ソーシャルキャピタルとは?人事部門が取るべき施策や効果、事例紹介

(画像=Orbon Alija/iStock)

ソーシャルキャピタルは「社会関係資本」とされており、社会や組織の効率化にもつながる一方、効率化によってさらにソーシャルキャピタルが発展していくという相互依存的な関係にあります。

ソーシャルキャピタルは地域社会だけでなく、ビジネスの組織でも役立つ考え方で、特に人事部門や経営層は注目すべき概念です。

ソーシャルキャピタルとは?

ソーシャルキャピタル(Social Capital)とは、「社会関係資本」と訳され、人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴であると定義されています。

これは米国の政治学者でハーバード大学ケネディスクール教授ロバート・パットナム氏が書籍「哲学する民主主義」(原題「Making Democracy Work」)で提唱した考え方です。

現在はさまざまな議論があるものの、同氏の考え方は日本国内においても1つの有力な定説になっています。

ソーシャルキャピタルは、社会の効率性を高める要素ですが、これは社会の在り方を考える上で重要な概念です。

ソーシャルキャピタルと人々の活動は密接な相関関係があると考えられています。

具体的には、市民活動を通じてソーシャルキャピタルが培養される一方、ソーシャルキャピタルが豊かであれば市民活動も促進されるという相互的な関係なのです。

ソーシャルキャピタルの構成要素

ソーシャルキャピタルには、信頼規範ネットワークという3つの構成要素があると紹介しました。

そこで、ここではそれぞれの要素を具体的に解説していきます。

信頼

信頼は、取引をスムーズにさせる重要な要素です。

信頼関係があれば、品質、納期、安全性といったあらゆる観点において、相手を疑ってチェックすることが程度の差こそあれ不要になり、取引も活発化されます。

パットナムは「知っている人に対する厚い信頼」と「知らない人に対する薄い信頼」という2つに分け、特に後者は社会で幅広い人物との関係を促進すると指摘。

また、信頼があれば自発的な協力も促すと考えており、ソーシャルキャピタルの形成に役立つと認識しています。

規範

パットナムが重視する規範とは「互酬性」を持つ規範であり、つまり相互に利益があるウィンウィンの関係を目指すことが重要だという考え方です。

互酬性のある規範はさらに2つに分類され、等価値のものを同時に交換する行為と、現時点では不均衡でも将来的に均衡状態になる交換行為があります。

特に後者は、短期的には相手に利益をもたらし長期的には当事者全体の利益につながると指摘しており、利己心と連帯心のバランスを重視しているのです。

ネットワーク

ネットワークとは、周辺の人物、コミュニティや団体などとのつながりを意味しますが、パットナムは上下関係を伴う垂直的ネットワークと、横並びの水平的ネットワークの2種類に分けて考えました。

パットナムは、相互利益を目指して協力を引き出す上で重要なのは後者の水平的ネットワークだと指摘。

血縁関係などを超えた関係性の中でも、特にフェイストゥフェイスの関係が重要だと考えました。

ソーシャルキャピタルの効果

ソーシャルキャピタルは社会の効率性を高め、市民活動を活発化すると紹介しましたが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか。

ここでは、内閣府国民生活局が公表している調査結果を参考に、ソーシャルキャピタルがもたらす実社会への効果を3つ紹介します。

ボランティアが活発な地域ほど、犯罪率・失業率低い

日本国内の状況を分析すると、地域でボランティア活動が活発であるほど、犯罪率や失業率が低いという傾向が見られることがわかっています。

この背景として同レポート内で指摘されていたのは、ボランティア活動は地域での水平的な人々のネットワークや連携力を強化してソーシャルキャピタルを培養する効果があり、その結果、地域の安全や安心といった好ましい状況を生み出しているのではないかという仮説でした。

