成果主義のメリットとデメリット|企業の成功例・失敗例まで紹介

バブル崩壊を機に、日本企業で広く導入されるようになった人事評価制度が「成果主義」です。

成果主義は、年齢や勤続年数に関係なく実績に基づいて評価される仕組みであり、優秀な人材の確保やモチベーション向上などのメリットがあります。一方で、公平な評価が難しいことや、チームワークの低下などが課題です。

本記事では、成果主義のメリット・デメリットや企業の成功事例から、効果的な活用方法を解説します。

成果主義の導入を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。

なお、人事評価手法のひとつであるバリュー評価(企業の価値観や行動指針に基づく評価手法) については、下記の記事で解説しています。

また、コンピテンシー評価(行動特性をもとにした評価制度) については、下記の記事をご参照ください。

成果主義とは

成果主義とはを示した画像

成果主義とは、仕事の成果や業績をもとに評価を行い、それに応じて給与や昇進などの処遇を決定する制度です。

年齢・勤続年数・学歴などの要素は評価の対象にはならず、あくまでも実際の実績が重視されます。

成果主義の特徴は、成果を上げた従業員が正当に評価される点です。そのため、従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保につながる効果が期待されます。

一方で、短期的な成果に偏るため、長期的な人材育成の遅れやチームワークの低下につながりやすいのがデメリットです。

成果主義を効果的に導入・運用するには、明確な評価基準を設けるとともに、長期的な視点で人材を育てていく姿勢が求められます。

なお、成果主義の導入効果については、下記の記事で解説しています。制度導入の成功ポイントを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

年功序列・能力主義との違い

成果主義・年功序列・能力主義の違いを、以下にまとめました。

項目成果主義年功序列能力主義
評価基準仕事の成果や実績勤続年数や年齢能力やスキル、業務知識
昇給・昇進の条件成果を上げた場合勤続年数に応じて自動的に上昇能力向上に応じて評価
向いてる職種営業職などの、短期的成果が求められる職種技術職など、長期的にスキルを積む職種研究開発や専門職など、多様な能力が必要な職種

成果主義は短期間の成果を重視する制度で、即時的な結果が求められる職種に適しています。

一方、年功序列は勤続年数を重視する制度で、組織の安定性や継続性を求める場合に向いています

能力主義は、スキルやポテンシャルをもとに評価するため、専門性や創造性が問われる職種の場合に導入するのがおすすめです。

企業の方針や職種の特性に応じて、最適な評価制度を選択しましょう。

成果主義の導入背景と現状

成果主義が日本で注目され始めたきっかけは、1990年代のバブル崩壊による企業業績の悪化でした。

当時、多くの企業では年功序列制度が主流でしたが、業績に関係なく人件費が増加するという課題がありました。そこで、従業員の実績に応じて報酬を決定する「成果主義」が導入されるようになります。

また、近年進められている働き方改革の影響も、成果主義の導入を後押ししています

現在では、花王やホンダをはじめとする多くの企業が成果主義を採用し、実際に業績を伸ばしています。

成果主義を導入した企業の成功例と失敗例

成果主義を導入した企業の成功例と失敗例を、それぞれ紹介します。

  • 成功例①:花王
  • 成功例②:ホンダ
  • 失敗例①:マクドナルド
  • 失敗例②:富士通

自社で成果主義を導入する際の参考にしてください。

成功例①:花王

花王株式会社では、1965年から社員の能力開発に力を入れ、2000年頃には現在の成果主義制度を整備しました。

同社は、職務や部門ごとの特性を踏まえて「職群制度」を導入し、それぞれの職群に適した評価基準を設けています

例えば、研究部門では短期的な成果だけでなく、長期的な研究の進捗も評価対象に。生産部門では作業スピードだけではなく、作業の習熟度も重視されます。

職群に応じた評価基準により、社員が納得感を持って働ける評価制度の実現とモチベーションの向上、人材の定着につなげています。

成功例②:ホンダ

本田技研工業株式会社(ホンダ)は、1992年から管理職に対して成果主義を導入しています。

具体的には、定期昇給の廃止・年俸制の導入・裁量労働制の採用などを通じて、個人目標の明確化を図りました

結果、管理職の意識改革が進み、成果を重視する企業文化が根付きました。

さらに、公正で透明性の高い評価を実現するために、評価基準や仕組みを公開。成果を測定しやすい制度を整えることで、社員の納得感や信頼感の向上につなげています。

失敗例①:マクドナルド

日本マクドナルドは、2006年に成果主義を導入したと同時に定年制を廃止しました。成果主義の導入は若手社員の成長を促し、実力主義の企業文化を築くことを目的としていました。

しかし、ベテラン社員が自身の成果を優先するようになり、若手の育成が後回しにされる事態が発生。結果、ノウハウの継承が進まず、組織全体の人材育成にも悪影響を及ぼしました。

