現物支給とは?給料の代わりになる物・ならない物、制度の仕組み

通常、社員の給料といえば金銭で支給するのが一般的ですが、食事や住宅など、それ以外の経済的利益を「現物支給」できるケースもあります。

今回は、現物支給として認められるケース、また非課税となる現物支給の例などを詳しく解説していきます。

現物支給とは

「現物支給」とは、給料を金銭で支払う代わりに食事、住宅(社宅・寮)の貸与、自社製品、通勤定期券といった経済的利益を社員に支給することを指します。

労働基準法では、原則として給与は必ず通貨で支払われるべきと定められており、現物支給は禁止されています。しかし、労働組合のある企業において労使協定を締結するなど、例外が認められるケースも少なくありません。

給与の代わりにできるのか?

労働基準法には、現物支給について下記の通り明記されています。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

労働基準法第24条

条文の冒頭にあるように、給与は必ず通貨で支払われる必要があり、たとえば食材、定期券、貴金属などの品物を給料代わりとすることはできません。

しかし、現代社会において現金の直接支給も現実的ではありません。労働者の同意があれば当然、銀行振込によって給料を支払うことができるほか、労使協定を結ぶことで現物支給を行うことができるケースもあります。

こうした例外が認められる一方、企業が労働基準法24条に違反して現物支給を行なった場合は労働基準監督署から調査を受ける可能性があります。また、30万円以下の罰金刑が適用されるケースもあります(労働基準法120条)。

現物支給の対象となるものは?

現物支給の対象となるものは、主に以下の4つです。

  1. 物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡したことによる経済的利益
  2. 土地、家屋、金銭その他の資産を無償または低い対価により貸し付けたことによる経済的利益
  3. 福利厚生施設の利用など2以外の用役を無償または低い対価により提供したことによる経済的利益
  4. 個人的債務を免除又は負担したことによる経済的利益

上記は原則として給与所得の収入金額とされ所得税が課税されますが、例外となるものもあります。

  • 職務の性質上欠くことのできないもので主として使用者側の業務遂行上の必要から支給されるもの
  • 換金性に欠けるもの
  • 換金性の評価が困難なもの
  • 受給者側に物品などの選択の余地がないもの

上記に当てはまる特定の現物支給には金銭による給与所得と異なる性質が認められ、課税上も給与所得とは異なった取り扱いが定められています。

(引用元)国税庁

現物給与制度とは

厚生年金保険・健康保険の被保険者が企業から労働の対償として現物支給を受ける場合は「労働保険の保険料の徴収等に関する法律第2条第3項」に基づき、その現物を通貨に換算した上で給与と合算し、保険料額の算定基礎となる標準報酬月額を計算する必要があります。

中でも、現物で支給されるものが食事と住宅の場合、その価額が都道府県ごとに定められているため、被保験者の人事・労務・給与の管理が行われる事業所が所在する地減ごとに算出しなければなりません。なお、自社製品などその他のもので支給される際は、原則として時価に換算されます。

食事が現物支給される場合
住込労働者で1日2食以上、食事の現物給与が常態となっている場合に認められます。しかし、下記すべてに当てはまる場合は福利厚生として取り扱うこととなっています。

  • 給食によって賃金の減額を伴わないこと
  • 労働協約、就業規則等に定められて明確な労働条件の内容となっている場合でないこと
  • 給食による客観的評価額が社会通念上、僅少なものと認められる場合であること

また、被保険者が費用の一部を負担している場合、算出方法は次の通りです。

  • 被保険者の負担額が標準価額の2/3未満
    →標準価額と被保険者負担額との差額を報酬として算入
  • 被保険者の負担額が標準価額の2/3以上
    →算入しない

住居が現物支給される場合
住居施設が供与されない者に対して、住居の利益を受ける者との均衡を失しない定額の均衡手当が一律に支給される場合、現物支給が認められます。

2020年4月改定 現物給与価額

2020年4月より、41都道府県における食事の現物給与価額が改正されました。たとえば、東京都であれば1日あたり710円、1か月あたり21,300円の価額が設定されています。被保険者が費用の一部を負担しているかどうかで計算方法が異なります。

価額の2/3未満を食事代として徴収している場合
現物給与価額(21,300円)-食事代の徴収額(10,000円)=11,300円

価額の2/3以上を食事代として徴収している場合
現物による食事の供与はないものとして取り扱われるため、現物給与価額は0円となります。

現物支給の課税

前述の通り、現物支給は原則として給与所得の収入金額とみなされ所得税が課税されるものの、換金性に欠けるためその評価が難しいことから一部は非課税として規定されています。具体的な、非課税の対象となる現物支給について例をあげていきます。

