2024年問題とは?運送・物流会社ができる対策や社会の動きを解説

「労働時間の是正」「正規・非正規間の格差解消」「多様で柔軟な働き方の実現」を柱に進められている働き方改革。その関連法案は2019年4月1日から順次施行されています。

そして遅れること5年、2024年4月1日より、建設業界、医療業界、物流業界などでも関連法案の施行が始まります。ただ、なぜ働き方改革関連法案の施行が2024年問題として問題視されているのでしょうか?

本記事では、特に物流業界において2024年問題と呼ばれている原因や及ぼす影響、2024年を前に解決しておくべき課題について解説します。

2024年問題とは?

まずは2024年問題とはどのようなものなのか、その概要について解説します。

2024年問題の概要

2024年問題とは、働き方改革関連法案が施行されることにより、時間外労働時間の上限規制が適用されることで生じる問題を指します。

物流業界は他の業界に比べ特に長時間労働が問題になっている業界です。総務省が発表した「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」を見ると、繁忙期における1か月の拘束時間が274時間を超える事業者は全体の約34%(2021年)。さらに月間320時間を超える事業者も2.4%という結果です。

そのため、時間外労働時間の上限規制が適用されれば、健康被害が減少するメリットがある反面、企業側の利益が減少し、従業員の収入減や離職につながるリスクもあるでしょう。元々、人材不足が慢性化している物流業界でさらに高収入が見込めないとなれば、これまで以上に人材不足が顕著になると予測されます。これが物流業界における2024年問題です。

建設業や医師にも2024年問題が発生する

2024年問題は、物流業界だけの問題ではありません。物流業界以外に建設業界や医療業界でも2024年4月から働き方改革関連法案が施行されます。建設業界や医療業界もほかの職種に比べ長時間労働や人材不足が課題となっているため、物流業界同様に2024年問題を抱えている状況です。

2024年問題の原因は?

上述した業界が揃って2024年問題として働き方改革関連法案の施行を見ている理由は大きく3つ、「時間外労働時間の上限規制」「改正改善基準告示」「時間外割増賃金率の引上げ」です。ここでは、それぞれについて具体的な内容を解説します。

時間外労働時間の上限規制

働き方改革関連法案における、時間外労働時間の上限規制は、2024年から施行される業界以外の大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から施行されています。

時間外労働時間の上限規制とは、臨時的な特別の事情がない限り原則月45時間、年360時間を超える残業をしてはならないというものです(原則である45時間を超えられるのは年間で6か月まで)。

また、臨時的な事情があり、なおかつ労使間での合意があったとしても、次の残業時間を超えることはできません。

  • 年720時間以内
  • 複数月平均(2~6か月平均)80時間以内(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)

上記に違反した場合、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科される可能性があります。

物流業界では、一般の大企業に施行されてから5年の猶予を与えられ、2024年4月から正式に施行されますが、ドライバーに限り上述した内容ほど規制は厳しくありません。

具体的には、年間時間外労働時間の上限が960時間(特別条項付き36協定を締結する場合)という規制のみです。

今回の施行で、ドライバーのみほかの業種や職種に比べて規制が緩い理由としては、ECの利用率増加に伴う輸送貨物の増大や人材不足が挙げられます。

物流業界、特にドライバーは一般の時間外労働時間の上限規制に合わせるのは非常に困難です。そのため、年間時間外労働時間の上限が960時間のみという規制になっています。

改正改善基準告示

改正改善基準告示とは、ドライバーの労働時間改善を目的としたもので、今回の施行により、これまでの基準から一部が改正されます。ここではトラックドライバーを例に変更点を見てみましょう。

・1か月の拘束時間

現行:293時間以内(労使協定により年間6か月までは年間の総拘束時間が3,516時間を超えない範囲内において1か月の拘束時間を320時間までは延長可能)

改正後:年間の総拘束時間が3,300時間かつ1か月の拘束時間が284時間以内(労使協定により年間6か月までは年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において1か月の拘束時間を310時間までは延長可能。ただし1か月の拘束時間が284時間を超える月が3か月以上連続しないこと、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満になるよう努めること)

・1日の拘束時間

現行:13時間を超えないこと。延長する場合でも最大で16時間(1日の拘束時間が15時間を超える回数は1週間に2回以内)

改正後:13時間を超えないこと。延長する場合でも最大で15時間が原則。ただし例外として、1週間の運行がすべて長距離貨物運送かつ運行における休息期間が住所地以外の場所である場合、当該1週間に2回まで16時間を最大拘束時間にできる。また、原則、例外ともに1日の拘束時間が14時間を超える回数を1週間に2回を目安に留めるようと努めること。

・1日の休息時間

現行:勤務終了後、継続8時間以上 

改正後:勤務終了後、継続11時間以上を基本とし、継続9時間を下回らないものとする。ただし例外として、1週間の運行がすべて長距離貨物運送(走行距離が450km以上)かつ運行における休息期間が住所地以外の場所である場合、当該1週間に2回まで、継続8時間以上とすることができる。この場合、運行終了後は継続12時間以上の休息を与えること。

