<日本一働きたい会社>が教えてくれた組織づくりのコツ~LIFULL羽田幸広人事本部長 特別講演~

前回に引き続き、4月20日(金)に行われた「あしたの人事クラブ交流会」特別講演の模様をお届けします。株式会社LIFULLの井上社長からバトンを受け取ったのが、同社執行役員 人事本部長の羽田幸広氏。人事組織をほぼゼロからつくりあげ、<日本一働きたい会社>へと導いていった羽田さんが、具体的な取り組みについて語ってくれました。

【Profile】
羽田 幸広(はだ ゆきひろ)
株式会社LIFULL(旧:ネクスト) 執行役員人事本部長
1976年生まれ。上智大学卒業。人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。著書に『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)。

社員とは、会社と同じ志を持つ仲間である

私からは、先ほど井上がご説明した当社の経営に関する話題のなかで、人事施策を中心にお話いたします。
まずは、LIFULLが「社員」という存在をどう考えるかについてお話させてください。それは、一言で表現すると「同志」。 つまり、同じ志を持っている人たちに対してどのような支援をして、いかに力を発揮してもらい、彼らの夢をどう実現するかということを常々考え、その環境づくりに励むのがLIFULLの人事だと定義しています。

一方、同志である社員に会社をどう捉えてほしいかと言えば、私の個人的な考えですが、「自分の志を実現する場」だと考えてほしいです。
これは、雇用関係にある従業員だけの話ではありません。派遣スタッフや業務委託のみなさんとも同じ志で、色んな立場の人が自己実現をする場だと捉えて集まってくる会社にしていこうとしています。
その一方で、人それぞれの志を実現するために色んな取り組みをしていくと、「力が分散する」という側面もありますから、個々人の力を束ねていくために必要なのが、「ビジョン」だと考えています。

つまり、あくまでも「あらゆるLIFEをFULLにする」というビジョンのもとに集った人が同志となり、活躍してもらうのが、当社における基本的な考え方。“ビジョンに共感してもらえる人を採用すること(採用活動)”、“入社後もビジョンに共感し続けられようにすること(浸透活動)”を非常に重視しています。

スキルや能力を重視した採用活動は、失敗しやすい

では、まずは<採用活動>のポイントについてご説明します。LIFULLでは、新卒・中途関わらず、3つの軸で人材を評価しています。ひとつめは先ほどもお伝えした通り、「ビジョンフィット」。ふたつめは、社是である「利他主義」など企業文化にマッチしているかを評価する「カルチャーフィット」です。3つめがポテンシャル。将来的にマネジメントやスペシャリストへと成長できそうかという観点になります。
経験や能力といった「スキルフィット」は、そこまで重視していません。あくまでも「ビジョンフィット」「カルチャーフィット」「ポテンシャル」が必須条件。スキルは入社後に身につけられるものだと捉えています。

また、具体的な選考のやり方についてもご紹介します。LIFULLでは、一般的な就職情報メディアで募集するよりも、「採用イベント」や「人材紹介」「インターン」などを通じて、ビジョンやカルチャーを伝えていくことを重視しています。新卒採用のセミナーもビジョン・カルチャーを伝えるため。「ビジョンに共感した人だけ面接に来てください」「違和感があれば辞退いただいて構いません」というスタンスで運営しており、当社も応募者も相互に納得したうえでスクリーニングできるという効果もあります。社長の井上は、今でも月3回は採用セミナーに登壇。採用活動の初期段階でビジョンをしっかりと伝えることは、目指す方向性に合致する人を効率的に採用するという意味でも大事なことなのです。

また、新卒採用においては人事が学生のアドバイザーとなり、学生と一緒に本人の価値観や「やりたいこと」を掘り下げていきます。その結果、LIFULLと方向性がマッチすると分かった学生のみ最終選考に進めるルール。逆にマッチしないのなら、率直に他社を薦めています。無理やり当社の考えに当てはめて入社させるよりも、本人にとっての一番の幸せが別にあるなら、そちらに進むべきじゃないかという考えです。

なお、通常の採用選考だけではなく、「NEXT 100 Project」という取り組みもあります。これは、経営戦略でもある「100社・100経営者・100ヶ国」という機会を、社員だけではなく、学生にも提供しようというプロジェクト。優れたビジネスプランを持つ学生であれば、いきなり新規事業の子会社社長として取り組んでもらうこともあります。

さて、ここまでご説明して、実際にどのような人が採用できているのかと思われた方もいるかもしれません。そこで、2017年5月に入社した川嵜 鋼平をご紹介いたします。現在、LIFULLのCCO(Chief Creative Officer)を務める川嵜は、もともと外資系の広告代理店でクリエイティブディレクター/アートディレクターとして、ユニクロ、ソニー、ナイキ、ネスレ、P&Gといった企業のブランド戦略、プロダクト開発、コミュニケーションデザインを数多く手がけておりました。世界の広告賞でも高い評価を受けていた彼が、自身の力を発揮する場として当社を選んでくれたのは、まさしくビジョン共感型の採用を続けてきた成果だと感じております。

