DeNAの人事制度に学べ!(後編)制度が形骸化しないために、人事がやるべきこと

前回に引き続き、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)でHR本部長を務める崔大宇さんのインタビュー後編をお届けします。DeNAは、2017年に新たな人事プロジェクト「フルスイング」を始動。このプロジェクトでは、本人と他部署の本部長が合意すれば異動が可能となる「シェイクハンズ制度」や、業務時間の最大30%を使って他部署の仕事と兼務できる「クロスジョブ制度」など、‟働き方”や‟人事マネジメント”の既成概念を飛び越えた施策が並んでいます。「フルスイング」はどのような背景でうまれたものなのでしょうか。

【Profile】
崔大宇(チェ テウ)
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 ヒューマンリソース本部 本部長
2010年、新卒でゲームエンジニアとしてDeNAに入社。2年目より社長室にて「モバゲー」の海外展開に従事し、韓国、上海、シンガポールへ赴任。その後は「マンガボックス」や「エブリスタ」を有するIPプラットフォーム事業に携わり、2017年にはAI戦略推進室で新規事業を推進。2018年4月にHR本部長に着任し、現在に至る。

前編:基本給は「成果」ではなく「成長」で決まる!?

個人の能力を最大化するために、何が必要なのかを問い続ける

――「フルスイング」の各制度は突然はじまったものというより、これまで運用されていた各種制度を見直し、一つの意思として改めてメッセージされたように感じます。このプロジェクトは、なぜ必要だったのでしょうか。

DeNAでは、人(社員)こそ会社の成長を牽引する存在であるという考え方が根底にあります。会社が成長するために、人事も経営も「今、DeNAで働く人たちの能力は本当に最大化されているのか?」という問いに向き合い続けてきました。

人の能力は、一人ひとりがやりたい仕事に取り組んでいるときに大きな力を発揮しますし、その際の成長度合いも大きい。社員が向かいたい方向に向かっているかを可視化するために、DeNAでは3年ほど前から「キャリアマネジメントアンケート」を実施しています。月に1回全社員に回答してもらうアンケートで、仕事における「能力発揮」や「やりがい」の度合いが可視化されます。

「フルスイング」プロジェクトを開始する前のデータでは、「能力発揮」と「やりがい」、双方に高いスコアを付けているメンバーは全体の6割くらいでした。

言いかえるならば、全社員の4割がどちらかに満足していないということで、私たちはこれこそDeNAの大きな伸びしろだと捉えたんです。

――「誰もが自分の能力を活かして『フルスイング』してほしい」というメッセージなんですね。

まさにそうです。たとえば、「クロスジョブ制度」。本人の希望で業務時間の最大30%まで他部署の仕事を兼務することができる「社内副業」制度ですが、これによって「他部署の仕事を経験してみる」ということが可能になりました。DeNAでは、以前から公募制のキャリアチェンジ制度は存在しましたが、これだけでは「自分のやりたいことが明確にある人」の願いは叶っても、「今の仕事も楽しいけれど、他も見てみたい人」には使い辛い側面があります。他部署の仕事を‟副業”したうえで、正式な異動を検討しても良いし、「やっぱり今の部署が自分のフルスイングできる場所だ」と気づくことにも意味がある。社員が自分の可能性を模索することを応援し、能力の最大化を目指しているものなんです。

「発言責任」「全力コミット」など、DeNA Quaityを人事制度の運用に込める

――社外から見ると、「フルスイング」は異動・副業制度が際立っていますが、メンバーがマネージャーの仕事ぶりについて率直に意見する「360度フィードバック」も特徴だと感じました。マネージャー育成にはとても有効だと思いますが、メンバーからの意見の集め方など、コツはあるのでしょうか。

前提として、あくまでも評価ではなくフィードバックですから、「マネージャーがもっとあなたの能力を引き出せるように、今あなたが感じていることを教えてください」というメッセージを発信しています。

――評価ではなくても、「上司の好き嫌い」でコメントするようなことは起こらないのでしょうか。

DeNAの360度フィードバックは、記名式なんです。自分の名前でマネージャーへ伝えるので、そこには「発言責任」が生じます。「発言責任」とは、発言する内容に責任を持てということではなく、役割に関わらず自分が思ったことを発言すること自体が重要という意味です。だからこそ、肯定的な意見も辛辣な意見も、中途半端な気持ちではコメントできないですし、‟マネージャーのための贈り物”として書かれていますね。

――崔さんも、マネージャーとして‟フィードバックされる側”の立場を務めてこられていますが、実際にはどのような効果を感じられましたか。

メンバーが率直に回答してくれるので、自己評価とのギャップが大きいことに気づけるなど、大変ありがたかったです。たとえば、自分自身ではメンバーの目標達成に向けて全力で支援していたつもりだったのに、「とても支援してくれる」が5割しかいないときもありました。また、実名制なので、メンバー個別に対応していたやり方が本人に効いているか、確かめることもできます。

そうした意見をフィードバックしてもらえるのは、やはりマネージャーの顔色を気にすることなく「マネージャーとしてどう成長してほしいのか」を念頭に本気で意見してくれる環境だからこそ。360度フィードバックは、先ほど(インタビュー前編)でもお話した、「発言責任」というDeNA Qualityが浸透しているからこそ成立する制度だと思います。

――DeNAの人事制度は、DeNA Qualityが前提になって生まれているものだからこそ、他社が形だけ真似しようとしても上手くいかないかもしれませんね。

そうですね。360度フィードバックでも人事評価の場面でも、「DeNA Qualityの実践」という観点で意見するのが前提。私自身、事業部でマネージャーをやっていた時代から、メンバーとの普段の会話でも「それって‟全力コミット”できている?」など、DeNA Qualityになぞらえることを意識していました。

結局は、「すべての人事制度は、自社が何を実現するためにあるのか」という問いに帰着すると思います。人事制度が‟形だけ“にならないようにするには、その観点に紐づいて企画・運用していかなければならないと考えていますね。

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