コントロール・バンディングとは?効果やメリット、正しい導入手順を解説

コントロール・バンディング(control banding)は、化学物質による健康被害から労働者を守るため、取り扱う物質の有害性や危険性について簡易的な評価を行う仕組みの一つです。

国内では2016年から、化学物質に対するリスクアセスメントの実施義務が定められており、厚生労働省では簡易ツールの提供を通じて、コントロール・バンディングの実施を推進しています。

コントロール・バンディングの導入で期待できる効果やメリットを確認した上で適切に仕組みを導入し、職場の安全衛生管理・活動に役立てていきましょう。

コントロール・バンディングとは

コントロール・バンディングは、化学物質の取り扱いに特化したリスク管理手法の一つです

1999年に「COSHH essentials」として、イギリス安全衛生庁(HSE)により初めて開発されました。

包括的な内容を定めた「一般管理ガイダンスシート」と業界に特化した「直接アドバイスシート」に分かれており、中小企業にとっても利用しやすいのが特徴です。

2003年には、化学品の分類及び表示に関する世界調和システムについて(GHS)国際連合から勧告がなされ、化学品の危険有害性に関する情報提供基準が世界的に統一されました。

国際労働機関(ILO)でも、第292回理事会の専門家会議において「コントロール・バンディング」という言葉を使い、開発途上国向けに「COSHH essentials」の国際標準化へ取り組むことを表明しました。

現在ILOでは、国際化学物質安全性カード(ICSCs)や「International Chemical Control Toolkit」というツールを用意して、全世界に対して労働の場における安全衛生水準の向上への取り組みを実践しています。

なお、これらの取り組みに先立ち、経済活動で使用される化学物質の有害性について評価を促進していくことなどが、1990年のILO第170号条約(化学物質条約)で採択されています。

コントロール・バンディングの目的

コントロール・バンディングの目的は、化学物質の有害性や取扱量・揮発性・飛散性に基づいて、実施する作業ごとに危険度(リスクレベル)を4段階に分類し、必要な対策を明確化することです。

化学物質に起因する労働者の健康被害を防ぎ、安心・安全な労働環境を確保するという点で、SDGs(持続可能な開発目標)の一つであるディーセントワークへの取り組みにもつながります。

また、作業前の安全確認を徹底させることにより、「ゼロ災運動」の動機付けにも効果的でしょう。

コントロール・バンディングの特徴とメリット

コントロール・バンディングでは、作業項目ごとの注意事項が国際的に確立されているため、専門知識がなくてもリスクアセスメントの準備に取り組めます。「厚生労働省版コントロール・バンディング」を利用すると便利です。

厚生労働省版コントロール・バンディング(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」)

1.濃度測定が不要である

コントロール・バンディングでは、化学物質の許容濃度(ばく露限界値)未満で作業を実施したとみなして、作業に伴う危険又は健康障害(リスク)が発生する可能性を見積もります。

そのため、作業環境ごとに物質の濃度を測定しない状態でリスクアセスメントの準備ができるのがメリットです。

リスクが発生する可能性を数値化することでリスクアセスメントの精度を高めることはできますが、実施には化学物質に関する専門性が必要であることが課題とされています。

新たな工程を導入する場合も、コントロール・バンディングを用いることで迅速にリスクアセスメントが可能です。

2.ばく露限界値が不要である

粉じん作業の場合を除き、ばく露限界値が不明な状態でもコントロール・バンディングによってリスクを見積もることができます。

ばく露限界値は、1日8時間かつ1週40時間程度、通常業務において特定の化学物質にさらされた場合でも、ほぼすべての労働者に健康上の悪影響が生じないとされる濃度です。

対象となる化学物質について、形状(液体又は粉体)・取扱量・取扱温度とGHS区分情報に基づく有害性レベルの4項目から、作業者のばく露濃度を推測します。

GHS区分情報は、化学物質等安全データシート(SDS)に明記されています。また、作業者個々のリスクを正確に評価したい場合は、個人ばく露測定を実施する必要がある点に留意が必要です。

3.厳しいリスク評価

コントロール・バンディングは簡易的なリスクアセスメントツールであるため、安全面への配慮からリスクレベルが厳しめに判定されます。

提示された情報を取捨選択する手間がかかる反面、あらゆるリスクを想定しながら管理対策を検討して、安全性が高い生産環境を構築できるのがメリットです。

情報の客観性は高いため、潜在的な危険を洗い出すツールとしても利用価値があるでしょう。

リスクアセスメントの義務化

2016年6月に労働安全衛生法が改正され、一定の危険有害性がある化学物質を取り扱うすべての業種・事業場で、リスクアセスメントの実施が義務づけられました。

具体的に必要となる対応について、確認しておきましょう。

1.対象の化学物質

対象となる化学物質は、安全データシート(SDS)の交付が義務づけられている次の物質で、2018年7月1日現在では673物質が指定されています。

  • 労働安全衛生法施行令別表第3第1号で定める製造許可物質
    (ジクロルベンジジンなど7物質)
  • 労働安全衛生法施行令別表第9で定める表示・通知義務対象物質
    (エタノール・ガソリンなど666物質)