このように、私たちは創業期からビジョンを重視してきた会社ではあるものの、実は過去に採用で失敗した時期があることもお伝えしておきます。それは、事業規模の急拡大にともなって人手が足りず、一刻も早く体制を整えようと即戦力のスキル重視で採用をしたことが原因。その結果、当社の価値観とあわない人が散見されるようになり、組織全体のモチベーションが下がるといった事態を引き起こしてしまいました。この経験があるからこそ、LIFULLでは改めてビジョン・カルチャーを重視した採用に戻しているのです。もし、スキル重視を続けていたら、川嵜との出会いはなかっただろうと思います。

ビジョンの浸透活動は、「トップダウン」と「ボトムアップ」の両面で

ここまでは、ビジョンを重視した採用活動についてご説明して参りました。では、ここからはビジョンの<浸透活動>についてお話しします。
LIFULLには、社員40名ほどが有志で集まった「ビジョンプロジェクト」というものがあり、会社のビジョンや方向性がより社員に浸透し、行動に繋がるよう様々な活動を行っています。たとえば一例を挙げると、「役員の心得」という、役員がビジョン浸透のために実践すべき5箇条を策定しました。これはつくって終わりではなく、年に2回社員アンケートで役員への満足度を調査しており、心得を実践できているかを評価されます。かれこれ5年ほど続けていますが、スタート時と比較すると着実に満足度が上がっており、9割の社員は、「自部門の役員はビジョンを発信・率先している」と回答してくれる状態になりました。このように、ビジョン浸透においてはアンケート等によって測定をすることと、結果を振り返ることを重視しています。
また、今ご紹介した「役員の心得」のように、ビジョン浸透においてまず重要なのは、「トップダウン」だと考えております。経営陣が率先しなければ、社員一人ひとりにまで浸透しません。まずは経営陣からしっかり浸透させていくようにしています。

次に、「ビジョンツリー」についてもご紹介させてください。ビジョンツリーでは、一番上に経営理念があり、そこから各部・各課とそれぞれの組織のビジョンに枝分かれしています。これは以前に社員から、「経営理念と自分の日々の仕事との繋がりが分かりません」という声があがったことをきっかけにはじめました。「それなら、社員の担当する仕事と経営理念の間にある組織にすべてビジョンをつくってしまおう」という発想ですね。

このビジョンツリーは、全部門で年2回、自分たちで自組織のビジョンを考えて言葉にしていくようにしています。これによって、自分の仕事がどう理念の実現に繋がっているのかを自律的に考えていくのが狙い。そして、会社から与えられた目標ではなく自分たちでつくった目標を掲げることで、より主体的な働き方へと変化していくことを目指しています。
以上のように、LIFULLにおけるビジョンの浸透は、「トップダウン」と「ボトムアップ」のふたつのアプローチで浸透させているのです。

社員は自分のキャリアを自分自身で決め、会社はそれを全力で支援する

さて、ここからは先ほどの井上からもお話しした、社員の「やりたい」「こうなりたい」を引き出す「内発的動機付け」について、LIFULLがどんな施策を行っているかご紹介します。
基本的な考え方は、社員の希望が叶う機会提供を沢山すること。別の言い方をするならば、「“挑戦ができないという言い訳”ができない環境づくり」だとも言えます。私たちはこの考え方で、色んな施策を全方位的に張り巡らせているのです。

まずは、全社員が半年ごとに作成する「キャリアデザインシート」。これは、将来の自分のキャリアビジョンを考え、そこから逆算して5年後、3年後、半年後のあるべき姿を設定していくというシートです。もちろんキャリアビジョンは、LIFULLの中にとどまる必要はありません。自分が本当に実現したいことを考え、明確にすることで、いま何に挑戦したいかという意思が出てくるのです。

すると、たとえば「10年後に実現したいことに向けて、今とは別の仕事の経験も積みたい」という場合は、「キャリア選択制度」を使ってもらいます。現状、手を挙げてくれた人の7割は異動などの希望が叶っており、その分人材配置の調整は物凄く大変なのですが、できるだけ希望が叶えられる状態を目指しています。
ほかには、新規事業を立ち上げるときのスターティングメンバーを社内公募する制度や、外部の企業への出向など、様々なキャリア観に対して、最大限対応していくようにしています。

新規事業提案制度である「Switch(スイッチ)」は、2ヶ月に1回の頻度で社員から新規事業を募集するというもの。年間100~150件ほどの様々な提案が集まっており、優れたアイデアに関しては、事業として立ち上げ子会社化していきます。つまり、「事業責任者」ではなく「社長」になってもらう機会を提供する制度でもあり、なかには新卒入社3年目で社長となっているケースもあります。
ちなみに、子会社の社長への仕事の任せ方ですが、たとえば「“給与計算”のような細かな業務は親会社であるLIFULLが面倒をみる」といったことは一切しません。社労士に依頼するか、自分たちで計算するか、独立したひとつの会社の経営者として最適な方法を検討し、決断してもらいます。LIFULLに依頼するという選択肢もありますが、その場合は委託費用を払ってもらうようにしており、子会社と言えどゼロから会社をはじめるに等しい経験をしてもらっているのです。

