人的資本を戦略的に活用する人事マネジメントは、採用や評価といった従来の人事管理とは異なり、経営戦略と直結する仕組みとして注目されています。
人事マネジメントによって、必要な人材の採用から育成環境の整備、適材適所の配置までを一貫して設計することで、人的資本を最大限に活用した企業造りが可能です。
本記事では、人事マネジメントの基本概念や具体的な実行領域、成功に必要なプロセスや注意点などを解説していきます。
目次
人事マネジメントとは?人的資本の最適化を目指すこと

人事マネジメントとは、企業の人的資本を最大限活用し、経営目標や組織の持続的成長をはかることです。
企業が持つ「ヒト・モノ・カネ・情報」の中でも、人的資本(人的リソース)は、最も重要な資源です。
どれだけモノが優れていたり、カネが豊富にあったりしても、働くヒトが的確に動かなければ企業は成長しません。
人事マネジメントによって、人的資本を戦略的に管理・運用して最適化すると、組織全体の成果につながり生産性を高められます。
人事マネジメントが従来の人事と異なるのは、経営目標と一体化している点です。単なる採用・育成・配置・評価ではなく、経営戦略に沿った運用を行うため、組織全体への影響力が強くなります。
人事マネジメントとは、単なる業務管理ではなく、経営戦略と連動した人的資源の最適化を通じて、企業の成長と組織の活力を向上させる戦略的な取り組みといえます。
人事マネジメントが重要な3つの理由

人事マネジメントが組織運営に必要不可欠な理由は次の3つです。
- 組織にマッチする人材の獲得
- 時代とともに変化する働き方
- 他社との差別化
人事マネジメントを行う際は目的をはっきりさせなければなりません。なぜ、必要なのか理解しておくと、より自社の目的や戦略に沿ったマネジメント体制を構築できます。
人事マネジメントが重要な理由を詳しくみていきましょう。
組織にマッチする人材の獲得
人事マネジメントが重要な理由の1つに、組織にマッチする人材の獲得が挙げられます。
組織の目標や経営方針にマッチする人材の採用は、企業成長に欠かせません。
企業にミスマッチな人材が入社してしまうと、早期離職による採用コストの増加や働くモチベーションの低下による生産性の低下などが発生してしまいます。
そのため、企業成長には企業理念や業務内容に適合する人材像を定義し、戦略的に人材を獲得する体制の構築が必要です。
以下に組織にマッチする人材の例をまとめました。
| 組織の特徴 | マッチする人材 |
| 新しい市場への参入や新サービスの創出を重視する企業 | ・失敗を恐れず挑戦できる人・不確実な状況に対応できる人 |
| 品質を重視し、信頼性に重きをおく企業 | ・細部まで注意を払える人・マニュアル遵守を徹底できる人 |
| 顧客満足度を重視する企業 | ・相手の立場で対応できる人・柔軟に顧客要望へ対応できる人 |
上記のように、人事マネジメントによって組織に適した人材を獲得することで、人的資本を最適化し、事業成長を支える体制の構築が可能です。
時代とともに変化する働き方
人事マネジメントが求められる理由には、時代とともに変化する働き方もあります。
近年の働き方には、さまざまな変化が起こっています。
このような時代に沿った働き方に沿っていないと、社員のモチベーションの低下や採用率の低下につながりかねません。そのため、企業は人事マネジメントを行い、労働環境を柔軟に改善していく必要があります。
従業員の生活スタイルや価値観に沿って働き方を改善すると、従業員の働きやすさにつながり、事業全体の生産性も向上します。
人事マネジメントによって労働環境を一から見直すことは、中長期的な企業成長にもつながるため重要です。
他社との差別化
他社との差別化も人事マネジメントが必要な理由の1つです。
人事マネジメントによって企業独自の魅力を創出できれば、他社との明確な差別化が可能になります。
以下に差別化と得られるメリットの具体例をまとめました。
| 差別化の内容 | 得られ得るメリット |
| 独自の評価制度や研修プログラム | 求職者や社員に「制度が整っている企業」として認識される |
| 明確なキャリアパスやスキルアップの支援 | 定着率や働くモチベーションの向上 |
| 公平性や透明性の高さ | ストレスフリーな環境による組織の団結力の向上 |
上記のように、制度や評価、成長機会の提供などで他社にはない魅力を従業員へ提供することで、企業は強みを発揮でき、優秀な人材の獲得や生産性の面で優位な立場を築けます。