このような課題を受けて、同社は2012年に定年制を復活。若手育成の重要性を再認識する転機となりました。

失敗例②:富士通

富士通は1993年に成果主義を導入し、社員のモチベーション向上と競争力の強化を目指しました。

しかし、失敗を恐れて新たな挑戦を避ける社員が増加。さらに、数値化しにくい業務が軽視され、顧客対応の質も低下しました。

以上の問題が重なった結果、業績が悪化。成果主義の見直しを、余儀なくされました。

成果主義のメリット4つ

次に、成果主義を導入するメリットを4つ紹介します。

  1. モチベーション向上につながる
  2. 人件費の適正化が図れる
  3. 優秀な人材の確保につながる
  4. 生産性が向上する

順番に見ていきましょう。

1.モチベーション向上につながる

成果主義のメリットは、従業員のモチベーション向上につながる点です。成果を上げた分だけ給与や昇進に反映されるため、努力が評価に直結します

また、年齢や勤続年数に左右されないため、若手社員でも実績次第で高評価を得られます。特に営業職やプロジェクト型の業務では、成果主義の仕組みが成果につながりやすいでしょう。

公平な競争環境が整うことで社員全体の意欲が高まり、組織全体の生産性向上も期待できます。

2.人件費の適正化が図れる

成果主義を導入することで、人件費の適正化が図れます。

年功序列制度では、実績に関係なく勤続年数に応じて給与が上がるため、無駄な人件費が発生しやすい状況でした。

一方、成果主義では成果を上げた社員にのみ報酬が支払われるため、実績に結びつかないコストを削減できます。

また、成果が出ない社員への過剰な支払いがなくなることで、やる気のある社員に対して適正な報酬を分配できるようになります。

3.優秀な人材の確保につながる

成果主義の導入は、優秀な人材の確保に貢献します。

成果に応じて給与や昇進が決まるため、「実力を正当に評価されたい」と考える人材にとって魅力的な制度です。特に、年功序列では評価されにくい若手や中途採用者にとっては、成果次第で早期の昇進や高収入が期待できる点が魅力に感じるでしょう。

さらに、外部からも「実力主義の企業」というイメージが定着し、採用活動にもプラスの影響を与えます。

成果主義は優秀な人材を惹きつけ、定着させる有効な仕組みです。

4.生産性が向上する

成果主義は、従業員一人ひとりの生産性向上に貢献します。成果が評価や報酬に直結するため、従業員は効率的に業務を進めようと工夫し、無駄を省く意識が高まります

また、短期的な成果だけでなく長期的な目標達成も評価に含めると、継続的な生産性向上への動機づけも可能です。

特に、営業やプロジェクトベースの職種では成果を数値で把握しやすく、目標達成への意識がさらに強まるでしょう。

成果主義の導入は企業全体のパフォーマンスを高め、競争力の強化にもつながります。

成果主義のデメリット4つ

次に、成果主義を導入するデメリットを4つ紹介します。

  1. 公平な評価が難しい
  2. チームワークが低下する可能性がある
  3. 外的要因に左右されやすい
  4. 離職率が高まるリスクが上がる

成果主義のデメリットも考慮して、導入を検討してください。

1.公平な評価が難しい

成果主義の課題の一つに、公平な評価が難しいことがあげられます。

営業や開発など、成果が数値で表れる職種は評価しやすい一方で、管理部門やバックオフィスのように成果が見えにくい職種では、公正な評価が困難になりやすいです。

また、短期的な成果ばかりが重視される傾向があり、中長期的なプロジェクトや間接的な貢献が見落とされる可能性もあります。

誰もが納得できる評価を実現するためには、評価基準の細分化や評価者への研修などの対策が欠かせません。

2.チームワークが低下する可能性がある

成果主義は個人の成果を重視するため、チームワークが低下するリスクがあります。個人の評価が給与や昇進に直結することで、他者のサポートよりも自分の成果を優先する傾向が強まるためです。

さらに、社内での競争が激しくなりすぎると、対立や足の引っ張り合いが生じる可能性もあります。

チームワークの低下を防ぐには、チーム単位での評価や、協力・貢献に対するインセンティブを取り入れるとよいでしょう。

3.外的要因に左右されやすい

成果主義の欠点の一つは、外的要因の影響を受けやすい点です。個人の努力や能力に関係なく、市場動向や景気の変動によって業績が左右されると、評価が不公平になる可能性があります。

