDGsの実現に取り組みやすいのが特徴です。

2020年4月(中小企業は2021年4月)から、非正規雇用労働者への待遇に関する説明義務が定められたのも、SDGsに対応した取り組みの一つといえます。

2020年1月に、SDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)がスタートしました。働く人(労働者)と企業(使用者)とが対等な立場で協議し、企業の実態に合わせながらディーセントワークを実現することが、労働を通じて持続可能な世界を目指すためには重要です。

ディーセントワーク導入のポイント

2012年3月に公表された「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書(厚生労働省)」では、ディーセントワークを導入するポイントとして7つの軸が示されています。その「軸」の作り方について説明します。

WLB軸

ワーク・ライフ・バランスを保ちながら、年齢にかかわらず働き続けることができる職場かどうかを示す軸です。

仕事と家庭、地域活動、自己啓発との両立が無理なくできる労働環境づくり、例えば特別休暇の設定や勤務日時の柔軟な変更を認める制度の構築が考えられます。

定年の引き上げ・廃止を行うことも、高齢者の豊かな経験を企業運営へ活用するためには効果的です。

公正平等軸

すべての労働者が公正・平等に活躍できる職場かどうかを示す軸です。

性別や雇用形態にかかわらず、能力が正当に評価される制度を設けたり、障害者が働く場を提供したりすることが考えられます。

能力や職務内容に応じて、正規労働者とのバランスが取れた待遇を提供することも大切です。

自己鍛錬軸

職業生活の中で、働く人の経験に応じた能力開発の機会が確保され、やりがいをもって働き続けることができる職場かどうかを示す軸です。

仕事に必要な技術や従業員一人ひとりの働きがいの向上を目指して、スキルマップや職務評価シートをもとに教育訓練計画を立て、職場内外で研修を受講してもらう方法がメインです。

自己鍛錬の場の充実を図るため、従業員が研修・講座の受講を希望した際に、費用の補助や勤務日時への配慮を行うことも考えられます。

収入軸

仕事の時間数や成果に応じて、人間らしい生活を営める収入を得られる職場かどうかを示す軸です。

従業員が、結婚や育児・介護などライフスタイルの変化に対応できるだけの賃金を支払える制度の構築が考えられます。

ワーキングプアの根絶を念頭におき、最低賃金だけでなく生活保護水準や物価の動向にも目を配ることが大切です。

労働者の権利軸

働く人と企業とが対等な立場で、労働条件や職場環境について意見を交換しあえる職場かどうかを示す軸です。

クローズド・ショップ制を採用する場合を除き、労働組合に加入・脱退する自由も権利軸に含まれます。

法令の改正や労働環境の変化に対応しながら、権利・義務のバランスに配慮した上でディーセントワークを推進していくことが、健全な職場づくりの秘訣です。

安全衛生軸

安全な環境が確保・維持されている職場かどうかを示す軸です。

設備・器具といったハード面の環境整備だけでなく、ハラスメントを防止し良好な人間関係を構築・維持できる環境作りなど、精神(ソフト)面でも安心して働ける場の整備も重要視されます。

長時間残業や休日出勤を減少させる目的で人員配置や業務分担を最適化することも、従業員が安全に働く環境づくりにつながるでしょう。

セーフティネット軸

業務中・通勤中の事故に対する補償制度である労災保険をはじめ、条件に合致する人が確実に雇用保険や健康保険・厚生年金保険に加入するする職場かどうかを示す軸です。

特に健康保険は、すべての人が等しく医療サービスを受けられるという国民皆保険制度の基盤となる部分であり、憲法で保障されている生存権にも結びつきます。

失業給付や各種年金の受給など、退職後の貧困を防止する一面も持っています。

ディーセントワークの実現を目指す企業の実例

ここでは、ディーセントワークを推進している企業の実例を紹介します。

日立製作所

日立製作所は、ディーセントワークに基づく人事戦略を構築している企業です。人材のグローバル化・グローバル人材の採用・キャリア開発サポートなどを軸に、若手社員の海外勤務推進や外国人・国外の大学を卒業した日本人などを積極的に採用しています。また、社員サーベイを実施し、グローバル人材が仕事にやりがいを感じられるような施策も実施しています。

Panasonic

Panasonicが注力するのは、次世代教育支援と女性の活躍推進です。信頼に基づく相互関係を基盤とした組織風土の醸成をはじめ、仕事と子育てや介護の両立、働き方・休み方の見直しなどを推進しています。上司と部下1対1で対話の場を設定したり、有給休暇やファミリーサポート休暇取得の推進をしたりなど、ディーセントワークの実現を図っています。

サイボウズ

サイボウズのモットーは「100人いたら100通りの働き方」です。ワークスタイルを変革するための要件として「制度」「ツール」「風土」の3つを挙げています。在宅勤務、人事と給与の見直し、育児休暇取得の推進をはじめ、バーチャルオフィスや情報共有クラウドの導入など、個性と多様性を重視する企業文化を構築しています。働き方を場所と時間で区切った人事制度「働き方宣言制度」も注目を集めています。

従業員の“働きがい”を実現するために適切な人事評価を

ディーセントワークの推進には、人間らしく働ける環境づくりはもちろん、仕事の成果を適切に評価する仕組み作りも大切です。

働く人の能力や努力が評価されることで、従業員の働きがいと共に、企業の生産性・存在価値の向上に結びつくでしょう。

厚生労働省でも人材確保等支援助成金などの制度を設けて、ディーセントワークの導入にかかる経済的負担を軽減する対応がなされています。

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