・運転時間、連続運転時間

現行:運転時間は、2日を平均し1日当たり9時間。2週間を平均とし1週間当たり44時間を超えないこと。連続運転時間(連続10分以上かつ合計30分以上連続して運転する時間)は、4時間を超えないものとする。

改正後:運転時間については現行と同じ。連続運転時間は、原則4時間を超えないものとし、連続運転の中断は原則休憩とする。ただし、やむを得ず駐車や停車ができず連続運転時間が4時間を超える場合は、30分までは延長を可能とする。

時間外割増賃金率の引上げ

3点目なる時間外割増賃金率の引上げについては、2023年4月からの適用ではありますが、月60時間を超える時間外労働への割増賃金率が25%から50%へと引上げられます。

これら3つの原因により、物流業界、特にドライバーの労働時間は改正前より減少しますが、割増賃金が上がることで事業者側にも大きな影響が出ると予測されています。

2024年問題が及ぼす影響

2024年問題で影響を受けるのは物流業界だけではありません。ここでは、2024年問題によりどこにどのような影響が出るのかについて説明します。

運送・物流会社の売上・利益が減る

時間外労働時間の上限規制により、これまでに比べ1日に輸送できる量は減少します。さらに時間外割増賃金率の引上げにより支出は増えるため、運送・物流会社の売上・利益は大幅に減少してしまうリスクもあるでしょう。

ドライバーの収入の減少・離職率の増加

時間外労働時間の上限規制は会社側だけではなく、ドライバーにとっても大きな問題です。これまでは得られていた時間外労働分の賃金が入らなくなることで、収入は大きく減少してしまいます。

時間外割増賃金率は引上げられますが、そもそも時間外労働が減ってしまうため、トータルでは改正前よりも収入が減少する可能性は否めません。

さらに、会社側の利益も減るため元々の基本給も下がってしまう場合もあるでしょう。そうなれば、より高収入を目指して離職する人材が増え、会社側は人手不足によってさらに苦しい経営状況となる可能性もあります。

配送料の値上げ

2024年問題の影響は、他のさまざまな業種や個人にも及んできます。

運送・物流会社は、売上・利益が減少すれば会社を維持できなくなるため、配送料の値上げをする可能性が高まります。運輸・物流はあらゆる業種にかかわる業界のため、配送料が値上げされればあらゆる業種の利益が減少するリスクもあるでしょう。

そうなれば、影響を受けた業種が販売する商品もいずれは値上げせざるをえなくなり、個人にも大きな影響が及ぶことにつながります。

2024年問題が起こる前に解決すべき課題

さまざまな影響が考えられる物流業界における2024年問題ですが、これを防ぐためには、今から課題を可視化させ、解決していかなくてはなりません。具体的には次のような課題が考えられます。

低賃金・長時間労働の是正

時間外労働が多いドライバーですが、賃金は決して高いとはいえません。厚生労働省が発表した令和3年賃金構造基本統計調査によると、全産業の年間平均賃金が307.4万円に対し、運輸業・郵便業は278.5万円と約1割低くなっています。現状の長時間労働で低賃金は、2024年に働き方改革関連法案が施行されればさらに悪化する可能性もあり、早急な是正が必須です。

人材不足の解消

人材不足の解消も2024年問題が起こる前に解決すべき重要な課題です。厚生労働省が発表した令和4年上半期雇用動向調査結果を見ると、2022年上半期の運輸業・郵便業は、入職者が165万人に対し、離職者は196.3万人と離職者のほうが30万人以上多くなっています。

2024年問題の前には少しでも上向きに改善できないと運送・物流会社はかなり厳しい状況に追い込まれることになりかねません。

人材の高齢化対策

離職者の増加と共に進んでいるのが人材の高齢化です。厚生労働省が発表した改善基準告示見直しについての参考資料にある「自動車運転者の基礎統計」を見ると、トラック運転手の平均年齢は、大型が49.4歳、中型が46.4歳。全産業の平均が43.2歳ですからどちらも平均より高年齢です。

個人差はありますが、ドライバーは体力を使う仕事であるため、人材の高齢化も早急な解決が求められています。

物流量増加への対策

物流業界の長時間労働化が進む原因の一つが物流量増加です。2022年8月に経済産業省が発表した、国内電子商取引市場規模によると、物販系分野のBtoC-EC市場規模は、13兆2,865億円(2021年)で前年比8.61%の増加となっています。

2020年に新型コロナウイルス感染拡大の影響から、巣ごもり需要でEC利用者が増え、それに伴い物流量も一気に増加。今後も増加は続くと予測されるため、早急な対策が必要となっています。

運送・物流会社ができる2024年問題対策とは?

