エスノグラフィーとは?効果やメリット、ビジネス成功事例を解説

(画像=Chainarong Prasertthai/iStock)

エスノグラフィーは、ビジネスにおいて対象者の行動を研究するために役立つ調査手法の1つです。

今回は、エスノグラフィーの意味や調査方法、活用することの効果や成功事例を紹介します。

エスノグラフィーとは?

エスノグラフィー(ethnography)とは、集団・社会の生活や行動様式を、フィールドワークによって調査する手法や、記録文書を指します。

データや統計を活用して調査する定量的な研究とは対照的で、インタビューや観察などを重視する手法です。

もともと、社会学や文化人類学などの領域で用いられていた調査手法で、特定の文化や民族を研究する場面などで活用されてきました。

この言葉の語源は、ギリシア語の「ethnos」(民族)と「graphein」(記述する)の組み合わせです。

エスノグラフィーの調査方法

エスノグラフィーはもともと民族研究などで活用されていた手法ですが、現在はビジネスでも用いられています。

そこで、ここでは2つに分けて調査方法を解説しましょう。

民俗学や文化人類学の分野においては、民族のコミュニティの内部に直接入り込み、生活様式や行動、風習などあらゆる観点から観察を行います。

そこで、狩猟採集・農耕牧畜の方法や、食事の方法、儀式などを具体的に観察・記録していくのです。

記録方法は、文字や写真、スケッチの他、動画、音声などによるものなどもエスノグラフィーの手段として含まれます。

ビジネス分野においても、基本的には同様です。

例えば、人事関連部門においては重要な業務の1つに人材開発がありますが、対象人材をパターンや数字といった概念で捉えるのではなく、人材へのインタビューや現場視察などを行うこともエスノグラフィーの事例と言えます。

エスノグラフィーの効果

エスノフラフィーをビジネスに導入するとどのような効果があるのでしょうか。

ここでは、導入によって期待できるメリットについて、事例にも適宜触れながら紹介します。

質の高いデータの入手

エスノグラフィーを用いれば、質の高いデータを入手できるようになります。

一般的なアンケート調査といった定量調査は、調査結果が数字として現れるため端的に概要を把握しやすいものの、深い情報まではわからないという点がデメリットです。

一方、エスノグラフィーは定量的な情報よりも、行動パターンや特性などを定性的に分析できるという特徴があります。

そのため、例えば人事担当で「従業員アンケートでは現場の様子を正確に理解できない」と悩むケースでは、その解決策になるでしょう。

リアルな現場を理解できる

現場の内情や考え方など、現場のリアルな様子を理解できる点もメリットです。

エスノグラフィーでは、担当者が現場に足を運んで仕事の様子を観察することで、実際にどのように業務に取り組んでいるのかを把握できます。

例えば、顧客対応や会議の様子、休憩の方法など、仕事に関する幅広い取り組み方を広く観察できるのです。

また、インタビューなどによって、決して数字からは見えてこないような要望や不満といった深い情報も入手できます。

仮に期間を決めて人事担当者や管理者が現場内部で調査を行えば、正確な状態が分かるでしょう。

先入観にとらわれない調査

先入観にとらわれず、現実の情報にもとづいた正確な調査が可能になります。

例えば、人事部門が現場の要望や改善案などを受け付けていたり、人事評価・待遇などへの満足度をアンケート調査によって把握したりしているケースを考えましょう。

それ自体は良い取り組みですが、これはあくまでも外部から現場を把握しようとする取り組みであるため、表面的な情報しか入手できない可能性があります。

また、情報も限られているため、誤った先入観が形成されてしまうリスクもあるのです。

しかし、エスノグラフィーを用いれば、現場内部で観察し、時にはインタビューなどで直接的に意見を吸い上げるため、誤った認識を持つことを防ぐ効果があります。

言語化されないデータの入手

また、言語化が難しいデータを入手できるというメリットもあります。

人間には、言葉にできる「形式知」と言葉にできない無意識の「暗黙知」があるとされており、アンケート調査では前者は把握できる可能性がありますが、後者は把握することができません。