何をする?人事マネジメントで実行する6つのこと

人事マネジメントで具体的に実行する施策には以下6つが挙げられます。
- 必要な人材の採用
- 人材育成環境の整備
- 評価制度の見直し
- 人材の適切な配置
- 成果や能力に見合った処遇
- ライフステージに沿った休職や復職・退職
人事マネジメントが必要とはいうものの、漠然としたイメージしかできていない人も多いでしょう。上記6つの施策を押さえて、自社で行う際の具体的なイメージをしていきましょう。
必要な人材の採用
人事マネジメントの最初のステップは、組織に合った人材の採用です。
必要な人材の採用率を高めるためには何を改善すべきか、人事マネジメントを通して見直していきます。必要な人材の採用方法として以下が挙げられます。
- 求めるスキル・経験・行動特性などの明確化
- 採用チャネルの選定
- 組織との適合度を計測するための面接方法の構築
- 現場社員との座談会形式面接の実施
上記のように、採用前の段階から実際に働く場面までを想定した採用プロセスを整えることで、入社後のミスマッチを防げます。
また、予算に余裕のある場合は、採用チャネルを複数抱え、広く認知してもらうことでも採用率を高めることが可能です。
人材育成環境の整備
人事マネジメントでは、人材育成環境の整備も実施します。
社員が体系的に学べ、事業に必要なスキルを獲得できる環境を整えると、即戦力の採用や外注のコストを削減できるため、持続的な成長が実現できます。
育成環境の整備で実施する内容には以下の例が挙げられます。
- 社員のキャリアステージごとに必要なスキルの明確化
- 定期的な1on1ミーティングの実施
- リスキリング支援制度の導入
育成環境は、社員ごとの役職や役割、現状の知識・スキルなどに合わせて整備しなければなりません。例えば、新入社員には基礎研修、管理職にはマネジメント研修などが適しています。
また、定期的な1on1ミーティングによって、社員のキャリアや目標、課題などを引き出すことで、より個別に最適な育成環境を提供できます。
特に、DX化やIoT化によるデジタル人材の不足は社会全体の課題ともなっており、ITスキルを取得できる環境整備はどのような企業でも必要になるでしょう。
評価制度の見直し
人事マネジメントを実施するうえで、評価制度の見直しも必要になります。
公正な評価制度は、従業員のモチベーションと定着率に影響します。働いている人材のやる気を高められれば、生産性が向上し事業を大きく前進させられます。
評価制度の見直しでは、以下のポイントが重要です。
- 成果とプロセスの両面を評価する
- 定量的指標と定性的指標を適切に使い分ける
- 面談やフィードバックなどの改善機会を提供する
成果のみを評価するだけでは、社員の仕事に対する姿勢や取り組み内容を把握できません。「どれだけ努力したか」のプロセスにも着目して評価することで、社員の積極性を引き出せます。
このような、成果とプロセスを可視化するためにも、評価の指標には定量的指標(売上・KPI)と定性的指標(協働姿勢・リーダーシップ)の組み合わせがおすすめです。
人材の適切な配置
人事マネジメントでは、企業の成長に沿った戦略的な人材の配置を行います。
人材の強みや適性を踏まえた配置を行うことで、社員の能力を最大限に発揮し効率アップにつながります。
人材配置を最適化するためのステップは次のとおりです。
- 社員の性格特性やスキルの把握
- 部門間異動
- キャリア志向を踏まえた異動希望制度の導入
- 人材データベースの構築
人材配置を行うには、まず社員のことを知る必要があります。この際、性格診断や適性検査などのアセスメントツールを導入すると、社員の適性をより正確に把握可能です。
そのうえで、能力を発揮できる部門への異動を実施し、PDCAを行いながら実際の働きぶりを確認していきます。ローテーション制度を活用して、一定期間ごとに部門異動をすると、幅広い観点で適性を見極められるでしょう。
また、人材データベースを構築してデータを活用すれば、新入社員や中途採用へも活かせるためスムーズな配置が可能です。
成果や能力に見合った処遇
人事マネジメントでは、成果や能力に見合った処遇の実施も重要です。
従業員の成果や能力に応じた適切な処遇は、組織全体のモチベーションを引き上げ、人材の定着と成長を支える仕組みです。