2024年問題の前に解決すべき課題は、どれも一朝一夕で解決できるものではありません。今からしっかりと計画を立てて実行していくことが重要です。ここでは、運送・物流会社ができる2024年問題対策を紹介します。

DXによる物流の効率化

人材不足や長時間労働問題の解決策としては、DXによる業務の効率化が考えられます。物流業務におけるDXの一つとしては、SCM(サプライチェーン・マネジメント)が効果的です。

製造元と物流倉庫、小売店、そして運送事業者それぞれを一括で管理し、製造サイクル、在庫状況、運行状況などを可視化させることで、効率的な物流が実現します。

ドライバーの労働環境を改善する

ドライバーの離職率を下げる対策としては、労働環境の改善が欠かせません。時短勤務やフレックスタイム制の導入のほか、住宅手当や扶養手当、結婚祝い金、出産一時金、寮や社宅の充実など福利厚生も必要でしょう。

また、女性や外国人などさまざまな人材が活躍できる場の提供も重要です。誰もがストレスや不満を感じずに働ける環境つくりが離職率の低下につながります。

輸配送形態の変更

たとえば、一定以上の長距離輸送の場合、二人体制で交代しながら輸送する、コストに応じて鉄道や船舶も活用するなど、輪配送形態の変更も検討する必要があるでしょう。

積荷から荷受人へ届けるまでをすべて一人のドライバーが1台のトラックで行うといった考えを変え、柔軟に最適な輸送方法を選択できるようにすることで、効率化も進みます。

人材確保

離職率低下対策と同時に新たな人材確保も行っていく必要があります。人材の高齢化が進む運送業界では、若年層の雇用推進が必須であり、そのためにはここまで挙げてきた労働環境の改善や業務効率化が欠かせません。

待遇面の改善も重要ですが、それだけでは若者の定着は難しいでしょう。休日や有休休暇の確保、研修制度やキャリアアッププランの提示など、若者が意欲を持って働ける環境整備がポイントとなるでしょう。

M&Aによる事業拡大

M&Aによる事業拡大も2024年問題の解決に効果的です。同業同士の合併吸収により、人材の確保や事業規模の拡大が実現します。

また、大手企業の傘下に入るのも一つの方法で、ネームバリューを活用した雇用活動や営業活動が可能になり、売上・利益が拡大する可能性も高まるでしょう。

ほかにも一部事業の売却によって、IT化を進めたり労働環境の改善につなげたりするのも2024年問題解決の一助となります。

2024年問題解決のための社会の動き

2024年問題を解決するには、事業者一人ひとりが自発的に行動を起こすことが重要ですが、それだけで簡単に解決する問題ではありません。そこで重要になるのが、国や自治体など社会全体の動きです。

ここでは、2024年問題を解決するためにすでに始まっている社会の動きを紹介します。

フィジカルインターネットの実現へ向けた動き

フィジカルインターネットとは、インターネットの仕組みを物流に取り入れようとする考え方です。インターネットでは限られた回線を効率的に活用するため、データを小分け(パケット)にして送りますが、物流でも荷物をデータに置き換え効率化を目指します。

フィジカルインターネットの一つの例として挙げられるのは、共同配送です。具体的には複数の運送会社が同じ配送先の荷物を持ちよって1台のトラックに荷物を入れて運びます。これにより、トラックの積載効率が向上し、燃料費や移動にかかる時間的コストの削減が可能です。

2021年10月には、経済産業省と国土交通省がフィジカルインターネットを実現させるための会議を開催し、実現に向け政府主導で仕組みつくりが進められています。

積載効率の向上

積載効率の向上は、運送業務の効率化、長時間労働の是正、人材不足対策など運送・物流業界のさまざまな課題解決に欠かせない対策です。その一つが、製品を格納する段ボールやパッケージを工夫することで積載効率を向上させようとするものです。

段ボール箱の厚さや入れ方の見直し、パッケージサイズの再調整により小型化や縮小を実現させれば、1台のトラックにこれまで以上の荷物を積むことが可能になります。

運送会社だけではなく、段ボールやパッケージ製造会社を巻き込むことでも積載効率の向上が可能になり、2024年問題の解決へ一歩近づくことができるようになるでしょう。

適切な人事評価で2024年問題の解決に繋げよう

2024年4月に物流業界も働き方改革関連法案が施行されることにより生まれる2024年問題。時間外労働時間の上限規制や改正改善基準告示、時間外割増賃金率の引上げなどにより、低賃金、長時間労働が常態化している物流業界がさらに厳しい状況になると予測されます。

2024年問題を解決するには、ドライバーの離職率低下、新たな人材確保が欠かせません。そこで重要なるのが労働環境の改善、待遇面の見直し、そして適切な人事評価です。雇用側が適切に一人ひとりを評価することが満足度向上につながり、離職率低下も実現します。

あしたのチームでは、適切な人事評価を行えるクラウドシステムを提供しています。2024年問題をいち早く解決させたいとお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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