OJTとは?「放置」とは違う即戦力を育成する正しい教育・研修のやり方とコツ

(画像=yokoken/iStock)

企業が成長し続けるためには、「新入社員をどのように育てるか」がとても重要です。経営者や人事担当者、管理者といった立場にいると、新人教育や育成方法について悩むことも多いのではないでしょうか。

 そんな新人教育の1つの方法として注目されているのがOJT です。

教育の場では古くから用いられてきた方法として、現在でもOJTを導入している会社も多くありますが、その正しい考え方や運用方法を知ることで、より効果を発揮できるでしょう。

この記事ではOJTの概要や、メリットとデメリット、効果を生むOJTの実施方法について解説します。

OJTとは?

ここではOJTの意味や、対照的な用語である「OFFJT」についても説明します。OJTによって効果的な教育を行うためには、まずはその意味を正確に知ることから始めましょう。

OJTとは業務の中で行う実務的な研修

OJTとは「On-The-Job Training」の略語で、実務を通して教育担当者が指導を行う教育訓練の方法です。

座学形式の教育方法とは異なり、新人を実際の職務現場に投入して業務に触れさせながら指導・育成をします。

実務経験によって知識やスキルを蓄積しながら、同時に教育担当者である上司・先輩から“生身”のフィードバックも受けられるため、実践を通して即戦力の人材になる教育方法です。

OJTが普及した歴史・背景

OJTは第一次世界大戦中のアメリカ軍が兵士を育成するために行ったことが起源とされています。

当時、数多くの隊員を効率的に育成するために開発されたのが「4段階職業指導法」というもので、新人に対してまずはやってみせて、説明し、本人にやらせてみて、チェック・指導する手法です。

これが原型として普及し、現代のビジネスにも定着したと考えられています。

OFFJTとは?

OJTに対してOFFJTという人材育成の手法があります。

OFFJTとは「Off-The-Job Training」の略語で、実務現場からは外れて、学ぶことに特化した教育訓練です。

例えば、講師による講義や、座学、グループワークといった研修を指し、しばしば集合研修の形が取られます。

学ぶ内容は、業務に関する知識はもちろん、業界知識や財務会計といったビジネスの基礎的教養の他、社会人として求められるコンプライアンスやセキュリティ意識がテーマになることもあり、さまざまです。

 OFFJTはインプットするための方法として優れており、知識をじっくりと体系的に学ぶことができる点がメリット です。

一方、必ずしも実務を伴わないため、応用できるようになるには別途現場でのトレーニングが必要というデメリットもあります。

OJTとエルダー制度・メンター制度の違い

エルダー制度はOJTの一種です。上司ではなく”年齢の近い先輩社員”が、実務を通して新入社員を教育するというのが特徴です。そのため「ブラザー制度」「シスター制度」と呼ばれることもあります。

また、OJTと形式が似ている制度にメンター制度があります。”教育方法”であるOJTと異なり、メンター制度はメンターとなる先輩が新入社員の”精神面をサポートする制度”です。

そしてOJTでは同部署の上司や先輩が指導にあたりますが、メンター制度では基本的に別部署の人物がサポートするという点も違いに挙げられます。

企業におけるOJTの実施状況と効果

国内でのOJT実施率は50%程度

厚生労働省の発表した『平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-』によると、日本企業では社員教育においてOJTがそれなりに重視されている傾向にある一方、OJT実施率は約50%とOECD平均を下回っています。

また、OJTの実施率は正社員では60%程度なのに対して非正社員では30%程度であり、事業所の従業員数が少なくなるほど実施率が低下する傾向にあるなど、雇用形態や企業によって大きな格差があるのが実情です。

さらに国際的には日本の女性に対するOJT実施率が低いことも指摘されています。

出典:平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-|厚生労働省

OJTやOFFJTの実施率が高いほど労働生産性も高い傾向

先述の厚生労働省の調査では、国際比較した場合、OJTやOFFJTなどの能力開発の実施割合と労働生産性の上昇率には一定の相関があることが示されています。

日本よりもOJTやOFFJTなどの実施割合が高く労働生産性も高い傾向にある国として挙げられるのは、スウェーデン、スイス、ノルウェーなどの欧州諸国です。

この傾向は日本国内の企業において見られます。産業別にも格差があり、OJTやOFFJTなどに積極的に取り組んでいることが多い製造業では、労働生産性も高く維持されています。

OJTのメリットとデメリット

OJTは優れた教育訓練の方法の1つではありますが、だからといって万能というわけではありません。

実際の教育にあたっては、このような欠点を補うような手法も用いながら、バランス良く育成していく計画作りが求められます。

OJTのメリット

OJTの主なメリットには、教育精度の高さ、実務能力の育成、教育担当者への育成効果といったものがあります。

教育精度が高い

OJTは新人に現場で実務経験をさせ、それに対して教育担当者がチェックをする形式です。そのため、大人数を相手とした一方的な講義とは違い、個人のレベルや特徴にマッチした精度の高いフィードバックができます。