具体的な処遇方法としては以下が挙げられます。
- 成果連動型の賞与やインセンティブ制度
- スキル取得や資格に応じた昇給制度
- 公平で透明性のある昇進基準
効果的な処遇には、成果・スキル・役割などの軸に沿った公平な運用が欠かせません。
成果連動型の報酬では、KPIや売上目標などの明確な数字に応じた賞与やインセンティブを導入します。スキル面では、資格や社内試験などを通じて昇給要件を設け、努力が報われる仕組みを整えます。
このような昇格や昇給のルールを、誰でも閲覧できる社内ポータルで公開し、透明性を担保すると、従業員の納得感を高めることが可能です。
ライフステージに沿った休職や復職・退職
人事マネジメントを通じて、ライフステージに沿った休職や復職、退職などの制度の見直しも実施していきます。
結婚や出産、介護などの人生の転機に対応できなければ、優秀な人材が離職するリスクが高まります。柔軟な休職・復職・退職制度は、従業員の安心感を得るために必要な制度です。
具体的な制度内容の例は以下のとおりです。
- 育児・介護休暇の取得支援
- 復職時の短時間勤務やリモート勤務の導入
- セカンドキャリアを見据えた退職支援
例えば、育児や介護の時間を確保できる、短時間勤務で復職できる制度が整備されていると、将来のキャリアプランをイメージしやすくなります。
また、復職した際に業務へスムーズに入るための研修制度があると、社員の不安も払拭できます。
さらに、セカンドキャリア支援制度の導入によって退職後の不安を抑えられ、中長期に渡って業務に集中しやすい環境が構築可能です。
このような、社員の不安を少しでも取り除くために、ライフステージに沿った休職や復職、退職に関わる制度を整えることが重要です。
人事マネジメントの成功に必要な4つのプロセス

人事マネジメントを成功に導くためには、以下4つのプロセスを戦略的に踏むことが不可欠です。
- 現状把握と経営課題の明確化
- 目標と人事戦略の策定
- 必要な人的リソースの具体化
- 人事マネジメント計画の実行・改善
各プロセスを押さえておかなければ、施策の方向性が散漫になり、成果につなげられません。人事マネジメントの効果を最大化するためにも、各プロセスを理解していきましょう。
現状把握と経営課題の明確化
人事マネジメントを成功させるには、組織の現状と経営課題の把握が欠かせません。
目標を達成するためには「どのような課題があり、どのような施策が有効か」を事前に熟考しなければ、取り組む内容も決められません。
また、現状と目指す姿とのギャップを把握しなければ対策が的外れになり、かけたコストが無駄になるだけでなく、生産性や定着率の低下を招きます。
例えば、他社が成功している事例をそのまま取り入れても、自社の課題やリソースとは相性が悪く、まったく効果がでないケースもあります。
人事マネジメントの効果を最大化するためにも、まずは自社のことをよく知るフェーズが重要です。
目標と人事戦略の策定
現状と課題の整理が完了したら、目標と人事戦略を策定していきます。目標設定と人事戦略の策定は、人事マネジメントの大枠を明確にします。
例えば、中長期にわたって社員が活躍できる企業を目指すなら、育成や労働環境の重点的なマネジメントが必要です。
目標と戦略は、最終的なゴールを決め、達成するために必要な要素を書き出すことで、具体的に策定可能です。
また、売上や顧客数などの定量的かつ具体的な数字を盛り込むことで、日々の業務に必要な
タスクも明らかになります。
このように、方向性を明確にすると組織全体にも浸透しやすくなり、従業員のモチベーションにも好影響をもたらします。
必要な人的リソースの具体化
人事マネジメントの成功には、必要な人的リソースの具体化も欠かせません。
「どのような人材が」「何を」「どの程度」実行できるかを具体化し、採用や育成、配置に活かすことで目標達成に効果のある戦略を立案できます。
人的リソースの具体化には以下のような手法が採用されています。
- ジョブディスクリプションの作成
- タレントマネジメントシステムの活用
- 人員計画表の作成
上記の方法によって、役職ごとに必要なスキルや経験をわかりやすくし、どのような部門でどのような働き方を求めるかが明確になります。
施策に必要なヒトを把握することで、企業成長に効果のある人事マネジメントを実現できます。
人事マネジメント計画の実行・改善
人事マネジメントの戦略が決まれば、実行と改善を繰り返していきます。