エスノグラフィーでは、こういった暗黙知や、現場が無意識に行なっている暗黙の習慣も観察などによって理解できる点がメリットです。

他の調査方法との違い

エスノグラフィーの特徴をより深く理解するには、他の調査方法と比較することが効果的です。

ここでは、アンケート調査、グループインタビュー調査、デプスインタビュー調査との違いをそれぞれ解説します。

アンケート調査

アンケート調査は、パターン化した質問を作成し、回答者はそれに沿って回答させることでデータを収集する定量調査の方法です。

アンケート調査は、質問しなければわからなかったと思われる回答を収集することが主な目的になります。

アンケート調査の方法は、口頭(対面や電話)、書面(FAXやメール)、Webページといったシステムを経由する方法が一般的です。

アンケート調査は、用意した質問に沿って回答を求めるため、調査の一貫性を保ちやすいという特徴があります。

一方、エスノグラフィーは質問だけではなく、観察や自由なインタビューといった方法も駆使する点が違いです。

グループインタビュー調査

グループインタビュー調査とは、複数の回答者を相手に、直接話を聞く形式の調査方法です。

対話形式のため、質問者は相手の様子を見ながら質問を深掘りでき、回答者は自由に発言できるため、柔軟に意見を引き出しやすいという特徴があります。

エスノグラフィーでもインタビュー調査を実施することはありますが、それだけに頼るわけではありません。

実際に仕事をしている様子や対象者のコミュニケーションの様子など、ありのままの状態を観察することにも重きを置いており、その点が特徴的です。

デプスインタビュー調査

デプスインタビュー調査とは、回答者とマンツーマン形式で直接対話する調査方法です。

グループインタビューと似ていますが、一対一形式であるため、対象者を深く理解できます。
また、他の人には言いづらいことも言いやすいといった側面もあるでしょう。

デプスインタビュー調査は、定性的調査の1つとして対象者を深く理解できるという特徴がありますが、エスノグラフィーとは異なり、現場の素の状態を観察するわけではありません。

エスノグラフィーの成功事例

エスノグラフィーを導入するにあたっては、企業の成功事例が参考になります。ここでは3つの事例を紹介しましょう。

富士通「組織・業務の課題を可視化」

富士通は、エスノグラフィーの手法を業務改善に生かす手法を開発することに成功し、顧客へのソリューション提供に役立てています。

富士通は、事業の1つとして、クライアント企業の業務改善や業務プロセス変革といった目的を達成するために、ICTシステムなどを活用したソリューションを提供している企業です。

このために富士通がまず実施したのは、業務改善を実現する上で妨げとなっている原因を追求し、現実的な改善案を策定するという取り組みでした。

そこで、まずは解決策ありきではなく、現場の実態を観察分析する「コーポレート・エスノグラフィー」を取り入れたのです。

現場の業務を詳細まで観察・記録することで、問題点の洗い出しに成功。

効果的な業務方法を提案することで、クライアントのオペレーションを効率化したのです。

花王「アンチエイジング」

花王は消費者調査において、エスノグラフィーを用いて消費者理解を深めることに成功しています。

該当の調査は、アンチエイジングについての消費者の考え方や行動理由を明らかにすることが目的です。

具体的には「人々はエイジングについてどのように認識しているのか」「エイジングに熱心な理由は何か」といった疑問の答えを明らかにし、新しい視点を発見するのが狙いでした。

調査においてはカメラやビデオで撮影を行い、話す言葉だけでなく声や動作など些細な反応も記録するよう努めたと言います。

こういった取り組みによって、アンチエイジングに 対する人々の考え方について一定の結論を得ることに成功し、消費者に共通した心理があることも把握できました。

読売新聞「新聞の読まれ方を観察」

読売新聞は、読者調査においてエスノグラフィーを用いて、新聞の読まれ方を理解することに成功しました。

新聞ビジネスの課題として、読者の最低限のプロフィールや発行部数などは分かるもの読者の読み方が分からなかったり、インターネット広告とは違って広告効果が見えづらかったりすることが挙げられます。

そこで、読売新聞はモニターを集めて普段通り読んでいる姿を観察・記録し、インタビューも実施することで読み方を細かく把握することができたのです。

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