【特別対談(前編)】「働き方改革実現会議」民間議員×人事評価制度のプロが語る、成功企業の進め方~白河桃子先生×高橋恭介社長~

女性の生き方を中心に論じながら、日本の労働市場に対して鋭い視点で提言を続けられているのが、白河桃子先生です。政府が目玉としていた「働き方実現会議」においても民間議員の1人として参加するなど、企業の実態から政策に至るまで広い視野を持つオピニオンリーダーといえるでしょう。

そんな白河先生と、株式会社あしたのチーム代表 高橋恭介との対談が実現しました。立場は違えども、さまざまな企業の働き方改革や労働市場の変化を知る2人は、働き方改革の現状をどのように捉えているのでしょうか。前編では、中小企業の現状や先進事例がテーマとなりました。

【Profile】
白河 桃子(しらかわ とうこ)
ジャーナリスト/作家/相模女子大学客員教授
住友商事、外資系金融などを経て著述業に。山田昌弘中央大学教授との共著『婚活時代』(ディスカヴァー携書)で婚活ブームを起こす。少子化対策、女性のキャリア・ライフデザイン、女性活躍推進、ダイバーシティ、働き方改革などをテーマに著作、講演活動を行なう一方、「働き方改革実現会議」「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」などの委員として政府の政策策定に参画。

高橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム代表取締役社長
大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。その後ベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまでに成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位にまで成長させた。2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立。これまで1,000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。

働き方改革を経営改革として捉え、覚悟を持って取り組めるか。

―まずお話いただきたいのは、中小企業の働き方改革についてです。報道などから伝わってくる印象では大手企業先行のようなイメージも強いですが、中小企業が改革を行うことに対して、お2人はどうお考えですか。

高橋恭介(以下、高橋):中小企業の経営者とお話していると、最低賃金は上昇を続け、人材採用も難しくなっている中で、事業を継続していくには社員に残業をしてもらわなければとお考えの方々も多いのが実態だと感じます。

そのような方々に私が敢えてお話しているのは、「給与に対する投資」をもう一度お考えいただきたいということ。設備投資やプロモーションに対する投資だけでなく、一人ひとりの社員に対する投資にも真剣になっていただきたいということです。

給与に対する投資にはやり方が2つあって、1つは多くの方がイメージする「実額を上げる」こと。そしてもう1つは、「実質賃上げ」。つまり1時間でも労働時間を削減して社員の収入が同じであれば時給単価が上がるので、これは賃上げにあたります。このやり方であれば、金銭的な痛みが発生しない投資ですよね。

生産性を上げることは給与に対して投資することにも繋がる。この観点で働き方改革に取り組まれている企業も増えてきています。

白河桃子先生(以下、白河):1つ言えることは、働き方改革は「残業削減」とか「ITの導入」とか「評価を変える」といった施策に注目されがちですが、本質は経営改革だと捉えていただきたいです。

昭和の時代に成功していた企業経営のビジネスモデルが時代おくれになっていたら改める。経営者のみなさんには働き方改革自体を目的とするのではなく、これによって経営課題を解決できるのかに目を配ってほしいですね。

だからこそ、これは経営者の決断・覚悟がものすごく問われること。その意味では中小企業の場合、経営者の決断がすぐ会社の隅々にまで浸透するので、着手すれば実は大手企業よりも改革のスピードが早い。まさに社長の覚悟次第なんです。

―中小企業の成功事例についても教えていただけますか。

白河:中小企業で働き方改革に成功しているところは、「なぜ取り組むのか」が明確です。象徴的な例をあげると、ダイバーシティ100選に選出された地方企業の事例です。

この企業では、地方にありながら突然海外との取引が増え始めたそうです。インターネットの時代だからこそ起きた事業変化だったのですが、海外とのやりとりを担っていたのは、英語が堪能な女性ただ一人でした。

その人に子どもが生まれ、会社から片道2時間の場所に引っ越すことになったから退職しますと申し出があったそうです。辞められては仕事が回らないし、同じスキルのある人を地方で採用するのは簡単ではない。

そこで社長が決断されたのは、設備投資をして在宅のリモートワークを可能にしたそうなんです。するとこの女性は往復4時間の通勤がなくなり、時短ではなくフルタイムで働けるので収入も維持できたというのです。

でも、実はすぐに制度化した訳ではないそうです。この方だけ特別扱いに見えてしまうことを考慮して、一度泣く思いで契約社員になってもらったそうなんですよ。周囲の方が「彼女がフルタイムの正社員で働くことに価値がある」ということに気づいてもらってから、正社員に戻したそう。これくらい周囲への配慮をしながら進めているから上手くいっているんだと感じましたね。

このように、本当に必要なら上手くいくと思いますが、「やらされ感」でやるくらいなら失敗してしまうので、中途半端な気持ちなら手を付けない方がいいのではないかというのが私の意見です。

高橋:弊社のお客さまで象徴的なのは、事業承継に絡んだ事例ですね。

高度経済成長期に事業を成功させた先代のお父様は会長職で、息子さんが数年前に社長に就かれたという企業でした。その企業では、会長のこだわりで毎月給与袋を手渡すことを一種のフィードバックの場とされていたんですが、経営者の主観で社員を評価する色合いが強く、社長は時代にそぐわないと弊社の評価制度を導入する決断をしていました。