どのような人事マネジメントも、最初からうまくはいきません。策定した人事計画の効果を検証しながら改善を重ねることで、企業の成長を最大化する人事マネジメントを作り上げられます。
反対に、人事マネジメントの検証と改善を行わなければ、形骸化や効果の低下を招く恐れもあります。
具体的な実行と・改善サイクルは次のとおりです。
- 実行:組織全体とコミュニケーションをとりながら施策を運用する
- 評価:定着率や達成状況などの定量・定性指標で評価する
- 改善:改善点を把握し適宜修正を行い次の計画に反映する
人事マネジメントの効果を持続していくためには、実行・検証・改善のサイクルを組織文化に定着させることが必要です。
人事マネジメントの成功に欠かせない4つのポイント

人事マネジメントの成功には、以下4つのポイントが重要です。
- 経営戦略と人事マネジメントの連動
- 人事制度の柔軟な対応
- 社内での透明性と公平性の重視
- 自主性の尊重
上記の要素が抜けたまま戦略だけを進めても、施策が現場に浸透せず、組織と人材の両方に悪影響を及ぼします。効果的な人事マネジメントを策定するためにも、上記のポイントを押さえておきましょう。
経営戦略と人事マネジメントの連動
人事マネジメントで何よりも大事なことは、経営戦略との連動です。
人事マネジメントの目的は、企業の成長につながる効果的な人事戦略です。そのため、経営戦略と連動できていないまま施策を実行しても、本来の目的を達成できません。
また、人事施策と経営戦略の乖離は、現場の混乱を招く恐れもあります。
例えば、現場の状況がわからない経営人のみで人事戦略を考えても、効果的な施策は立案できません。現場の状況を理解しなければ、事業に必要な人材やスキルを正確に把握できず、イメージだけでマネジメントを実施してしまう恐れもあります。
経営幹部と現場とのコミュニケーション機会を設けたり、定期連絡窓口を設置したりして、お互いの合意をとりながら戦略の設計を行う必要があります。
人事制度の柔軟な対応
人事マネジメントでは、人事制度の柔軟な対応も必要です。
固定的な制度では、多様化する働き方や価値観に対応できず、採用率や既存の従業員のやる気の低下にもつながりかねません。
時代や個々のニーズに対応できる柔軟な人事制度によって、さまざまな状況に最適な人事戦略を実行でき、競争力を高められます。
フレックス制やリモートワーク、副業など、これまで導入してこなかった新しい制度に積極的にチャレンジすることで、企業の新しい可能性も発見できるでしょう。
人事マネジメントでは、どのような場合でも柔軟な思考が必要です。
社内での透明性と公平性の重視
透明で公平な人事制度は、人事マネジメントを進めるうえで重要なポイントです。
企業成長に重きをおいて人事マネジメントを実行すると、成果主義や能力主義に陥りがちです。
従業員のプロセスや姿勢、適性なども考慮し、公平で透明性のある評価制度の設計や機会の提供が組織全体の成長に欠かせません。
従業員の不安を払拭して、目の前の業務に100%集中してもらうことが、企業の成長に最も効果的です。
評価・昇進・報酬のルールを明文化し、社内公開することで、従業員は自らの努力が正当に評価されていると実感し、組織へのエンゲージメントが高まります。
自主性の尊重
人事マネジメントで見落とされがちなのが、自主性の尊重です。
人事マネジメントは、細かく設計した計画どおりに遂行していくことが正しいと考えられがちです。しかし、従業員の意思や自主性が尊重されていないと、モチベーションの低下を招きかねません。
1on1面接や提案制度などを活用し、積極的に社内の声を拾い上げることで、組織全体の成長を促す人事戦略の立案にもつながります。
従業員本人にも目標や戦略を考えてもらい、企業の成長戦略を自分ごととして受け取ってもらうと能動的に取り組む文化を醸成できるでしょう。
まとめ

人事マネジメントは、単なる人的資本の管理ではなく、経営目標の達成に直結する戦略的な人的資源の活用です。
少子高齢化による人材不足や働き方の多様化が進む現代で生産性を最大化するためには、人事マネジメントが欠かせません。
会社を構成する最も重要な要素である、人的資本を最大限に活用するためにも、人事マネジメントを取り入れてみましょう。
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