他には、年間労働時間の10%程度をクリエイティブな活動にあてられる「クリエイターの日」や、社会貢献活動を支援する「One P’s(ワンピース)」なども社員への機会提供の取り組みですし、学ぶ機会という意味では、「LIFULL大学」という社内大学もあります。色んなプログラムがありますが、基本的な方針は必須科目を最低限にすること。人から言われて受ける研修ほどつまらないと感じることが多いものです。だからこそ私たちは、必須のプログラムはできるだけ減らし、自分自身で選んで自由に学べるような場にしました。
また、現在60ほどある講座のうち、ほとんどは社員が講師を務めています。教えることは2度学ぶこと。教える側にも得られるものがあり、部門の壁を越えたコミュニケーションも生まれやすくなるなど、組織作りの面でもメリットが大きいと考えています。

あとは、社員による全社横断の有志プロジェクトも豊富。会社からお願いしてメンバーを募ったものや、自分たちで手を挙げてはじまったものもあり、現状は15ほどのプロジェクトがあります。人事施策的色合いの強いプロジェクトもありますが、人事は基本的に関与しません。社員が「会社にこれがあると良い」「会社をこうしたい」と、自由に考えていくことを重視しているのも特徴。こうした「プロジェクト」が次々と生まれることもLIFULLという会社らしさだと感じています。

どんなに機会があっても、心理的安全性が低ければ、その機会は使われない

「内発的動機付け」に加えて、もう一つ重要視しているのは、「心理的安全性」です。内発的動機付けによって提案や挑戦の気持ちが芽生えたとしても、それによって上司に睨まれたり評価が下がったりする危険性があるのでは、安心して挑戦することができません。できるだけ、どんな挑戦でも許容できる文化をつくっていこうとしています。
具体的には、先ほど井上が説明した「薩摩の教え」を頻繁に社内で話すことで、挑戦しない人よりも、挑戦して失敗した人の方が素晴らしいという考えを浸透させているのもそのひとつ。また、自分のチームの業績だけ熱心で、会社に貢献しようとしない管理職「ミドルフリーライダー」も心理的安全性を下げがちなので、そうした行動にならないようにしています。なぜなら、彼らは自分のチームの利益に反する行動を制限し、部下が自己実現のために新規事業の提案やキャリアチェンジをする機会を奪ってしまうから。部分的かつ、利己的な側面があるため、LIFULLのビジョンにも反していることを管理職向けの研修などで繰り返し伝えています。

良い組織づくりは、何に注力・注目しているか

最後に、組織づくりにおけるLIFULLの考え方をご紹介します。私たちは、組織が成功するために「関係の質(人間関係の質)」に注目し、この質を上げることからはじめています。これは、MITの元教授であるダニエル・キム氏が提唱する組織の成功循環モデルに通ずる考え方。失敗する組織は、「結果の質」を第一に求めるために、「人間関係の質」が悪くなり、議論が上手くいかずに「思考の質」や「行動の質」が下がっていき、「結果の質」が低くなるという悪循環に陥り勝ちです。だからこそ、まず「関係の質」を高めることが、組織が成功し続けるための近道だと考えています。

そのため、期初のチームビルディングには時間と予算を割いており、各組織では社員一人あたり15,000円を、“仲良くなるため”に何にでも使えます。たとえば課のみんなでBBQをやったり、サバイバルゲームに行ったりという使い道でも良い。まずは仲良くなることで、みんなが気兼ねなく話せるような「感情のギャップ」を埋めてほしいんです。つまりは、新卒入社の新人が、部長にも意見できるような空気感をつくるのが目的。それができてからビジョンや戦略の話をすると、率直に質問・議論ができるのです。

また、「ビジョン」と「カルチャー」に加えて、「キャスティング」もLIFULLの組織づくりでは非常に重視していること。具体的には、マネージャーの人選です。いま、全社には100人ほどの課長がいますが、一人ひとりの昇進は、役員全員でかなり細かな行動・言動まで指摘しながら本当に適任なのかを議論してきました。LIFULLでは、業績やスキルがどんなに高い人であっても、「ビジョン」と「カルチャー」を率先できる人でなければ昇進しません。「人格者は、“昇進による役職”で報いて、業績を上げた人は“賞与”で報いる」というのがLIFULL流の評価・報酬の考え方。このように、社員の何を評価しているかによって報い方を変えていくことも、組織づくりには必要だと思っています。

――次回は、会場の参加者から井上さん・羽田さんへの質問コーナーの様子や、トークセッションで語られた内容をお届けします。

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