実務能力を育成できる

また、新人に実務を経験させるため、知識・スキルだけでなく、言葉にするのが難しいその仕事ならではの暗黙知も伝えることができます。

これは座学だけでは教えられない、実務に欠かせないもの。結果として、研修後に即戦力人材に育つことが期待できます。

教育担当者への育成効果も期待できる

さらに、トレーナーにとっても教育効果があります。トレーナーに教える経験を積ませることで、指導力が向上し、より強固な組織として成長することが期待できるのです。

OJTと相性の良い職種

OJTは相性の良い職種とそうでない職種があります。一般的に、ルーティーン化したり、形式知として伝えたりするのが難しい職種にはOJTによる教育が向いているでしょう。

例えば、営業や接客業といった臨機応変な対応が必要なものがあてはまります。

OJTのデメリット

OJTのデメリットには、教育効率の悪さ、体系的知識の構築が困難、教育効果のばらつきなどが挙げられます。

教育効率の悪さ

OJTは先輩・上司といった教育担当者が現場で指導をする形式です。そのため、トレーナーが仕事を教えたり、その通りに教わる側が実践しているのを観察したり、フィードバックを行なったりといった労力が発生します。

講義形式の集団教育に比べて効率が悪くなりがちだというデメリットもあるため、OJTが合わない業種はOFFJTの方が向いているといえるでしょう。

体系的知識の構築が困難

また、OJTは現場経験をもとに学習させるため、経験していない内容については身につけさせることが困難です。知識の偏りが生じることは避けられず、体系的な知識を構築するのには向いていません。

教育効果のばらつき

さらに、教育担当者によって、教育の効果にはばらつきが生じる可能性もあります。トレーナーによっては指導力も教育に割けるリソースも異なるため、最悪の場合はOJTというよりも放置になってしまうリスクもあるのです。

OJTが不向きな職種

OJTには相性が良くない職種もあるため注意しましょう。一概にはいえませんが、必要不可欠な知識が多い専門職や、ルーティンが多い職種などは向いていない可能性があります。

OJT研修の進め方| 4つの手順「Show・Tell・Do・Check」

新人育成にOJTの手法を取り入れる際のポイントについて説明します。

OJTには、基本的な手順や原則があります、それらを意識しながら実施すると効果的に成果を発揮するでしょう。

OJTでは、4つの手順を意識して訓練を繰り返すと効果的になります。

その手順とは、先述した「4段階職業指導法」にある「Show」「Tell」「Do」「Check」の4つです。

Show

「Show」では、トレーナーが手本を示して、仕事の手順や方法を伝えます。OJTは仕事現場で実施するため、実務で伝えられる点が特徴です。その特性を生かし、トレーナーが実践して具体的に仕事を理解させます。

Tell

「Tell」とは、口頭などで仕事の方法を説明することです。手本を示すだけでは伝わりづらいような仕事のコツや注意すべき点、背景などを説明します。実践で行なっていることを言語化し、なるべく具体的に説明するのがポイントです。

Do

「Do」では、新人に仕事をさせてみます。後でフィードバックを行うため、トレーナーはその様子を細部まで確認する必要があります。

Check

「Check」とは、仕事をさせてみた様子をチェックし、それをもとに評価や改善点を伝えます。

ここでの指摘やアドバイスは、新人が仕事を習得し、成長していくために重要な要素です。事前にチェックするポイントを押さえておくと、より的確かつ平準的な指導が行えます。

OJTを新人教育に取り入れるときに意識すべき3つの原則

OJTで守るべき3つの原則は、意図的、計画的、継続的であることです。

意図的

意図的とは、仕事や研修の目的や方針を定め、それに従って訓練を進めていくことを指します。

OJTは実務の中で行うため、予想がつかない事態も多くあります。そのため、「どのようなスキルを優先的に身につけさせるべきなのか」「何のためのトレーニング期間なのか」を定めておかなければ、OJTの本来の目的を達成できないでしょう。

計画的

計画的とは、OJT期間の中でどのような項目を学習させるのかといった、スケジュールを決めることです。いきあたりばったりではなく、最終的な目標を定めながら計画的に育成していく必要があるのです。

継続的

継続的とは、OJTや学習そのものを繰り返すことで、学んだ内容を定着させ、さらなる成長を促すことを指します。OJTが完了したから学習も終わりというわけではなく、学び続ける仕組みづくりも求められます。