ところが、ある日会長に報告したところ「給与を外部のモノサシで決めるとは何事だ」と大反対されたそうです。弊社も同席した話し合いの場では、社長は涙ながらに「認めてくれないなら経営に責任が持てないから、会社を辞める」と会長に迫っていました。評価制度や経営改革に対する本気をみせてくれたんです。

白河先生も論じていらっしゃいますが、過去の成功体験からいかに脱却するかが中小企業の課題です。社員の成果に対してそれ相応の評価をするべきだということに、この社長は気づいていらっしゃったんですね。

経営者の期待と社員のほしいものを繋げられるのは、私はやはり評価の仕組みだと思います。掛け声をあげたり、ノー残業デーを設けたりといったキレイごとだけでは上手くいきません。会社も社員も損をしないとか、何が得なのかを、きちんと捉えてリンクさせていくことが大切だと思います。

生産性が高い人ほど損をする人事制度では、働き方改革は上手くいかない。

―では、働き方の必要性を感じて覚悟を決めた企業は、まず何から手を付けるべきなのでしょうか。

白河:結論から言うと、私は「アクションチェンジ」を先にはじめた方がいいと考えています。制度やルールを変えてしまいましょうということですね。

よく「マインドセット」つまり社員の意識改革が先なのでは、と言われますが、変わるまで1~2年くらいかかってしまうので、マインドセットは長期で取り組まないと難しいんです。働き方改革に成功された大和証券の鈴木会長が「日本人は横並び意識が強いから、ある程度形を決めることが重要」だと仰っていたのですが、まさしくその通りだと思いました。

でも、世の中では「早帰り」が形骸化する場合や、「20時消灯」にしても1分後にはオフィスの灯りが一斉につくという実態もありますよね。これはまったく意味がない「アクションチェンジ」です。

なぜそうなってしまっているかというと、生産性を上げて早く帰る人が得をしないからではないでしょうか。結局、旧来型の人事制度では、働き方改革を頑張った人は残業時間を削減した分手取りが減ってしまいます。

得にならないなら誰も進んでやろうとは思わない。給与に反映させたり、自己研鑽に投資できる仕組みをつくったりと、さまざまな仕掛けを施しているところが上手くいっているし、働き方改革に本気度を感じます。

高橋:白河先生の仰る通りです。先日、ある報道でも「残業上限規制」によって8.5兆円の所得移転が起きると言われていました。8.5兆円がどこにいくかといえば、このままでは単に企業の営業利益に加算されるだけですが、それでは多くの労働者にとってはまったく納得のいかないことでしょう。

このような事柄が報道に出てくるようになったのは、浮いた残業代をどこに投資するのか、真剣に考えることを促されているのだなと感じます。

それを象徴するように、弊社のお客さまでも生産性が高い人ほど得をする「ノー残業手当」を支給している企業様が増えています。この1年で世の中はガラリと変わっていて、もはや「固定残業手当」の中小企業はブラック企業と見られてしまう風潮があります。

つまり、固定残業手当は、社員の労働時間管理をせず無制限に働かせるための道具なんだというのが世の中の認識になりつつあります。でも、固定残業手当ではなくノー残業手当にした途端、同じ「みなし残業」ではあるものの受け取られ方は真逆ですし、社員の意識も変わっていきます。

白河:つまり、企業はこれまで時間管理をしていなかったのが、せざるを得なくなったということですよね。これはいい傾向です。

高橋:手当分を実労働時間で割ると、早く帰った方が時給は高くなる訳です。生産性向上にメリットを出すことは、非常に重要です。

白河:すごくいい話を聞かせていただきました。たとえ30時間分の残業代込みだとしても、なるべく短くした方が個人にとっては得だし、その方が能力は高いのだとマインドが変わらなければ上手くいかないのでしょうね。

日本人は真面目だから、30時間分が固定給に含まれているのなら、30時間は残業しなければならないという意識になりがちです。ここから変えていく必要があります。

高橋:さらに言えば、管理職は部下の残業時間に関しても目標を持ち、評価していく必要があります。ある種の強制力を持って、自分のベネフィットと痛みと実残業をリンクさせなければ上手くいかない。ちゃんと関連づけている企業ほど成功しています。

白河:そうですね。これまでは上司の評価といえば「売上」でした。その中に労働時間の管理、部下の育成も入ってくる時代になったと、私も感じています。

高橋:分かりやすい例をあげると、ある企業では営業の残業時間に20時間という基準を設けていて、1時間超過するごとに売上達成率が1%ずつ下がっていくという仕組みを導入しています。すると、売上120%達成している人でも、場合によっては未達成になってしまう。達成指標の中で分かりやすく表現されているなと感じました。

白河:とても分かりやすいし、面白い仕組みですね。今のお話に近い考え方を導入しているのが、大手人材グループの企業です。一定時間の中で目標達成できなかった人は表彰対象外とするそうで、生産性向上に大きく効果があったようですよ。

――後編では、政府が指針を示した「残業時間の上限規制」に関する話題や、理想の評価制度についてお話いただきました。次回もお楽しみ

白河桃子先生 著作『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)の紹介はこちら

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