ランチェスター戦略とは?2つの法則や強者と弱者の企業事例、実践方法を解説

ランチェスター戦略は、企業を「強者」と「弱者」に分類し、それぞれにあった戦い方で事業拡大を目指す戦略です。戦略内容を把握し、適切に活用すれば、自社をこれまで以上に成長させられる可能性があります。

本記事では、ランチェスター戦略や、そのもととなったランチェスターの法則、強者と弱者の戦略、その事例などについてお伝えしていきます。事業拡大を目指しているようであれば、ぜひ参考にしてください。

ランチェスター戦略とは?

ランチェスター戦略とは、経営戦略の1つです。戦争理論である「ランチェスターの法則」をビジネス向けに応用したもので、1972年に岡田信夫という日本人によって提唱されました。競争戦略・販売戦略のバイブルとも言われており、提唱から50年以上経った現在でも多くの企業で導入されています。

組織規模などに関係なく導入できる戦略で、正しく活用すれば事業拡大・シェア拡大を目指しやすくなります。実際にパナソニックの前身の松下電器産業、旅行会社のHISをはじめとする、誰もが知る有名企業でも導入されてきました。

どんな企業にとっても心強い戦略ではありますが、漠然と取り入れたのでは良い効果は望めません。もし導入を検討しているのであれば、まずは戦略の理論や、自社の状況について正しく把握するところから始めましょう。

ランチェスター戦略のべースとなったランチェスターの法則とは

ランチェスターの法則は、第一次世界大戦時に提唱されたものです。イギリスの航空工学の研究者、F.W.ランチェスターが、空中戦の飛行機の数とその損害量を研究するなかで確立されたといわれています。

そんなランチェスターの法則には「第一法則」と「第二法則」があります。戦闘の勝敗はチームの戦闘力によって決まりますが、その戦闘力は「兵力数」と「武器性能」に左右されます。さらに戦い方によっても変動します。それを踏まえた法則が、「第一法則」と「第二法則」です。

ここではその2つの法則について説明していきます。

ランチェスター第一法則

狭いエリアで、剣などを用いて接近戦で戦うことを想定した法則です。この状況下での戦闘力は次の式で算出されます。

戦闘力=兵力数×武器性能 
※兵力数は戦う人数、武器性能は武器の性能を示しています。

例えば下記2つのチームが戦うとします。

チームA:兵力数5 武器性能2
チームB:兵力数3 武器性能5

このときの勝者はチームBです。
なぜなら、それぞれの戦闘力は下記のようになるからです。

チームAの戦闘力=5×2=10
チームBの戦闘力=3×5=15 WIN

このように「狭いエリアで接近して戦う場合、兵力数が少なくても武器の性能さえ良ければ勝てる」という法則が、第一法則です。

つまりビジネスでいうと「エリアやターゲットなどを絞り、差別化を図った強い商品で勝負すれば、格上の企業にも勝てる可能性がある」ということです。

ランチェスター第二法則

広いエリアで、銃などを用いて遠距離で戦うことを想定した法則です。この状況下での戦闘力は次の式で算出されます。

戦闘力=兵力数の2乗×武器性能
※兵力数が2乗される理由は、広域にて遠距離で戦うと相乗効果を発揮するためです。

例えば下記2つのチームが戦うとします。

チームA:兵力数5 武器性能2
チームB:兵力数3 武器性能5

さきほどと両チームとも兵力数と武器性能は変わっていません。

しかし今回の勝者はチームAです。
なぜなら、それぞれの戦闘力は下記のようになるからです。

チームAの戦闘力=5×5×2=50 WIN
チームBの戦闘力=3×3×5=45 

このように「広いエリアにて遠距離で戦う場合、武器の性能以上に、兵力数がものをいう」という法則が、第二法則です。

つまりビジネスでいうと「全国区で戦う場合、認知度が低い企業が強い商品を用意しても、大手企業などが圧倒的に有利」ということです。

強者と弱者のランチェスター戦略

ランチェスターの法則の第一法則と第二法則から分かるように、戦略には「弱者に適した戦略」「強者に適した戦略」があります。ここではそれぞれの戦略についてお伝えしていきます。

なお、ランチェスター戦略でいう「強者」は、特定市場でシェア率1位の企業を指します。2位以下は全て「弱者」という位置付けになることを認識しておきましょう。

強者の戦略

強者が取るべき基本戦略は「ミート戦略」です。ミート戦略とは、弱者の差別化を封じ、つけいる隙をなくすという戦略です。

例えば、弱者が新しい商品やサービスを出したら、すかさずそれを真似た商品やサービスを出します。そうすれば圧倒的な兵力数がある強者は、弱者に量で勝てることになります。