OJTを成功させるためのポイント

OJTを行う目的や実施計画を明確にする

OJTを実施するに当たり、まずは先述した意図的・計画的・継続的の3つの原則を意識しながら、OJTの目的や具体的な進行スケジュールを立てましょう。

ここで重要なのは、目的や計画を教育する側とされる側双方がきちんと理解し、お互いに認識を共有しておくことです。事前に全体像が見えていると体系立てて効率的に教育できるだけでなく、モチベーションも保ちやすくなります。

OJTの対象となる社員に合わせて教育内容を最適化する

教育対象となる社員は新卒の場合もあれば中途採用の場合もあります。当然その人によって知識やスキルレベルには差があり、能力や適性に応じて企業側が求める将来像も異なります。

まずはトレーナーがヒアリングして現状の知識・スキルを把握し、その人に合ったOJT計画を立てましょう。ここで、本人の希望や目標を取り入れられると研修におけるモチベーション向上にも寄与します。

フィードバックの実施やPDCAを徹底する

ただやらせるだけ、トレーナーが見てるだけでは、放置しているのと変わりません。トレーナーが問題点に気づいたらきちんと指摘し、改善を促してより精度を高めていく意識が重要です。

また、一から十までトレーナーが指摘・アドバイスするのではなく、何が問題なのか・どうすればもっと良くなるのかを本人に考えさせることも必要です。

OJTで完璧に一人前にするのではなく、自律的に成長可能な状態にすることを目指しましょう。

OJTの実施に必要な期間

OJTの期間は業種や職種などによりさまざまです。中途採用であれば入社する人物の経歴・スキルなどによって、柔軟に期間を調整している企業もあるでしょう。その一方で、新卒採用の場合は、入社した4月から1年間をOJTの期間として設けているケースが多くなっています。

以前は入社後早い段階で戦力になってもらうため、OJTの期間が短い傾向にありました。しかし人材不足が嘆かれている昨今、希少な人材の育成を丁寧に進める企業が増えています。

短すぎるOJTは新入社員を不安にさせるだけでなく、身につくスキルが荒くなる、より教育効果がバラつきやすくなるなど、好ましくない事態を招きかねません。自社の業務や体制にあった期間を設けるようにしましょう。

OJTの効果を最大するためにトレーナーが習得すべきスキルと注意点

OJTを実施するためには、トレーナーや管理者側が習得すべき教育スキルもあります。ここではそのスキルの内容や、注意点を紹介します。

ティーチングスキルを身につける

トレーナーにとってティーチングスキルは重要です。ティーチングとは、仕事の方法を説明したり、わかりやすい指示を出したりする技術を指します。

もし教え方がわかりにくかったり、要領を得ていなかったりすれば新人教育の効率も下がってしまいます。

OJTの担当者がティーチングスキルを身につけていれば、新人の理解も進むので、より効果的な育成が可能になるでしょう。

コーチングスキルを身につける

コーチングスキルとは、新人が自発的に成長していけるよう、相手の意見を引き出して課題発見を助けたり、質問によって相手に考えさせたりするテクニックです。

一方的にノウハウを伝えたり指摘をしたりするだけでなく、相手の目線に立って成長をサポートすることも大切なのです。

コーチングを行うためには、知識や一定の訓練が必要です。コーチングスキルを習得してOJTを行えば、部下が自ら考えて仕事に取り組むマインドも養うことができます。

「放置」は違う!正しいOJTが即戦力の人材を生み出す

OJTは、しばしば教育制度が整っていない企業が、都合良く解釈してこの言葉を使うケースがあります。

計画性もなく新人をただ現場に投入したり、忙しさを理由に意図もなく放置したりといった方法では、教育効果も生まれません。

OJTは、手順や原則に則って行うことで人材育成に効果を発揮します。正しい方法を理解したうえで実施するのが大切です。

OJTとは異なる観点のSDとは

SDは「Self Development」の略で、”自己啓発”という意味です。つまりOJTのように企業が業務知識やスキルを教えるのではなく、社員自身の意思でスキルアップを目指すのがSDです。SDの方法はさまざまあり、業務に関する資格取得、外部セミナーの受講などが一例として挙げられます。
なお、SDにおける企業側の役割は、社員のスキルアップをサポートすることです。例えば、教材費や資格受験費用の負担、外部セミナー情報の提供といったサポートをしている企業が増えています。
SDのサポート体制が整っていれば、それだけスキルアップを目指す社員も増えやすくなります。結果的に能力値の高い社員の定着、業績の安定的な向上にもつながるでしょう。OJTを適切に行なうだけでなく、適宜SDという観点も取り入れていくのがおすすめです。

OJTの効果を引き出すためには適切な人事評価制度も不可欠

OJTの効果を最大化するためには、教育・研修の成果が適切に人事評価に反映される仕組みを作ることが重要です。

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