例えば、営業職では景気悪化や取引先の事情により売上が落ちた場合、本来の実力とは無関係に評価が下がるケースも考えられます。

評価の不公平を防ぐには、外的要因を加味した評価基準の設定や、成果だけではなくプロセスや努力も評価に含める工夫が必要です。

4.離職率が高まるリスクが上がる

成果主義には、離職率が高まるリスクがあります。成果を出せない社員は、昇給や昇進が見込めず、モチベーションが低下しやすくなるためです。

特に評価基準が不透明だったり、短期的な成果ばかりを重視したりすると、将来への不安が強まり離職につながる可能性があります。

離職のリスクを軽減するには、評価基準の透明化や上司によるサポート体制の強化に加え、成果への貢献度や努力も評価対象にする仕組みが効果的です。

なお、年功序列制度については、下記の記事で解説しています。伝統的な制度と成果主義の違いを比較したい方は、ご覧ください。

成果主義に向いている人の特徴

成果主義は「成長意欲が旺盛な人」や「結果に責任を持てる人」に適した制度です。

成長意欲が高い人は成果を出すために主体的に行動し、スキル向上にも積極的に取り組むため、成果主義の環境で高く評価されやすくなります。

また、成果主義はプロセスよりも結果を重視するため、目標達成に向けて工夫や努力を惜しまない人や結果に責任を持てる人にも向いています。

以上の特性を持つ人は、成果主義を導入している企業のほうが自分の実力を発揮しやすく、成果を上げやすいでしょう。

成果主義導入の5つのポイント

次に、成果主義の導入をスムーズに進めるポイントを5つ紹介します。

  1. 評価基準を明確にする
  2. 社員が納得するまで説明する
  3. チームワークを維持する仕組みをつくる
  4. 給与体系を見直す
  5. 評価者を育成する

成果主義を導入するポイントを理解して、自社の社風や目的に合った制度を設計しましょう。

1.評価基準を明確にする

成果主義を導入する際には、評価基準を明確にしましょう。職種によって、評価すべき項目や基準が異なるためです。

評価基準が曖昧だと、社員は何を達成すればよいのか分からず、モチベーションの低下につながります。

例えば、営業職なら売上額や契約件数、開発職ならプロジェクトの進捗や成果物の完成度など、職種に応じた具体的な指標を設ける必要があります。

また、長期的な貢献やプロセスも評価に含めることで、より公平な制度になるでしょう。

社員が安心して成果を追求できる環境を整えるためにも、評価基準の細分化と透明化が重要です。

2.社員が納得するまで説明する

成果主義を導入する際には、社員が納得するまで制度の内容を丁寧に説明しましょう。評価基準や報酬の決定方法、評価のタイミングなどが不明確だと、社員の不安や不満につながりやすくなります。

特に、年功序列から成果主義へ移行する場合は、「なぜ導入するのか」「どのようなメリットがあるのか」を具体的に伝えることが大切です。例えば、成果を上げれば給与が上がるなどの将来的なメリットを明確に示すとよいでしょう。

説明する際は、説明会や個別面談を活用して、社員からの質問や意見には真摯に対応する姿勢が求められます

社員が制度に納得していれば、公平な評価が行われている安心感が生まれ、業務への意欲向上にもつながります。

3.チームワークを維持する仕組みをつくる

成果主義では個人の成果が評価されやすいため、チームワークが損なわれない仕組みづくりが欠かせません。個人の実績ばかりを重視すると、情報共有や協力の機会が減り、チーム全体のパフォーマンスが低下するおそれがあります

成果主義を運用しながらもチームワークを維持するには、チーム全体の貢献や協力姿勢も評価対象に含めるのが有効です。

例えば、チーム単位での目標達成度を評価する方法や、他メンバーへのサポートや知識共有を評価基準に加える方法などがあります。

成果主義を導入する際は、個人とチーム両方の成果がバランスよく評価されるように意識しましょう。

4.給与体系を見直す

成果主義を導入する際は、既存の給与体系も見直す必要があります。年功序列型の制度は、勤続年数に応じて給与が上がりますが、成果主義では実績に応じた報酬が基本です。

例えば、基本給は職務や役割に応じた固定給とし、業績に応じて支給される「成果給」を別に設けるなど、二段階の給与体系にする工夫が求められます。

また、短期的な成果だけでなく長期的な貢献も評価に含めるため、ボーナスやインセンティブ制度の設計も重要です。

柔軟な給与制度に移行することで優秀な人材を確保しやすくなり、社員のモチベーション向上や長期的な定着にもつながります。

5.評価者を育成する

成果主義を導入するうえで、評価者の育成は重要なポイントです。

評価者が適切に成果を判断できなければ公平性や納得感が失われ、社員のモチベーション低下につながります。そのため、評価基準の理解を深めるためのケーススタディや、効果的なフィードバック方法を学ぶトレーニングの実施が効果的です。

また、評価者の主観や経験に偏らないよう第三者の視点を加えたり、複数人による評価体制を整えることで評価の公正性が高まります。

評価者のスキルを高めると社員は評価に納得しやすくなり、成果主義の円滑な運用が実現できるでしょう。

なお、クロスアポイントメント制度については、下記の記事で解説しています。組織間で人材を共有する新しい働き方に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

成果主義の問題点を踏まえて検討しよう

成果主義には、成果に応じた公平な評価や優秀な人材の確保などのメリットがある一方で、評価基準の不明確さやチームワークの低下などのデメリットも存在します。

導入時には評価基準の明確化をはじめ、短期的な成果だけでなく長期的な成長やプロセスも評価に含める工夫が欠かせません。

本記事で紹介した課題もふまえて、成果とプロセスの両面をバランスよく評価できる制度設計を検討しましょう。

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