所得税法及び租税特別措置法等の法令で規定されているもの

  • 通勤用定期乗車券1か月当たり100,000円まで
  • 乗船中の食料船員法第80条の規定により、乗船中の船員に食料を無料で支給する場合
  • 制服やユニフォームなど職務の性質上、着用しなければならない制服やその他の身の回り品
  • 強制居住家屋国家公務員宿舎法に規定する無料宿舎、または職務の遂行上の必要から指定された場所に居住することを要求される場合
  • 低利融資等による利益役員を除く給与所得者に対する住宅用家屋、またはその敷地の購入資金の低利融資等による利益などで、一定の要件を満たすもの
  • ストック・オプションの行使による利益一定の要件を満たす税制適格のストック・オプションを行使して株式を取得した場合

取扱通達により規定されているもの

  • 永年勤続者の表彰記念品
    おおむね10年以上の勤続者を対象とする。2回以上表彰を受ける者については、およそ5年以上の間隔をおいて行われるもので、社会通念上相当な記念品
  • 創業記念品等
    その処分見込み価額が10,000円以下の記念品等
  • 商品、製品等の値引販売取得価額以上で、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上の価額で値引販売する商品等
  • 残業宿日直者の食事
    通常の勤務時間外における残業、宿日直者に対して支給する食事
  • 掘採場勤務者に支給する燃料
    掘採場勤務者に対して厚生施設の設置に代えて支給する燃料
  • 寄宿舎等の光熱費の負担
    寄宿舎等の生活に通常必要な電気、ガス、水道の使用料で各人ごとの使用部分の金額が不明のもの
  • 金銭の無利息貸付け等
    1. 災害等による臨時多額の生活資金の貸付けを受けたことによる利息相当額の経済的利益
    2. 使用者における借入金の平均調達金利など合理的な借付利率により利息を徴している場合に生じる経済的利益
    3. 1及び2以外の貸付けによる経済的利益で年間5,000円以下のもの・用役の提供等
      事業として行っている用役の無償または低い対価での提供(多額なもの、役員だけを対象とするものを除く)
  • レクリエーション費用の負担
    社会通念上、一般に行われているレクリエーションの費用(任意の不参加者に金銭を支給する場合や役員だけを対象とする場合を除く)
  • 生命保険料等の負担
    使用者が負担した役員または使用人を被保険者とする生命保険等の保険料で一定の要件に該当するもの
  • 少額な保険料の負担
    保険料等の負担で、その月中の金額が300円以下のもの
  • 損害賠償金等
    使用者が負担する役員又は使用人の行為に基因する損害賠償金等で、その行為が使用者の業務の遂行に関連するもの、その他一定の要件に該当するもの
  • ゴルフクラブの入会金
    1. 法人会員として入会した場合の入会金で役員または使用人が専ら法人の業務に関連して利用するもの
    2. 無記名式の法人会員制度がないため役員または使用人を個人会員として入会させた場合の入会金で、その入会が法人の業務遂行上必要と認められ、かつその入会金を法人が資産に計上したもの
  • ゴルフクラブの年会費等
    1. その入会金が法人の資産として計上されている場合の年会費等
    2. 使用者の業務遂行上必要と認められるプレー代等
  • レジャークラブの入会金等
    1. 使用者が負担する入会金で上記「ゴルフクラブの入会金」に準ずるもの
    2. 使用者が負担する利用費用で上記「ゴルフクラブの年会費等」に準ずるもの
  • 社交団体の入会金、経常費用等
    1. 法人会員制度がないため役員または使用人を個人会員として入会させた場合の入会金及び経常費用で、その入会が法人の業務の遂行上必要であると認められるもの
    2. 1の経常会費以外の費用で、その費用が法人の業務遂行上必要であると認められるもの
  • ロータリークラブ等の入会金、経常会費等
    1. 入会金及び経常会費
    2. 経常会費以外の費用でその会員である特定の役員または使用人が負担すべきものと認められるもの以外のもの
  • 食事の支給
    給与所得者がその食事の価額の1/2以上を負担し、かつ使用者の負担額が月額3,500円以下のもの
  • 深夜勤務者の夜食代
    深夜勤務者の夜食代(金銭)で勤務1回につき300円以下のもの
  • 貸与住宅(社宅)
    使用者が役員または使用人に貸与した住宅等の経済的利益(家賃相当額)で一定の要件に該当するもの
  • 宿日直料
    勤務1回につき4,000円(食事が支給される場合には4,000円からその食事の価額を控除した残額)までのもの
  • 学資金等
    学資金、職務上の知識、技術等を習得させるための費用で一定の要件を満たすもの
  • 祝金品、見舞金等
    祝金品、見舞金等で社会通念上相当なもの

(参照)厚生労働省日本年金機構

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