一定以上の割合で対象物質を含む混合物も対象ですが、医薬品・食品など一般消費者が生活に利用する製品は対象外です。

2.事業者がとるべき措置

製品を取り扱う中で次のいずれかに該当したときは、対象の化学物質を用いた作業を開始する前にリスクアセスメントを実施することが義務づけられています。

製品や物質を譲渡・提供する時のラベル表示も必須です。

  • 原材料として採用するとき
  • 新たな作業方法を採用したり、作業手順を変更したりするとき
  • 製品の取扱いを開始したり、取扱い方法を変更したりするとき
  • 製品や作業の危険性・有害性などに変化が生じた、
    又は変化が生じるおそれがあるとわかったとき

リスクアセスメントの結果、労働者の危険や健康障害へのリスクが判明した場合は、作業手順の改善や保護具の使用(リスク低減措置)について検討します。

その後、実施するリスク低減措置の内容と対象業務、取り扱う化学物質の名称、そしてリスクアセスメントの結果を労働者全員に周知します。

定期的にリスクアセスメントを繰り返し、労働者と製品の安全対策を高めることが大切です。

3.義務化される対象の事業者

対象となる化学物質の製造・取扱いを行う事業者は、規模や業種にかかわらずリスクアセスメントの実施が義務づけられています。

個人事業主(一人親方)の場合も同様です。化学物質に関連する労災リスクを低減する観点からも、小売業者も対象とされています。

リスクアセスメントに関する、電話やメール・訪問による無料サポートも提供されているので、効果的な仕組みの構築に向けて活用してみてはいかがでしょうか。

コントロール・バンディングの手順

化学物質の名称や形状・取扱量の3点が分かれば、コントロール・バンディングの準備はほぼ完了です。

ランク分けが済んだ後、リスクレベルに応じた低減対策を講じることで、労働者の健康はもちろん地域の安全を守ることにもつながります。

早速、コントロール・バンディングを実践してみましょう。

1.有害性のランク分け

GHS分類から化学物質の有害性ランクを判定するために、SDSから「危険有害性」と「有害性情報」を探し出します。

SDSは、化学物質の購入・譲受先から交付されるのが原則ですが、厚生労働省HP「GHS対応モデルラベル・モデルSDS情報」化学物質の名称からSDS情報を検索可能です。

有害性ランクはA・B・C・D・Eの5段階に分けられますが、複数の有害性がある場合は、最高ランクを適用します。また、目や皮膚に障害を起こしうる項目については、有害性レベルとは別にSランクを付けて評価します。

2.取扱量のランク分け

労働者のばく露レベル(許容濃度)は化学物質の取扱量によって変化するため、使用量に応じて3つのランクに分類します。

一つの製品を一貫した工程で生産(バッチ生産)する場合は作業1回あたりの量で、特定の工程に一定時間従事する(ライン作業)の場合は、1日あたりの量で判定します。

取扱量 液体 粉体
大量 トン キロリットル
中量 キログラム リットル
少量 グラム ミリリットル

化学物質への感受性は、肉体的疲労やストレスによって変化しうる点に留意が必要です。

3.揮発性や飛散性のランク分け

化学物質の物理的形態は、揮発性のある液体と飛散性のある粉体に分けられますが、ばく露レベルは大気中への拡散量によっても変化します。

労働者の作業による物理的形態の変化だけでなく、温度や湿度、通風・換気の状態など作業室内の環境によっても形態が変化しうるのが特徴です。

ランク分けのサンプルも紹介します。

【液体】

揮発性 沸点
50℃未満
50℃以上150℃未満
150℃以上

【粉体】

飛散性 形状
細かく軽い(粒が小さい)
結晶状・顆粒状(やや粒が大きい)
固体(外圧なしでは壊れにくい)

4.リスクレベルの判定と低減対策の立案

1~3までで判定した内容をもとに、リスクレベルの判定を4段階で実施します。

化学物質ごとにマトリックス表を作成した上で有害性ランクを決定しますが、有害性ランクEに分類された場合は、表の点数にかかわらずリスクレベルを4にする点に留意が必要です。

また、有害性ランクSに該当する化学物質を取り扱う場合には、メガネや手袋などの保護具の使用を検討します。

リスク低減対策を実施する前に、現場ごとの作業内容や取り扱っている化学物質に関する調査を行うことが、リスクアセスメントの効果を高めるために重要です。

5.管理対策シートの確認

リスク低減対策が決まったら、労働者の健康保護に向けて取り組みを開始します。

厚生労働省が提供する、ILOが作成したリスクアセスメントツール「International Chemical Control Toolkit」を国内向けにカスタマイズした管理対策シートを活用するのが一般的です。

参照すべき管理対策シートを、リスクレベルごとに紹介します。

リスクレベル 対策名 参照シート番号
レベル1 作業場所全体を換気 100番台
レベル2 作業エリアのみを換気 200番台
レベル3 化学物質を外部に漏らさないよう封じ込め 300番台
レベル4 専門家に相談の上対応 400番台
レベルS 個人保護具の使用を検討 SK-100・R-100

参照:「リスクアセスメント実施支援システム(コントロール・バンディング)により出力される対策シートの一覧」

厚生労働省

参照: ILO公式サイト「International Chemical Control Toolkit」

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