なお、強者は下記5つの戦法を意識しておく必要があります。

■広域戦
■遠隔戦
■確率戦
■誘導戦
■総合主義

なぜならランチェスターの法則の第二法則から分かるように、兵力数が多ければ広域戦・遠隔戦・確率戦などで非常に有利になります。逆に兵力数が多くても、局所戦・接近戦では弱者に負けてしまう可能性があります。そのため、自身にとって有利な戦法を意識する必要があるのです。ビジネスでいうと下記のような戦い方をすることになります。

  • 各地の支社、豊富な人材で営業する(広域戦)
  • 広告などを用いて顧客にアプローチする(遠隔戦)
  • 競合が多い市場を狙う(確率戦)
  • 弱者と同等の品物を低価格で出し、価格競争に持ち込む(誘導戦)
  • 商品数、品質、対応エリアなど自社の強みフル活用する(総合主義)

弱者の戦略

弱者が取るべき戦略は、特定市場・分野で1位を目指すことです。「飲食業界で1位になる」といった大きな土俵ではなく、あくまで限定的な市場・分野での1位を目指します。

例えば「地元の人だけをターゲットに、スーパーなどにはない高級食パンだけ売る」といったように、地域、ターゲット、商品を絞り、限定的な分野で1位を狙うのです。そして1位をコツコツ増やし、その結果として広い範囲での1位を目指します。

なお、弱者は下記5つの戦法について意識しておく必要があります。

■局地戦
■接近戦
■一騎打ち戦
■一点集中主義
■陽動戦

なぜならランチェスターの法則の第一法則から分かるように、兵力数で劣っていても武器や戦い方次第で、弱者も強者に勝てる可能性があるためです。逆に弱者が強者の戦い方をしても勝ち目はありません。全滅してしまう可能性さえあるため、少しでも自身にとって有利な戦い方をする必要があります。なお、ビジネスでいうと下記のような戦い方をすることになります。

  • エリアや対象を限定して営業する(局地戦)
  • お客様と直接会って提案する(接近戦)
  • ピンポイントの分野だけの競合と戦う(一騎打ち戦)
  • 目標を1つに絞って重点的に攻める(一点集中主義)
  • 強者が想像もしなかった方法をしかける(陽動戦)

強者のランチェスター戦略の事例

ここでは強者がランチェスター戦略を活用した例として、松下電器産業の事例をご紹介させていただきます。

松下電器産業とはパナソニックの前身企業。ナショナルという系列電器店を持ち、当時他メーカーの3倍の兵力数を持っていました。

そんな松下電器産業は、ライバル会社が差別化商品を販売し、人気の兆しが出ると同等の商品をすかさず販売。兵力数を武器に、ライバル会社以上に商品を拡げていきました。

家電業界ではこの戦い方を「松下まねした商法」と表現することもあったようですが、まさにランチェスター戦略の強者の戦い方です。

なお、松下電器産業は大正7年に、創業者である松下幸之助、その妻、娘のたった3名でスタートを切った会社。その後、得意先の意見や市場ニーズをもとに開発・商品提供を進め、強者の立ち位置に上り詰めました。現代と当時の社会的ニーズ、競合数などは異なりますが、その社歴を辿ると、ビジネスにおけるさまざまなヒントを得られそうです。

弱者のランチェスター戦略の事例

ここでは弱者がランチェスター戦略を活用した例として、3つの企業事例をご紹介させていただきます。

HIS

HISは今では誰もが知る旅行会社。しかし最初は弱者という立場からスタートしています。

当時はパッケージツアーが主流でしたが、HISはあえて海外向けの格安航空券を販売。さらに旅行に慣れた社員によるお客様への説明会、旅行者が少なかったインドや中国を対象にした航空券の販売などを行ない、徐々に地位を築いていきます。

その後パッケージツアーにも参入しますが、最初は「ターゲットは若者」「旅行先はバリやセブ」に絞って営業活動を実施。「格安ツアーといえばHIS」という地位を着実に確立し、強者へと上り詰めました。

株式会社いろどり

旅館や料亭で食事をすると、お皿に季節の葉っぱが添えられていることも珍しくありません。その葉っぱをビジネスにしているのが、株式会社いろどりです。

この会社があるのは徳島県上勝町という小さな町。人口1500人弱、面積の86%が山林という場所です。都心とは全く環境が異なりますが、山林が多いことから、葉っぱならいくらでも取れる状況…それを武器に色・形・状態がいい葉っぱを厳選し、日本各地へ出荷しています。