また、逆の作用も考えられます。

つまり、ソーシャルキャピタルが蓄積されている地域だからこそ、相互協力的な態度が引き出され、ボランティア活動が活発になるだろうという仮説です。

つまり、この分析に従えば、ソーシャルキャピタルは地域のネットワークを強化して平和や安定に貢献する効果が期待できると考えられます。

日常生活面への効果

ソーシャルキャピタルは、健康や教育といった日常分野にも効果をもたらすという指摘もあります。

具体的に紹介しましょう。

健康については、地域間のつながりが強ければ、相互に健康に対する情報共有を行い、健康意識が自然に高まる効果が期待できます。

また、そういったネットワークがあれば、生活の中で健康に関する啓発運動やボランティア活動などが行われやすくなるという効果もあるでしょう。

教育については、JICA研究所が発表した「ソーシャル・キャピタルと国際協力」というレポートで詳しく分析されています。

レポートでは、ソーシャルキャピタルが豊かであれば、教育に関わるさまざまな関係者が積極的に協力を行うことで、教育目標を実現するための方針や手段にも好ましい影響をもたらす可能性があると解説されていました。

経済面への効果

また、経済面への効果も期待されています。

同志社大学が「ソーシャル・キャピタルが地域経済に与える影響」というレポートを公表していますが、これによると「近畿における中心市街地活性化事業に取り組む市町において、事業効果の差にはソーシャル・キャピタルが影響を及ぼしている」という分析結果が報告されているのです。

特に外部との橋渡しに積極的なタイプのソーシャルキャピタルによって情報ネットワークが拡大すれば、ビジネスや就職などあらゆる場面で役立ち、経済発展などにもプラスの効果をもたらすとされています。

ソーシャルキャピタルの事例

パットナムが行なったソーシャルキャピタルの研究の中で、代表的なものにイタリアとアメリカの事例があります。

それぞれ書籍にまとめられ、政治や学術分野に影響を与えました。

ここではそれぞれの事例を要約して紹介します。

イタリア南北

パットナムが特に力を入れたのはイタリアの地方分権の研究で、これには20年間にもわたる期間が費やされました。

これは先述した書籍「哲学する民主主義」において説明されています。

パットナムが研究した1970年代頃のイタリアは約20の地方政府が設置されており、地域ごとに特色が異なりました。

北イタリアの各州では水平的ネットワークが発達しており近隣集団やスポーツクラブといった市民の活動が積極的であったのに比べて、南イタリアの各州は垂直的ネットワークが強く積極的な市民活動がそれほど見られなかったという発見に至ったのです。

Bowling Alone

パットナムはイタリア研究の後、アメリカに拠点を移して活動し、書籍「孤独なボウリング」(原題「Bowling Alone」)の中でアメリカのソーシャルキャピタルは衰退しつつあるという認識を示しました。

その原因として女性の社会進出による地域コミュニティへの不参加、引越しといった人の流動性の増加、プライベートを重視する価値観の普及といった現象が指摘されています。

人事部門が取り組むべき施策

ソーシャルキャピタルといった社会的ネットワークは、地域やその他のコミュニティだけでなく、企業組織の中にも存在します。

人事部門の担当者であれば、ソーシャルキャピタルを培うのと同じように、企業内にも信頼のネットワークを形成したいと考えるのではないでしょうか。

以下では、具体的な施策例を紹介します。

フリーアドレス

フリーアドレスとは、オフィスにおいて従業員が固定の席を決めずに自由に席を選べるという制度です。

席が固定されている一般的なオフィスであれば基本的に決まった人物としか関わらないため、人間関係や視野が固定化されてしまう傾向がありますが、フリーアドレスであればネットワークが広がりやすく、視野や発想も多様化する効果が期待できます。

メンタリング制度

メンタリング制度とはメンター制度とも呼ばれ、新人などを相手に先輩・上司などがメンターとして付き、成長の手助けをしたりキャリアパスの見本を示したりする制度です。

これにより、新人はネットワークの基盤ができ、例えばメンターを通して社内人脈を広げるといった効果もあります。

社内交流

社内交流とは、部署や役職を問わずにさまざまな立場の従業員が集まり、交流の機会を持つことです。

代表的なものとしては、全社的に社員が集まるキックオフイベントや、新年会・忘年会などがあります。

普段の業務ではあまり関わりが薄い人物とも交流できるため、人脈が広がる効果が期待できるでしょう。

社内イベント

社内イベントとは、テーマを決めた社内の催しです。

業務に関係するテーマとしてはアイデア・成果発表会などがあります。

その他、普段の業務を離れて営業日以外に運動会や社員旅行を開催するといったものもあり、仕事中には見られない素の状態で関係を深める効果が期待できるでしょう。

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