経営者は社員の「この仕事が好き」に甘えるな ~株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役 島田慎二さん インタビュー後編~

今回もプロバスケットボールクラブ「千葉ジェッツふなばし」代表の島田慎二さんのインタビューをお届けします。様々な施策を打ちながら強い組織にしていくには、スタッフの評価方法も重要なポイントです。島田さんは評価・報酬をどのように捉えているのでしょうか。

また、今年7月より「B.LEAGUE」のヴァイスチェアマン(副理事)も務めていらっしゃることから、プロバスケットボールや、スポーツビジネス全体に対するお考えなども伺いました。

【Profile】
島田 慎二(しまだ しんじ)
株式会社千葉ジェッツふなばし 代表取締役/公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE) ヴァイスチェアマン
1970年新潟県生まれ。1992年、(株)マップインターナショナル(現:(株)エイチアイエス)入社。95年に独立し、(株)ウエストシップを設立(共同経営)。2001年に同社を退任し、(株)ハルインターナショナルを設立。2010年、同社を売却し(株)リカオンを設立。2012年、プロバスケットボールクラブである「千葉ジェッツ」の運営会社、(株)ASPE(現:(株)千葉ジェッツふなばし)の代表取締役に就任。2017年、千葉ジェッツふなばしの経営に参画したまま「B.LEAGUE」のヴァイスチェアマン(副理事)に就任する。

「好き」や「やりがい」に頼った経営は、人の目を曇らせる

―前回のインタビューでは、島田さんが目標設定や管理によって社員の皆さんに自信をつけ、次第に大きな目標にも手が届くようになったことをお話いただきました。その一方で気になるのは、社員一人ひとりの仕事をどう評価するかです。継続的に成長を続けていくには、適切な評価が欠かせないと思うのですが、島田さんはどのように捉えていますか。

島田さん:これは私自身の会社員時代の経験も踏まえているのですが、やはり人は努力の先に得られるものがないと頑張れないですよね。頑張ってもそれに見合うだけの評価がされない、報酬が得られない状態では、疲弊していくだけだと思います。

ただ、評価や報酬を決定する基準が社員に対して曖昧では意味がありません。私はスタッフに対して「みんなの給料を上げたいし、目標達成したら社員旅行にも行こう。そのためにはこれだけの利益が必要になるから、みんなで頑張ろう」と宣言するようにしています。つまり、目標・評価・報酬の連動性や透明性が重要だということですね。

実はこの考え方は、スポーツという産業にいるからこそ私が尚更に重視していること。私が千葉ジェッツの社長に就任した当時、スタッフに言われた一言に大きなショックを受けたんです。それは「好きな仕事ができるのだから、給料にはあまり期待していません」という言葉でした。

―「好きな仕事ができる」のは幸せな状態とも思えますが、島田さんは何を問題に感じたのですか?

島田さん:もちろん、自分の仕事が好きでやりがいを感じていること自体は素晴らしいことだと思います。でも、「好きだから給料が低くても良い」という考えは健全ではありません。個人が成果を生み出し、その積み重ねが会社の価値を大きくして、個人の報酬に還元され、それが次の仕事の原動力となって…という循環が成り立たなくなります。「このままでは勝てる組織になれない」と感じたことを鮮明に覚えていますね。

例えば「好き」は生産性も低くします。好きだから正当性のない長時間労働も厭わなくなりがちだからです。短時間で成果を上げることは、企業にとっても社員にとっても意味のあることなのに、時間あたりの仕事の価値を低くしてしまっている状態とも言えますよね。

このように「好きすぎて他のことを犠牲にできる状態」は、経営者にとっても社員にとっても正しい判断ができなくなる危険性があるのではないでしょうか。

スポーツを仕事にしている人たちは、もともと好きで働いている人たちが非常に多いですから、これは千葉ジェッツだけの話ではないと思いました。だからこそ、このマインドを変革できたら業界内での大きな競争優位になるのではないかと考えたんです。

「誰のための経営か」。過去に大失敗も経験しているから分かること

―千葉ジェッツの経営再建を通してスポーツビジネス全体の「好きに甘えている」ような労働環境を垣間見たことが、今回「B.LEAGUE」のヴァイスチェアマンを引き受けられた理由でもあるのですか?

島田さん:確かにそれも理由の一つです。私のヴァイスチェアマンとしての目標は、「バスケットボール界全体の経営を良くすること」。プロスポーツを健全・持続的に発展可能なビジネスにしていきたいのです。

日本のバスケットボールチームは、ビッグスポンサーがついていないところがほとんどで、経営者もスタッフもバスケットボールを愛しているからこそ必死で運営しています。でも、「好きだから」だけでは観客を増やすことにしても、選手を強化することにしても、適切な投資ができません。それでは事業として継続できず、彼らの居場所を奪うことにも繋がってしまいます。私はこの状態を改善することで、バスケットボール界に貢献していきたいと考えていますね。

―島田さんは、千葉ジェッツ以前にもいくつかの会社経営を手掛けていらっしゃいますよね。やはりその経験が、今の考え方のもととなっているのでしょうか。

島田さん:私は25歳で新卒入社した会社から独立したのですが、決してお手本とは言えないような経営者だった時期もありました。ある時立ち上げた会社は、株式公開を目的にしてしまったんです。それはオフィスに「目指せ株式公開」と大きな張り紙を掲げる位に強烈なメッセージとマネジメントでした。

すると、次第に社員の心は離れていき業績は急降下。でも、私は何がいけないのか分からず社員に向き合おうとしなかった。最終的に「もう社長には着いていけない」と出社拒否される状態にまで陥って、ようやく気付いたんです。

「株式公開って社長が儲けたいだけでしょ?」「社長のために私たちは働かないといけないの?」みんなきっとそう感じていたんだと思います。理念もビジョンもない会社や経営者には誰もついてこない。一体誰のための経営なのか。それは社員のため、関係するすべての人のためだと自認して、私は社員みんなの前で謝りました。これをきっかけに業績がV字回復していったんです。

だから、もし組織のコンディションに悩んでいる経営者の方がいたら、もう一度自社の経営理念やビジョンを見つめなおしていただきたいです。利己的になっていないか、社員をはじめとしたステークホルダーの共感を得られるものなのかを考えてみることも非常に大切だと思います。

 

――本日は非常に多岐にわたるお話をいただき、ありがとうございました。

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