ビジネスの独自性を活かしたことで年商は2億円にまで成長し、今ではネットワークを用いた情報管理、分析、マーケティング、SNSの導入など、時代に応じた技術も活用して葉っぱビジネスの成長を目指しているようです。

このように「誰も想像もしなかった商品」で「その分野を突き詰める」という戦い方で、成長を遂げた企業もあるのです。

株式会社ヒライ

株式会社ヒライは熊本県の惣菜製造業者です。お弁当屋、お惣菜屋、うどん・丼店などを、熊本・福岡・大分・佐賀に137店舗展開しています。

そんな同社も創業から20年間は熊本だけを対象に事業を展開。その後徐々に隣県に店舗を広げていくという、弱者の戦い方をしていました。

そして九州エリアで認知度を上げてからは、店舗ごとの顧客層やニーズを分析しつつ、「地域で一番美味しいお店と同等のものを20%安い価格で提供する」「テイクアウト・イートイン・売店、3つの機能をもつ店舗を展開する」など、強者の戦い方をしています。

まさに自社の立ち位置にあわせた戦い方で、成功を収めている企業の1つです。

ランチェスター戦略の市場占有率の目安

ランチェスター戦略では「自社が強者なのか弱者なのか」「強者や弱者のなかでも、今どの位置にいるのか」を把握した上で、アクションを起こすのが重要です。その際に役立つのが次の市場占拠率目標数値です。自社の市場シェア率と照らし合わせ、まずどの立ち位置にいるのかを確認してみましょう。

シェア率名称意味立ち位置
73.90%上限目標値2位以下と大きく差をつけており、絶対的トップの状況。強者
  ※ただし、これ以上シェア率を伸ばせば、市場内での競争が乏しくなり、 市場そのものの勢いがなくなる可能性があるため注意が必要。 
41.70%安定目標値ほぼ独走している状況で、安定した事業展開が可能。 
  ※シェア率が半数を満たしていないものの、実際の市場では複数社が競合しているため、全体の41.7%以上のシェアがあれば安定性が高まります。 
26.10%下限目標値トップ企業になるために最低限必要な数値が、この下限目標値。そのため市場内で一歩抜きんでている状況です。 
19.30%上位目標値1位を狙える状況。弱者のなかでも強いポジション。弱者
10.90%影響目標値市場での認知度が高まっている状況。そのため市場競争が激しくなる。 
6.80%存在目標値市場で認知されている状況。ただ、まだ市場に与える影響は少ない。 
2.80%拠点目標値市場参入時の目標数値。まだ市場ではほとんど認知されていない状況。 

「自社のシェア率をどう把握すればいいのか分からない」というケースもあるかと思います。そういった場合は次の流れで、まず分かる部分から把握するという方法もあります。

例えば自社商品・サービスのジャンルにおいて、一世帯あたりの平均年間需要額が5万円の場合。1万世帯をターゲットにするのであれば市場規模は5億円です。自社の売上がもし5000万円であれば、シェア率は10%と計算できます。

もちろん扱う商品・サービスによっては、市場を把握しづらい可能性もあります。ただ自社の立ち位置の把握は、ランチェスター戦略を導入する・しないに関わらず、経営において非常に重要です。「最近ちょっと認知度が上がった気がする」という肌感ではなく、ある程度のデータに基づき俯瞰的に分析しましょう。

ランチェスター戦略の3つの結論

ランチェスター戦略では、常に意識しておきたい3つのポイントがあります。

■ナンバーワン主義
1つ目のポイントは「特定市場で1位を目指すこと」です。

ランチェスター戦略では特定市場におけるシェア1位の企業を「強者」、それ以外を「弱者」と位置付けています。それほど1位と2位には大きな差があるのです。実際に日本で一番高い山といえば、誰もが富士山だと知っていますが、二番目に高い山を知っている人はごく一部の人でしょう。

この例からも分かるように、2位ではなく「特定の市場で1位」になるのが重要です。もちろん2位と僅差であれば、それだけ2位にのし上がられる可能性も高くなります。しかし大差をつけて1位になれば、強者の立ち位置を利用して、有利にビジネスを展開できます。そのため、特定市場で1位、それも圧倒的な1位を目指しましょう。

■一点集中主義
「ランチェスターの法則の第一法則」「弱者の戦略」でも触れましたが、弱者でも狭い範囲であれば1位を目指しやすくなります。エリア、ターゲット、商品・サービスの特性などを絞りに絞り、限定的な分野だけに一点集中するのが大切です。

リソースを分散させると、それだけ競合企業や強者に負けてしまう可能性も高まります。徐々に1位の範囲を拡げて、最終的に広い範囲での1位を目指すために、一点集中で行動しましょう。

■足下の敵に勝つ
足下とは、自社よりワンランク下の競合企業のことを指します。具体的には、市場で自社が2位なのであれば、3位の企業ということです。

市場内でシェア率をあげるには、競合企業からシェアを奪うしかありません。ただし、やみくもにシェアを奪うのではなく、自社よりワンランク下の企業を狙うのが重要です。なぜなら、「自社シェアが10%、ワンランク下の企業のシェアが8%」の場合、5%のシェアを奪えば「自社シェアは15%、ワンランク下の企業のシェアは3%」と大きく差をつけられます。

そのため、狙うのであれば足下の敵を狙い、シェア率を伸ばしつつ差もつける…という戦い方をしましょう。

ランチェスター戦略の3つの実践例

それではランチェスター戦略は、実際にどのように戦略づくりに活用されているのでしょうか。ここでは実際にどんな場面で活用されているのかを説明していきます。

地域戦略

ランチェスター戦略は地域を営業エリアを細分化し、どこのエリアでシェア1位を作っていくか戦略を立てる際に活用されます。例えば、チェーンレストラン業界に進出する場合に、No1である企業は人口・所得共に比較的高く、今後も所得額の伸びが期待される中間層の多い都市部を中心に展開しているとします。

その場合は、弱者はNo1が展開できていないエリアでかつ、今後移住が促進されそうなエリアに絞って展開するなど、ランチェスター戦略は役立てられるでしょう。

シェアアップ戦略

営業活動で、どのようにシェア拡大を図るか考える際にも活かせます。通常、シェアアップのためには、新規顧客の増加、客単価の調整、流出顧客の減少を考慮することが必要です。この3つの内、どれにでもランチェスター戦略の考え方は活かすことができるでしょう。

例えば、客単価の調整を考える際、まずは、競合他社の商品の中で客単価の高い商品を抽出します。そして、その層に向けて、類似した製品でかつ競合他社よりも安い製品をぶつけます。客単価は競合他社よりも低めですが、販売数量が増えれば「競合他社の客層の中でも比較的安ければ継続して購入したい」という層に向けてシェアを獲得することが期待できるでしょう。

営業戦略

営業戦略にもランチェスター戦略の考え方は活用できます。ここでは、お客様と直接会って提案する接近戦や、目標を1つに絞って重点的に攻める一点集中主義などを参考にするとよいでしょう。

例えば、大手企業でも長年既存顧客である取引先の場合、特に営業しなくとも商品を購入してくれる先があることは少なくありません。「既存ビジネスは切れそうにないが、新規商品の購入は難しそうな顧客」の場合、営業担当者も力が入りにくく、年末年始の挨拶など形式的な挨拶のみになることもあります。そういった場合には、「直接会って提案する接近戦」は有効な手段となります。

また、一点集中主義についても強者との類似商品の中でも価格、品質などの面でメリットを感じるものについて、ある客層を集中的に狙って営業をかけるなど、営業戦略に役立てられるのです。

ランチェスター戦略のやり方

ランチェスター戦略では、セグメンテーションとターゲティングが有効です。現在県全体を対象に営業活動をしているのであれば、○○区、○○町、○○駅周辺など、より細分化したエリアを対象に営業するのもいいでしょう。

また、顧客層のセグメンテーションも大切です。例えばターゲットを一般家庭にすると競合企業が多いという場合、あえて法人企業をターゲットにできないか考えてみるのも1つの方法です。もちろん全てにおいて逆張りがいいというわけではありませんが、思いもよらぬブルーオーシャンを見つけられる可能性もあるため、ランチェスター戦略を導入するのであれば、今一度さまざまな角度から勝ち筋を探してみましょう。

ランチェスター戦略を自社のビジネスに活かそう

「強者は数を用いれば圧倒的に有利に戦える」「弱者も戦い方次第では格上企業に勝てる」というのがランチェスター戦略です。企業規模に関わらず、取り入れられる戦略なので、「なかなか事業が成長しない」「営業を雇ってもシェアが増えない」といった課題を感じているようであれば、ぜひ活用してみてください。

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